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14.カメレオン令嬢、再び魔女に遇う

 カメレオンから人間の姿に戻れなくなったわたしは、魔法省の特別室に滞在させてもらうようになった。

 部屋から出るときはなるべく長官かヒューバードさんが側にいてくれる。恋の魔女以外の魔女が急に目の前に現れる可能性もあるからだ。

 でもカメレオン好きなワンコ系もといマッケンジーとは鉢合わせしないようにしてもらった。あの熱量が苦手で。面倒くさい女ですみません。


 そうして数日経ったころ、ヒューバードさんから報告があった。

 

「恋の魔女の居場所がわかったかもしれません。市井である噂を拾ってきました」


 その噂というのは、よく当たると評判のバーバラという恋占い師がいるというものだ。しかもその占い師は不定期でしか占いの営業をしていないらしく、占ってもらえたら運がいいと専らの評判なのだとか。

 早速カップルに仕立てた魔法使いと女性職員を偵察に行かせたが魔女には出会えなかったそうだ。

 

「どうしますか?無駄足になるかもしれませんが行ってみますか?」

「行きたいですけど…あの、そこへも長官かヒューバードさんが着いてきてくれますか?」

「ええ、勿論。貴女の安全第一ですので」


 翌日には長官の腕に乗せてもらってその占いの館を訪うことになった。

 長官は美形なのもあるが、一目で魔法使いとわかる瑠璃色と銀色のグラデーションヘアーなので目立つけれども、魔女であると想定しているので変装はなしだ。


「心配するな。この間のように連れ去られるような不覚はとらない」

「ありがとうございます。一人だとやっぱり不安なので着いてきて下さって心強いです」


 尊大なやつと思っていた長官様は、以前ほど偉そうな物言いも気にならなくなっていた。

 ヒューバードさんからも長官は口下手(コミュ障)なだけで傲慢な性格ではないと聞いたことも、彼の印象が少しよくなる一助となった。だからといって恋愛感情は生まれてないけども。



 目的の建物に着いたとき、長官の動きが止まった。

「ここには魔法がかけられている。多分、客を選別してるんだろう。キャロライン嬢、準備はいいか?」

「はい、大丈夫です」


 そして、ノックのあと難なく扉を開けて中に一歩踏み入れたとき、覚えのある浮遊感が襲った。

「!」


 またしてもいきなり転移させられたと思ったが、まだ長官の腕に乗っかったままだ。大丈夫、一人じゃないと思えば前回ほど恐怖には感じなかった。

 その長官は大丈夫だろうかと見やると、顔色が悪く脂汗をかいている。


「長官様、大丈夫ですか?」

「あぁ…だい、じょう、ぶ、だ」


 明らかに大丈夫じゃない。わたしは何ともないけれど先程の強制転移のせいだろうか?それともここの空気が悪いのだろうか?それとも長官にだけ幽霊が視えているとか…

 薄暗い辺りを見回すとここが恋の魔女バーバラの家ではないことに気付く。もしかして罠だった?


「長官様ごめんなさい、巻き込んでしまって。ここ、バーバラさんの家じゃない」

「罠、か…」

「罠かとは随分だね」

「!」


 いつの間にか床につくほど長い黒髪の、三十代くらいの女性が目の前の長椅子に座っていた。全く知覚できなかった。


「ワタシは戦争屋の魔女ニキータ。新たな魔女の器がどんな子か見てみたかったから招待しただけさ。余計なのもついて来たようだけど。くっくっ」

「何ですか、何がおかしいんですか!」


 得体も知らない魔女に啖呵をきるなど正常な思考だったら絶対にやらなかったはずなのに、安全を慮って着いてきてくれた長官様を馬鹿にされて悔しかった。それに苦しそうなのはこの目の前の魔女の仕業に違いないから。わたしが何とかしなくちゃと焦っていた。


「その男、さすがに上級魔法使いだね。ふつうだったらもう命を落としているだろうに」

「やっぱりあなたですね、長官様に何をしたんですか?早くやめてください!」

「キャロ、ライ、ン嬢、あぶな、い、やめ、ろ…」


 わたしだって目の前の魔女がやばい奴だってわかっているけど、このまま黙っていたせいで長官様に何かあったら絶対後悔する。それにわたしに用があるなら、用が済むまでは手を出さないはず。


「おやおやおや、そいつはあんたのイイ人かい?それじゃあ手は出さないよ」


 魔女ニキータが手をひと振りすると、長官様は息を大きく吐いた。荒い息を整えようとしている様子を見て胸を撫で下ろした。


「用は何でしょうか?出来れば家に帰してほしいのですが」

「何とも珍妙だねえ。そうしていると上級魔法使いの使い魔のカメレオンみたいなのに、あんたの方が格上だからね」

「そんなことは間違ってもありません。わたしはただの弱小貴族令嬢なので」

「魔女の器だよ?魔力はまだ譲渡されてないけどさ。あんただって無意識に魔法使いこなしてるだろう。トードじゃなくてカメレオンになって、しかも言葉を喋っているのがいい証拠だよ」

「魔女になるつもりはありません」

「つもりがなくてもなって貰わなくちゃ。こっちは困るんだよ」


 こちらが望まなくても無理やりにでも魔女にされてしまう、拒否権はないような言い方に心臓が鷲掴みされたような気になる。何とか回避する方法はないのだろうか。

 聞いたところで絶対に教えてくれないだろうことは明白なので睨みつけることしかできない。悔しい。


「おっと時間切れかな?」


 パチンと指をならした次の瞬間にはわたしは元の姿に戻っていた。しかもまた裸!

 混乱と羞恥とで慌てふためくわたしに魔女ニキータが一瞬にして接近してきた。思わず目を瞑ったけれど衝撃もなく、指で軽く額に触れられただけだった。

 それよりも。

 わたしを庇おうとした長官様がわたしを抱きすくめていることの方がわたしの身を縮こまらせた。

 すぐ隣にいた長官様は、自分の上衣をわたしの肩に掛けようとしていたところだったので咄嗟にわたしを抱きすくめたのだ。

 

 なにしろ長官様が抱きすくめたわたしは上衣ごしでも裸なのだ。腕の感触や近くに感じる長官様の匂いや息遣いにくらくらし、頭が真っ白になって動けない。


「いつまでそうしてんだい?さっさと離れないと、そこの恋愛バカを喜ばせるだけだよ」


 その言葉にはっとして一気に顔に熱が集まり、お互いに一歩離れた。


「なんで余計なこと言うかなー。せっかくのところなのに」


 わたしと長官様をはさんで魔女ニキータとは反対側、そこに恋の魔女バーバラが立っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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