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7.カメレオン令嬢、お菓子に誘惑される

 まずは父に相談した。できればお断りしたいんですが、と。もちろん無理だった…

 そりゃそうよね。相手は公爵嫡男でもある魔法省長官様。仕事口を紹介すると言われているのにうちのような弱小伯爵家が書面で断れるわけがない。断るにしてもこちらから出向かないとなりません、はい。


 そうそう、魔法使いについてもう少し説明しておこう。

 魔法使いは基本的に貴族に生まれてくる。魔法使いが見つかると貴族の家に養子縁組したり結婚させたりして血を取り入れてきたからだ。そして必ず男性にだけ魔力が現れる。ちょっと男尊女卑がすぎませんかね?

 それと魔力は髪に現れる。強い魔力であるほど濃い青に、魔力量が多いほど長くなる。瑠璃色に腰の下まで伸びた髪をもつ魔法省長官はかなり優秀な魔法使いなのです。


 でもスーパーエリートでも尊大だからなあ。夫の地位と容姿だけで満足できる人なら結婚相手として申し分ないだろうけども。上司としても嫌だな。

 ああ、気が重い。お仕事を斡旋してくれるのは嬉しいけど、長官様とは接触しない部署に配属して欲しい。

 むしろ父はわたしの将来を心配して、せっかくの機会なのだから魔法省でエリートを捕まえてきなさいと息巻く始末。いえ、わたしは結婚せずにおひとり様でもいいんですけども。


「何も次期公爵となる長官様なんて過ぎた望みは言わない。役職のついてない一般の魔法使いでも十分だよ。なにせ彼らは皆男爵位を授けられるのだから。

 だからキャロライン、がんばってみなさい。魔法省でお仕事を世話してもらえるだけでも幸運なのだよ」


 魔法使いとして魔法省で二年以上働くと、一代限りだけれども男爵位が授けられるそう。魔法使いは貴重だし他国にとっても牽制になる。この国に奉仕してもらうために爵位がもらえる仕組みなのだとか。

 



 さて、重い腰をあげて魔法省棟に向かう。

 長官に会うのは憂鬱だけど、ヒューバードさんの奥さんであるパメラさんとお話できることは嬉しい。何気に魔法省で出されるお菓子も美味しいし。

 パメラさんとは一週間魔法省でお世話になっている間にすっかり仲良くなった。元々はルナムー男爵家出身だけど、マーゼス侯爵家でヒューバードさんの専属メイドとして働いていたそうで、いろんな雑用をこなせるそうだ。空気も読めるしかなり有能な人。

 なんだか恋愛小説になるくらいの物語がありそうな感じ。いつかゆっくり聞いてみたい。


「あの、今日はわたし、どんなお仕事を紹介されるのかご存知ですか?」

「ごめんなさい、仕事内容までは教えてもらってないの。でも嫌なら断っても大丈夫よ。ご令嬢に無理強いはできないって考えておられるようよ」


 うーん、わたしに出来る仕事なのかな?前世では一応自活してたから一通りの家事はできるけど、こちらでは刺繍と簡単なお菓子作りくらいしかやってない。

 すごーく気は重いけど、あの長官と話をするしかない。それから判断しよう。お茶請けに出されたチョコレートタルトをしっかり平らげる。


「もう一度カメレオンになって貰いたい」


 うん、お断りします。薄々そんな気がしてたのを考えないようにしてたけど、流石に乙女を掴まえてカメレオンになれはないわ〜。


「あの、一応、理由を伺ってもいいでしょうか?」


 荒ぶる心とともにひくつく口元を何とか抑えて即答する前に理由を尋ねた。実は長官の隣に副長官のヒューバードさんもいる。


「あの後、三人トードの腕輪を試してみました。ですが三人ともヒキガエルにしかなりませんでした。変身までの時間、身体能力、どれも貴女のようにはならなかったのです。

 それで宜しければもう一度貴女に着けてもらって事象を確認したいのです」


 うーん、別にカメレオンになるのは言うほど嫌でもない。見つからなかったから気楽だったしわりと楽しかった。

 ただ、カメレオンになったわたしを観察されるのはあまり嬉しくない。一応乙女だからね。それに腕輪外して元に戻るときに裸になってしまうし。

 そう言えばこの尊大長官に裸を見られたんだった。思い出したくないことを思い出してしまった。恥ずかしさと苛立たしさが一気にこみあげる。


「もちろん変身する時と解呪する時は見ないように席を外します。長官は腕輪を外すために同席しなければなりませんが、彼には目隠しをしますしパメラを同席させます。

 貴女が不快感を抱かないように工夫しますので」

「それは、腕輪の検証なんですか?それともわたしの?」

「もちろん腕輪の検証ですよ。腕輪を着けたことによる後遺症がないことは検証済みです。ですので健康に害は何もないことはご安心ください」

「断ってもいいんですよね?」

「その決断をする前に、報酬についてのお話もしましょうか」


 その報酬はなかなか魅力的だった。わたしが考えていたデコレーションクッキーのお店、その開店資金の約半分にあたる。むむむむ、これは考えてしまうわ。


「それと、公爵家の料理人でよければお前の好きな菓子を好きなだけ用意させよう」

「はい!是非受けます」


 最後にはお菓子の誘惑に負けてしまった。だってうちはただでさえ弱小伯爵家で、これまでは義母と異母妹に高価なチョコレートなどの菓子類は独占されていてあまり食べる機会もなかったのだもの。

 よし、美味しいお菓子のためにカメレオンになってやりましょう!

読んでいただきありがとうございます。

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