ミルククラウンのクレイドル
ミルククラウンのクレイドルは、今宵も赤ん坊を乗せて揺れる。
ミルクを一滴落とした時に生まれる、汚れなき冠が、ミルククラウン。そこで眠ると、甘く温かい夢を見られるそうだ。
ある晩は、魚の赤ちゃんが乗せられた。クレイドルが波のように揺れる。ペスカと名付けられた子は、眠りから覚めると力強くはねて、お母さんに飛びついた。
ペスカに、幸あれ。
次の晩は、蛙の赤ちゃんが乗せられた。クレイドルが風にそよぐ葉っぱのように揺れる。ラーナと愛おしく呼ばれた子は、眠りから覚めるとカラリクルリ鳴いて、お母さんと合唱した。
ラーナに、幸あれ。
その次の晩は、とかげの赤ちゃんが乗せられた。クレイドルが砂をくすぐるように揺れる。ルチェルトラと書いた札を下げた子は、眠りから覚めるとお母さんを探してあちこちはい回って、一緒におうちへ帰っていった。
ルチェルトラに、幸あれ。
またその次の晩は、おさるの赤ちゃんが乗せられた。クレイドルが木々をなでるように揺れる。自分のことをシミア、と名乗る子は、眠りから覚めて、お母さんへ「山のみんなと果物を分け合って食べたよ」と夢で起こったことを話した。
シミアに、幸あれ。
少し時が経った満月の晩、天使が星の赤ちゃんを抱えて、クレイドルに乗せた。星の赤ちゃんは、はじめから深く眠っていた。
「この子には、名前が無いのです」
天使は、横たえた冷たく小さな体に触れて言った。
「祝福を受ける前に、この子は光を失いました。ですから、せめて、見続ける夢は優しいものでありますように」
クレイドルに揺られ、星の赤ちゃんはだんだん小さくなり、輝く粒となって、空へ昇った。
「あなたがいたことを、決して忘れないように、わたくしはこのように呼びましょう……」
アモル、いつかここにいて、目覚める朝に、たったひとつの、あなたである証を、胸に刻んで。
アモルに、幸あれ。
あとがき(めいたもの)
改めまして、八十島そらです。
生きている、それだけで奇跡なのではないか。最近そう思い始めました。
おなかをゆるやかに上下させて、眠っている親戚の子達を見ていると、命が「ある」ことを改めて実感させられます。
名前の有る無しにかかわらず、皆が、光ある道を行けますように。