二十四、王族とのお茶会
「失礼いたします。最新の靴は、こちらになります」
「まあ、きれい。流石だわ・・・で、こちらは?」
「随分と丈夫そうね。それに、温かそうではあるわ」
フィロメナが取り出したうちの一足、女性用の靴を見たロレンサ王女とメラニア王女は、その洗練された美しさを持つ外見に感嘆し、もうひとつの靴を見て首を傾げた。
「こちらは、内部にも加工した毛皮を使っている、断熱効果に優れた靴となっております」
「へえ。凄いね。どういう想定で作ったものなの?」
フィロメナの説明に、セリオ王子が興味を引かれたように、その無骨な靴を手に取る。
「はい。雪山でも、足が凍えることなく過ごせるよう、考えました。なので、防水効果も高いです」
「雪山・・・。王都では、余り必要なさそうだけど。どこか、辺境にでも頼まれた?」
もしや、何処ぞの貴族の依頼かと、セリオ王子に問われたフィロメナは、いいえと首を横に振った。
「いえ、そうではありません。ベルトラン様が参加されている特別訓練では、真夏に湖に潜って何か作業するなど、過酷なものがあると伺いまして。それならば、もしや真冬には雪山行軍などあるのでは、その際に、もし温かで防水性に優れた靴があれば、少しでも助けになるのではと、勝手に考えてしまいました」
要は、自分の想像からの心配で作ってしまったのだと、フィロメナは恥ずかしく告白した。
「凄いな、その予想。想いが生んだ奇跡か?」
フィロメナの説明を聞き、特別訓練の最高責任者であるセリオ王子は、口元を歪ませ呟く。
「ベルトランを思って、なんて。素敵ね」
「それに喜ぶわ。ロブレス侯爵令嬢・・ああ、もうフィロメナって呼んでもいい?」
「はい。もちろんでございます」
「ありがと。フィロメナが、自分のために考えて作った靴だなんて、ベルトランが泣いて嬉しがる姿が、目に浮かぶもの・・・あら、本当にあったかい」
メラニア王女が揶揄うように、それでいて、本気で感心した様子で雪山用の靴に触れた。
「ベルトランは、第一騎士団の靴を、履けなくとも購入したいと言っていたくらいだからな・・フィロメナ。この靴を、近衛に販売するのか?今からなら、真冬の訓練に充分間に合うだろう」
「いえ。お恥ずかしながら、未だそのようなお話はできておりません。畏れながら、王太子殿下が、こちらの靴をご確認くださり、推薦するに値するとお墨付きをいただければ、これ以上の幸福はございません」
近衛に靴を提供するというのは、簡単なことではない。
これまで、第一騎士団とは提供を結んでいるものの、近衛の壁は高いと知るフィロメナは、この機会に王太子より推薦してもらえればと考えていた。
ずっとでなくてもいいのよ。
この靴を、訓練中のベルトラン様にお届けできれば。
そうできたなら、話すことはおろか、手紙も出せない現状でも繋がりが出来るようで嬉しいと話すフィロメナを、ロレンサ王女はじめメラニア王女、セリオ王子も温かな目で見守る。
「分かった。正式採用とするかの試用も兼ねて導入するよう、訓練教官に伝えよう」
「ありがとうございます!」
喜びに顔を綻ばせ言うフィロメナに、セリオ王子も笑みを浮かべた。
「いや。そなたの靴は定評があるからな。訓練生にも、教官にも喜ばれるだろう。真冬の訓練も、相当に過酷な予定ゆえ。殊に教官は、私の恩師でもあるのだが、寒さが苦手でな。誰よりも喜ぶ姿が目に浮かぶ・・ああ、いや。誰よりも喜ぶのは、ベルトランか」
「そうね。フィロメナが作った靴を履けるというそれだけで、訓練のすべてを合格してしまうかもしれないわ」
「冗談でないかもしれないわよ、お姉様。それにしても、あのベルトランがと思うと、本当に感慨深いものがあるわね。人は変われば変わるもの・・・まあ、ベルトランの場合、フィロメナ限定でだけれども」
まるで、ベルトランの兄姉であるかのように話す三人に、フィロメナもほっこりとした思いになる。
「では、この靴は預からせてもらっていいか?もちろん、契約書を交わすから安心してほしい」
「はい。よろしくお願いいたします」
座ったままではあるが、きちんとセリオ王子に礼をしたフィロメナに、メラニア王女がきらきらとした目を向けた。
「それでね。わたくし達専用の、夜会の靴というのも作ってもらえないかしら」
「はい。もちろん、可能でございます」
その人ためだけの靴。
それはもちろん可能だと、フィロメナはロレンサ王女とメラニア王女の希望を聞き、合わせるドレスがどのような物であるかを聞き、共にデザインを考え始めた。
ベルトラン様。
私が考案した靴の履き心地は、いかがだったでしょうか。
温かく、お過ごしいただけましたか?
その靴を履いて、どのような訓練をなされたのか、お聞きしたいです。
お戻りになる日を、一日千秋の思いでお待ちしております。
「・・・ベルトラン様。喜んでくれるといいな」
今日もまた、渡す予定の無い手紙を書いたフィロメナは、幸せな気持ちで、封蝋、封印を施した。
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