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十三、優先順位 ~ベルトラン視点~







 ああ。


 フィロメナの清楚な佇まいを見ていると、心が癒される。


 本来なら、もっと近く、誰より傍で見つめられるものを。




 だが実際には、フィロメナが、マリルー王女に挨拶をすることになどならないよう尽力し、接触を回避し続けているために、遥か遠くからその姿を見ることしか出来ない。




 はあ。


 本当なら、今頃フィロメナと・・・・・。




 無事に婚約も済ませ、共に夜会に出る権利も得たというのに、妖精のように清らかなフィロメナでなく、どうしてこんな脳内おが屑王女の護衛などしているのか。


 護衛中だというのに、大きなため息を吐きそうになって、俺は、慌てて息を整える。


「ねえ、ベルトラン。貴方の婚約者、他の男と楽しそうにしているわ。節操がないのね」


「殿下。彼は、我が婚約者の兄です」


 護衛中にも関わらず、護衛対象と話すことを許されている俺は、不快な気持ちでそう答えた。




 もう、幾度目だ?


 夜会の度に同じことを言って。


 こいつには、学習能力が欠落しているのか?


 それともただ、底意地が悪いのか。




 そのどちらもだろうと思いつつ、俺は、マリルー王女を取り巻く貴族を見やる。


 どいつもこいつも、にこにこ、へらへらしてやがるが、甘い汁を吸いたいだけで、忠誠心の欠片も無いことは明白。


 もし今、何か事が起これば、マリルー王女など置き去りに、真っ先に逃げ出すような奴らばかりだ。




 尤も。


 こんな奴らしか、残らなかったのだがな。




 今、マリルー王女を取り巻く貴族は、元は他の王子、王女に取り入ろうとしていたが、彼らの方から除外されてしまった、いわばお残り。


 一番年長の第一王女殿下、第二子である第二王女殿下、そして第三子にして待望の男子である第一王子殿下は、三人揃ってとても優秀で、臣下として仕えるに何の憂いも無いが、第四子である第三王女マリルーだけは違う。


 


 最後の子となるであろうマリルー王女だけ、国王と王妃が育てたのが、最大の要因だろうな。




『ベルトラン。マリルーのことをお願いね』


『護衛として、お護り致します。王妃陛下』


『固いな、ベルトラン。もっと砕けて、ひとりの子息として接してやってくれ』


『私は、護衛です。それ以外は、ご遠慮申し上げます』




 ひとりの子息として?


 そんなの、国を追放されたとしてもごめん被る・・・いや、追放されてしまうと、地位や職業の問題が発生するな。


 どこでも働くことは可能だろうが、フィロメナには、苦労を掛けてしまうだろうから。


 何とか、穏便に回避するしかないか。




『ね?ベルトラン。今度は、護衛としてでなく、マリルーをエスコートしてほしいの』


『私には、婚約者がおります』


『まあ。心の狭い婚約者ね。そんなことで怒るの?』




 そんなこと!?


 婚約者が居るのに、他の女を連れていくなど、言語道断。


 それが非常識だと、まさか、王妃のくせに知らないのか?


 それに、マリルー王女の護衛をしなくていいのなら、フィロメナにドレスを贈って、宝飾品を贈って、共に参加するに決まっているじゃないか。


 それが、マリルー王女を相手にだと?


 護衛としてだって、得点のためと我慢しているのに。


 絶対に、嫌だ。




 幾度も繰り返される、国王と王妃の礼を失する話を思い出してしまい、俺は、更にげんなりした。


 救いは、他の王子殿下、王女殿下が、まともな思考の持ち主で、何かにつけ俺を擁護してくれることなのだが、国王と王妃はそれも気に入らないらしい。




『あんなに口うるさいなんて、あたくしの子とは思えないわ。やはり、教育係や乳母に任せてしまったから』


『そうだな。マリルーは、あんなにも可愛いというのに』




 当の子供たち・・上の王子殿下、王女殿下おふたりは『あの両親に育てられなくてよかった』と乳母や教育係に感謝している。


 そして、そのことを知らない貴族はいないが、国王と王妃は知らない。




 代替わりを心待ちにされている・・いや、着々と準備は進められているなど、思いもしないのだろうな。




 甲高い声で話し続けるマリルー王女の声を不快に感じながら、俺はそっと、癒しのフィロメナを見て、自身の心を落ち着けた。








「はあ・・・疲れた」


 護衛を終え、漸く寮の部屋に戻った俺は、心身共に疲労を感じ、どかりとベッドに座り込んだ。


「だが。あと少しの辛抱だ」


 俺が、マリルー王女の護衛を嫌々ながらしている理由。


 それは、魔法騎士の特別訓練を受けるための資格基準に達するために他ならない。


 無事修了となれば、伯爵位が貰える特別訓練のことは、士官学校時代から知ってはいたが、特に興味も持たずに来た。


 しかしある日、フィロメナの話を聞いていて、俺は、どうしても特別訓練を受ける資格が欲しくなった。


 正確に言えば、特別訓練の修了時、特に優秀ならば手に出来るという、遊撃の立場を欲しいと思った。


『わたくし、色々な街や国の靴を見て回って、たくさんのひとに、快適な靴を履いてほしいと思っているのです』


 街にも靴屋はある。


 だが、見た目ばかりを重視する靴が多いと、フィロメナは言っていた。


「確かに、だ。これも、見た目で作られたものなのだろうな」


 近衛の靴も、爪先が尖っていて、踵が高く、長時間立ち続けて仕事をするにも関わらず、その面の配慮があるとは言えない。


「靴か。心底、第一騎士団が羨ましい」


 士官学校時代からの友人も多く在籍している第一騎士団は、この度新しい靴を導入したとかで、履きやすいと、皆喜んでいた。


『婚約者殿によろしく』


 そして、口々にそう言われ、俺は初めて、その靴がフィロメナが考案、作成指示をしたものだと知った。


「はあ。俺も履いてみたい」


 フィロメナが作った靴。


 それがあれば、もっと頑張れると思う。




 フィロメナに会いたい。


 フィロメナにドレスや装飾品を贈って、共に夜会に出席したい。


 マリルー王女の傍に居たくない。




「いや、思い出せベルトラン。あのパープルダイヤの小ささを」


 特別訓練の資格を得る方法は、他にもある。


 ただ、王族の警護はその一回の得点が一番高いというだけで。


 ならば、と思いかけ、俺はフィロメナに贈った婚約指輪を思い出した。


 元々、平民になるつもりで選んだ第二騎士団は、近衛や第一騎士団と比べると賃金が低い。


 とはいえ平民にとっては破格の賃金なので、これまでは特に思うこともなかったのだが。


「宝石が、あれほど高いとはな」


 初めて入った宝飾店で、俺は目を疑った。


 第二騎士団に入団してから、寮暮らしでもあるし、特に使うことも無く貯めていた賃金すべてを持って行ったにも関わらず、本当に小さな一粒しか買えなかった。


「どうしても、俺の瞳の色を贈りたかったしな」


 他の石なら、もう少し大きい物も買えたが、これだと思った石はあれだった。




 あの石を選んだことに後悔は無いが、母上が持っているものに比べたら・・・はあ。




「ま、まあ。そのために選んだと言っても過言ではない近衛の賃金は、段違いだからな。結婚の記念には、もっといい物も贈れるだろう・・・いや、待てよ。その前に婚礼衣装・・・いや、婚姻後、すぐにも旅に出たいとフィロメナが言うやも知れぬのだから、やはり遊撃の地位を得るのが先か。そうだな。フィロメナを、そう待たせることは出来ないからな。最短で遊撃の地位を得るのは必須か・・・はあ。仕方ない。そのために、何とか堪えて頑張るか」


 遊撃の地位と爵位を得て、晴れてフィロメナと結婚し、ふたりで各地を回る。


「フィロメナ。待っていてくれ」


 そんな明るい未来を夢見て、俺は、この苦境を耐え切ってみせると、ペンダントに嵌め込んだフィロメナの姿絵に誓った。



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