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十六、報告書 ~ベルトラン視点~








「今日は、この湖に潜って宝箱を見つけてもらう。ひとり、ひとつだからな。念入りに選べよ」


 教官が言った言葉に、過去と同じ課題だと、特訓をして来たと、訓練生たちから喜びの声があがる。




 ・・・皆、喜んでいるが。


 本当にこれは、過去に出されたものと、同じ課題なのだろうか。




 湧き上がる歓声のなかで、俺は、特別訓練の過去の課題とまったく同じであることに疑念を持った。




 いや。


 過去に出された課題が、二度出ることは無いと聞いている。


 となると、何かあると考えた方がよさそうだな。




「なかに三つだけ、大当たりがあるからな。張り切って引き当ててくれ」


 騒ぎを注意することもなく言った、その言葉と共に、教官がにやりと笑ったのを認めた俺は、やはり何かあると気を引き締める。


「ベルトラン、どうした?流石のお前も、緊張しているのか?」


「実は、水が苦手とかか?」


「実力者とはいえ、未だ若いからな」


「では、お先に」


「早くしないと、なくなっちまうぞ」


 教官の説明が終わり、俺が、水に入る前の準備として体を動かしていると、次々に声を掛けられた。


 ただ単に気安い者もいれば、その声や視線に含みのある者も居る。




 まあ、仕方ない、か。




 俺は、今回の訓練生のなかで一番若い。


 特別訓練を受けるのは狭き門というだけあって、資格を得るための必要事項をすべて網羅するのに十年かかる、というのが普通なのだと知ってはいても、(とお)以上年上となると、士官学校で師と仰いだ方と年齢が変わらない者もいて、少々やりづらい。


「ベルトラン。からくり、何だと思う?」


 しかし、何を言われても、俺は遊撃の地位を得るだけだと思い切ったところで、フィデルが来た。


 フィデルは俺より五つ年上だが、今回共に訓練を受けているなかでは一番年が近く、日頃から行動を共にすることも多いとあって、俺としても気安い存在で有難い。


 そして、今のからくりという言葉から、フィデルも何かあると確信していることが分かる。


「やはり、何かあると思うか」


「まあね。周りはみんな、喜んでいるけどさ。そんな訳ないでしょ」


 過去にあったという水中宝探し。


 しかも、保有する数を競ったという前回と違い、今回はひとりひとつだと言う。


「まあ、やってみれば分かることか」


「おお。流石、思い切りがいいねえ。ま、その通りだけどな」


 『鬼が出るか、蛇が出るか』などと謳うように言うフィデルと共に歩き、俺も湖の淵に立った。


「おやおや。やけに静かじゃないの」


「ああ。結界だな」


「湖のなかで結界張られて、何をする、ってか。んじゃまあ、行くか」


「検討を祈る」


「ベルトランもな!」


 ぱんっ、と手を合わせてから、俺もフィデルも湖へと飛び込む。


 


 ・・・宝箱・・・あれか。


 


 水中で、ひらひらと手を振るフィデルと別れて潜水して行けば、ほどなく宝箱が見えた。


 見た目は、何らおかしなことは無い。


 しかし、然程大きくないそれに注意深く触れた瞬間、俺の周りに結界が張られ、緊張感が一気に高まる。


 そして、震え出した宝箱から、巨大な魔蛇が姿を現した。




 なるほど。


 こういうことか。




 宝箱に触れれば、魔物との水中戦が始まる。


 それが、今回のからくりだったかと、俺は魔法で自分の頭の周りに空気の膜を作った。


 これで、水中での戦いとなっても呼吸に困ることはない。


 続いて、身体強化を掛ける。


 こうしておけば、水中でも地上とほぼ変わらない動きを取ることが出来る。


 そうしている間に、魔蛇は俺という獲物を認識したのだろう。


 大きく水が動いた、と思った時には、魔蛇の長い胴体が俺に向かって叩きつけられるところだった。


 その動きを見切り、奔流のなか、泳ぎで躱した俺は、威嚇するように金色に光る魔蛇の目を見つめながら、魔法で剣を作り出し、魔蛇の頭を狙う。




 こういう訓練もあるのか。




 地上で、剣に魔法を纏わせ戦ったことはあるが、自身の魔法で生み出したものとはいえ、水中で剣を振るのはなかなかに難しく、俺は、魔蛇の攻撃を躱しながら、その使い方を習得して行く。




 魔蛇よ、学びに感謝する。




 そして、魔蛇との闘いを通じて、魔法で生み出した剣へ流す魔力の量や、有効である魔法を吟味した後、魔蛇の頭を落とした。




 これが、魔蛇の核か。


 なかなかに、綺麗だな。


 フィロメナに、似合いそうだ。


 ・・・いや、しかし。


 魔蛇の核など、嫌がるか?


 だが俺は、自分で手に入れたこれを、フィロメナに持っていてほしいと思ってしまう。




 貴族の令嬢に魔蛇の核を贈るなど、人が聞けば絶対にやめておけと言うかもしれないが、この訓練で得た証として贈りたいと、悩みつつ地上を目指そうとした俺だが、未だ結界が解けない。




 なるほど。


 二体目か。




 その時、宝箱から再び何かが這い出して来るのを見て、俺は、魔蛇を倒したにも関わらず結界が解けなかった理由を知り、魔蛇の核を大切に仕舞った。






 今度は、魔水蜘蛛か。


 実際に見るのは、初めてだな。


 あれが放つ糸、一本一本に毒があるのだったか。




 その攻撃に備え、俺は剣だけでなく、盾も魔法で形成する。


 そして予想通り、初手から放たれた幾本もの糸を盾で(しの)いで前進し、俺は迷いなく胴体を狙うも外され、大きく旋回することを余儀なくされた。




 正面からは、難しい、か。




 そこで俺は、次々放たれる糸を避けながら、魔水蜘蛛の側面へと進んで行く。




 盾が、かなりやられているな。




 幾度も魔水蜘蛛の糸を防いだ盾が、崩れ落ちそうになっていることに気付いた俺が、魔力を流して修復するより早く、再び、俺を絡め取らんと魔水蜘蛛の糸が襲い掛かって来た。




 っ!




 間一髪、水流を起こして自身の周りに水壁を作り、同時に糸を後ろに流した俺は、一気に魔水蜘蛛との距離を詰めて左側の脚、すべてを切り落とすことに成功した。


 そして、片側の脚を失い、体のバランスを取れなくなった魔水蜘蛛が、藻掻いているところを両断にする。


 すると魔水蜘蛛は、魔蛇の時と同じように、核だけを残して消え去った。


 


 ・・・ああ。


 魔水蜘蛛の核も、美しいな。


 そう言えば、糸も、水中で煌めいて美しかった。


 フィロメナにも、見せてやりたい。




 思ううち結界が解かれ、俺は、水上目指して泳ぎ出した。



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