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5.魔法省長官、奇妙なカメレオン令嬢と出会う

第六話は明日12時投稿予定です。

 王城でガーデンパーティーが開催された日、あの奇妙な令嬢と出会った。

 

 その日俺は警護任務ではなく、公爵家の跡取りとして出席していたが、常に会場に神経を張り巡らせていた。そして自身が張った結界に呪具の気配を察知した。

 呪具を王城に持ち込むなど目的は一つ。ここにいる誰かを呪うためだ。

 だから俺は呪具の気配を探りながら持ち主が誰か、相手に悟られないよう割り出すことに集中した。


「あそこ、今入ってきたのはジュペテ伯とその家族か?」

「ええ、夫人とあの方は次女のディアナ嬢ですね。何かございましたか?」

「直近の状況は?」

「そうですね…三週間ほど前にアレックス様も招待を受けていた長女の成人祝いパーティーがあったのですが、当日に取り止めになりました。噂では平民と駆け落ちをしたとか」

「長女はどこへ?」

「実際に行方が知れないそうです」

「そうか…」

「挨拶をするよう声をかけてきましょうか?」

「いや…今はまだいい」

 

 従者は一歩下がって鋭い目を向けている男の後ろにまた静かに佇む。その鋭い目はディアナからすぐに逸れた。

 そして魔法省長官であるその男、アレックスはディアナから離れた呪具の気配を冷静に追った。まずは呪具の確保だ。


 高位の爵位持ちから声を掛けられると無下にもできず、最低限の挨拶を返しては呪具の気配を追う。呪具はテーブルからテーブルへと動いているようだ。まさか複数人が関わっているのか?

 ようやく呪具の近くまで来ることが出来、側にいたある侯爵から話しかけられる。聞かなくても顔を見ればわかるが、どうやら娘を紹介したいようだ。

 婚約者のいない身の上としては致し方ないのだろうが、次々と縁談を持ちかけられることに辟易しながら、目で呪具を追う。どうやらテーブルの上に置いてあるようだ。どういうわけか手放されている?

 そのとき呪具がひとりでに動いた。そんな、馬鹿な。

 魔力を高めて目に纏わせる。視えてきたのは呪具は腕にはめ、周囲に擬態したカメレオンだった。


 カメレオン?

 あれは十年前に魔法省保管庫から盗難にあったトードの腕輪であろう。なぜにカメレオン…

 そしてそのカメレオンは擬態して周囲に溶け込むのがとても上手だった。擬態するというよりか、あれはおそらく認識阻害に近い。誰もカメレオンには気づいていない。

 すごいな。なりきっている。


 感心して見つめていたせいかカメレオンと目が合ってしまい、慌てて目を逸らす。その後も歓談をしながら様子をうかがうと、器用に舌を使って果物や菓子を食べているのがわかった。

 思いっきり楽しんでいるな…

 何かを企んでいないかと訝しんだがどうもリラックスしているように見える。まわりに共謀している仲間がいる様子もない。いや、むしろあれは呪具の被害者か。 

 よし、捕獲するとしてもう少し人目がなくなってからだ。次は呪具付きカメレオンを連れてきたジュペテ伯に話しかけることにし、翌日に屋敷を訪れる約束をとりつけた。


 国王陛下の挨拶で終宴となったあと、呪具の周辺を人払いしてからカメレオンに声をかけてみる。このままでは誰かわかるはずもないからまずは解呪だ。


「お前はここで何をしている?(呪われているのに悠長に満喫してたな)

 呪具を身に付けて王城のガーデンパーティーに忍び込むとは大胆だな(まさかわざわざガーデンパーティーの場を選ぶとは行動力があるな)。

 お前の目的は何だ?今から取り調べてやる(お前がどこの誰か解呪して調べてやろう)。

 もちろんその盗品の呪具はこちらで回収する」


「重要参考人として魔法省棟に連行する(事件の被害者として魔法省棟に連れて行ってやる)。

 逃げるなよ?(逃げる必要はない) 大人しくすることだ」


 場所をうつして魔法省の小実演室にて、高魔力を放出しながら解呪を試みた腕輪はすんなり外すことができ、カメレオンは肉感的な令嬢へと姿を変えた。

 いきなり目の前に裸体の令嬢があらわれて己の浅慮に気が付き、ヒューバードが早急に上着をはおらせたが、その時たった一瞬だけ見てしまった生まれたままの姿は、その後も消えることなく脳裏にすっかり焼き付いてしまった。



「アレックス、いくら君の魔力が強力だからといって私の解析結果を聞かずに事を進めるのは褒められません」

「…すまん」

「謝るべきなのはあのご令嬢でしょう?あとできちんと謝罪してください」

「…ああ」

「このトードの腕輪、ただのトードの魔法ではないようです。

 まず解呪条件は『愛する者のキス』となっています。さらに衣類は取り払われ、上級の保護魔法までかかるようになっています」

「意味不明だな。まさに呪いでしかない」

「……」


 着替えの終わった令嬢が気恥ずかしそうに部屋に入ってくる。気まずい。

 ヒューバードには自己紹介のあとに謝罪しろと言われたが、謝罪するのは苦手だ。しかも初対面の女性。


「その……先ほどは、すまなかった。俺は女の裸になど興味ないから、どうってことはない。気にするな」


 あの姿が頭にこびりついているせいで後ろめたくて、つい嘘を吐いた。彼女の顔を見ていられず、顔を逸らす。


「…………いえ…お目汚し、大変失礼いたしました」


 ヒューバードの盛大なため息が聞こえてくる。また何か間違えたようだ。


 その後ヒューバードが主導して聴取を行った。俺は口を挟まず静観する。

 令嬢は思った通り何も知らずに呪具をはめられたようだ。明日ジュペテ伯爵家を訪問して、件の夫人と次女を問い詰めればいいだけだ。これで呪具の入手先や闇取引に関わる裏社会の組織につながる有力な情報が得られればいいのだが、そう簡単にはいかないだろう。

 

 ヒューバードは処罰についても令嬢と話を重ねる。まあ醜聞と家の存続を考えたら、大事にせずに王都追放となるだろう。領地で蟄居など俺からしたら生温いがな。

 被害者が結果的に無事だったからといって犯した罪がなくなるわけではない。甘やかすとつけ上がるのが世の常だ。



 聴取では俺とヒューバードに問い詰められた夫人と次女は容易く陥落した。途中で罵り合いになって辟易したが、一喝したら大人しくなって供述し始めた。減刑処分(牢屋行きを免れる)を仄めかしたのも大きかっただろう。頭の悪いことだ。

 上にも報告して最終決定を待たねばならないが、概ねあの令嬢の要望に沿った罰となるだろう。

 

 さて一週間ほどあの令嬢は魔法省棟で預かる。ヒューバードが呪具の影響がないかを観察する名目でほぼ連日彼女とお茶をするようになった。鑑定に優れ話し上手なヒューバードに最適な役目だ。羨ましいなどとは断じて思っていない。

 ヒューバードの見立てによると、彼女からはほとんど魔力を感じず呪具の影響も全くないとのこと。しかし彼女の体質なのだろうか、無意識ながらも魔力を使いこなす能力に長けているのかもしれないと。

 それが本当ならよい魔道具使いになれる素質があるということだ。


 とはいえ女性は好んで騎士や魔法使いになるものではない。荒事から遠ざけるのが普通だ。彼女にとっても良き縁を見つけて嫁ぐ方が幸せだろう。

 あり得ない考えを振り落とす。思わず思い出してしまった彼女の裸体も必死に記憶から振り落とす。

 そんなことより、今は折角裏社会の組織に繋がる情報を得たかもしれない。トードの腕輪を盗んだ犯人、闇取引に携わる犯罪組織、ともに検挙すべく働かねば。


 …だが、しかし。もし彼女が良き縁よりも職に就きたいと願うならば、仕事の口を紹介してやるのもいいかもしれない。


読んでいただきありがとうございます。

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