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11.カメレオン令嬢、印をつけられる

「だから、あたしは敵じゃないからね?話をしたかったのよ。それとトードの腕輪も確認しておきたかったし」

「…家には帰してもらえるんですね?」

「うん、帰すよ。もう少しあとで。それより恋バナ!キャロはあの美形の長官とカメレオン好きのワンコ系とどっちが好き?」


 帰してもらえる言質はとれたけど、わたしはさながら彼女のおもちゃだ。彼女が飽きるまでは帰してもらえないだろう。

 しかしわたしには何も浮ついた話がない。彼女を満足させるには適当な恋バナを提供しないとならないのに好きな人もいない。どうしようか。


「あの、わたし、正直、恋愛ってよくわからないです。どうやったら好きってことなのか。物語を読んで恋愛の想像はできますし、容姿を見てかっこいいって思う感情はありますけど」

「ふーん、前世でも恋愛しなかった?」

「そうですね、つきあったことなかったです」

「そっかぁ。じゃあせっかく生まれ変わったんだから恋愛しようよ。きっと楽しいから!」

「恋愛って必ずしないとダメですか?人生、恋愛がすべてじゃなくないですか?

 令和の時代、価値観はそれぞれだし、仕事やおひとり様や推し活に生きる人たくさんいましたけど」

「れいわ?それって平成のあと?そっかー、キャロはあたしよりもちょっと下の世代の子なのね。前提条件でまず価値観がちがうんだ。そっかー。

 何も絶対結婚しろって言ってるわけじゃないのよ。恋愛のかたちだって人それぞれだし。

 でもさ、せっかく異世界に生まれ変わったんだし、違うことにも挑戦してみようよ!」


 確かに最初から恋愛や結婚なんて人生に不要と決めつけているのもわたしだ。でもそれなら。


「違うことへの挑戦は経営でもいいじゃないですか。わたしは新しいビジネスを始めようと思っていたんです」

「ああーそっちにいっちゃうんだ。キャロはけっこう頑なだねぇ。

 確かにキャロの刺繍は前の世界っぽいデザインで好きだけど」

「それと、デコレーションクッキーのお店を開きたいなって考えてます。この世界にはないので」

「なるほどねえ。でもさ、新しい商売始めるのと並行して恋愛もできるじゃん。どっちかを選ばないといけないわけじゃないでしょ。両方やったらいいんだよ!」


 確かに彼女の言うことにも一理ある。選択肢は一つではない。


「恋はね、まずは相手を意識することから始まるんだよ。最初からいい感情とは限らないの。ムカつくだったり苦手だったり変な人だったり。生理的に無理ってやつだったり、殺したいほど憎いってやつならなしだけど。

 で、相手のことを考える頻度が増えたり、もっと知りたいって気持ちが生まれたり、一緒にいると落ち着くとか逆に落ち着かなくなるとか、気持ちに変化が生まれてくる。それがどんどん大きくなって好きって輪郭がはっきりしてくる」


 彼女は恋心をよく知っているようだ。だったら自分で楽しんだらいいのでは?


「魔女さんは自分で恋愛しないんですか?」

「今までけっこう恋愛したよ。長生きしてるからね。美形の小さな男の子を育てて逆光源氏計画もやったし。でもさ娯楽として楽しみたいのよ、他人の恋愛模様を」

「でも強制されてできるものでもないですよね」

「誰かに背中を押してもらうっていうのも効果あるから。

 キャロはヒューバードみたいな細やかな気配りのできる常識人がタイプ?」

「いえ、違います。それに既婚者ですよ」

「道ならぬ恋っていうのもいいけど、キャロは生真面目タイプだからやっぱりアレックスかワンコ系のマッケンジーのがいいかな。それとも他に気になる人いる?」


 これはとにかく前向きな姿勢を見せないと永遠に終わらない。きっといつまでも説得される。


「今はまだわかりません。でも考えてみます」

「そう!考えてみて。寄りかかれる相手がいるっていうのも心地いいから。好きな人がいると頑張れるんだよ、女の子はさ」

「そう、でしょうか」

「そうそう。あー楽しみだわ、ふふふっ♪

 じゃあ、今日のところはもう寝よう。明日はキャロがきっと喜ぶスイーツを用意するから」

「……はい」


 今夜は帰してくれないようだ。危害を加える気はないようだし今は大人しく従っておこう。けっしてその喜ぶようなスイーツが気になるわけではない。

 魔女さんに客室へと案内される。色んなことが起きて興奮で眠れないかと思ったが、頭も体も疲れていたようですぐに寝付いた。


 翌朝、テラスで一緒に朝食をとった。彼女の家は森の中にあった。国内とは言っていたけれどどこかわからない。森の中だと逃げ出すのも危険だろう。早く帰りたい気持ちで逸るが、今は清涼な森の空気を楽しむことにした。


 魔女さんに聞かれて前世の話しなどもした。何歳で死んだのか、どんな仕事をしてたのか、何が好きだったか。彼女もまた日本人。懐かしさもあり昔の話はお互いにつきなかった。

 言葉通りスイーツも用意してくれていた。生チョコレート、チョコレートロールケーキ、レーズンバターサンド、ラングドシャ、ダブルシュークリーム、ベイクドチーズケーキ、モンブラン、クリームブリュレ。

 こってり系洋菓子が並ぶ圧巻のテーブル。前世ぶりに出会う極上スイーツたち。もうここは天国かもしれない。甘味をストレートティーと一緒にいただく贅沢。

 チョコレートや乳製品は割と高価な品物で、貴族だからといって日常的に口にできるものではない。弱小貴族の我が家はなおさらだった。


 食べ放題並に食べまくってもうお腹がいっぱいで動けない。帰らないとと思うのにぐったりソファに凭れてしまう。この段階でだいぶ警戒心が薄れていた。


「家に帰す前に伝えとくわ。そのトードの腕輪、ちょっと改良しておいたから。今度は()()()()機能するよ」

「え?」

「それとキャロにあたしの印つけておいた」

「印?」

「そう、あたしの魔力馴染んできたね。順番からいったらまだあたしの番じゃないんだけど、あたしが一番に見つけたからさ。それにキャロの恋愛も見守りたいし」


 彼女はやはり魔女だった。同じ転生者かもしれないけれど、この世界では紛れもなく魔女。なぜ彼女がただ話をするために連れてきたと思い込んでしまったのだろう。スイーツにすっかり懐柔されていたが、彼女にとってわたしは暇つぶしのおもちゃだった。

 

「あ、そんな深刻な話じゃないよ。とって食うわけじゃないから安心して。

 キャロはね、魔女になれる器なんだ。だからこの先ほかの魔女たちがキャロに接触してくるかもしれないけど、心配しないで。あたしは恋の魔女バーバラ。あたしがすぐに駆け付ける」


 青褪めたわたしを見てすぐににっこりと笑ったが、彼女が言った内容が衝撃すぎて笑えない。

 わたし、魔女になってしまうの?やっぱり転生者だから?


「あ、ちょうど()()()()()()()。そろそろ帰すね。誤解されないようにカメレオンに戻してあげる。恋について考えるんだよ、意識してね」


 そうして彼女の指先が光るとともにわたしはカメレオンになり、ふわりと浮いて一気に視界が変わった。

読んでいただきありがとうございます。

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