1.カメレオン令嬢、はめられる
第二話は14時に投稿予定です。
わたしはやさぐれている。令嬢なのにカメレオンって、それはないでしょ!
わたしには前世の記憶がある。こことは違う世界の日本で平凡な一般人として生きた記憶。三十を過ぎたところで死んでしまい、魔法のある世界の貴族令嬢として生まれ変わった。
そう、異世界転生だ。わー本当にあるんだね(棒読み)。
前世ではあまり家族には恵まれなかったけど、今世でも恵まれていない。
実母が物心つく前に亡くなり、後妻になった義母が異母妹と異母弟を生むと、わたしの存在は中途半端なものとなった。前世ではおばあちゃんがいただけもっとマシだったよ。
当初はぞんざいな扱いにショックを受けたものの、早々に割り切って将来自立できるように手に職をつけることにした。悲しいかな、モブ中のモブなわたしは魔法が使えない。
とは言ってもこの世界では魔法が使える人はほんの一握りで、その貴重な人材はエリート扱いになる。
とにかく、令嬢の嗜みの一つして刺繍を習ったあとは前世の知識をフル活用して、この世界では斬新な図案をたくさん作成した。
貴族令嬢や夫人が作成した刺繍作品はバザーで販売され、売上は孤児院や教会に寄付される。そこでわたしの作品は人気に火がついて、個人的に作成をお願いしたいという貴族女性からの依頼も増えた。これなら家を出て独立できそう。
しかし順調そうにみえた将来には落とし穴が待っていた。わたしの(刺繍作品)人気に嫉妬した異母妹に嵌められてしまった。
文字通り、呪いの腕輪を。
十八歳の誕生日前夜、初めて、異母妹から誕生日プレゼントをもらった。翌日の成人祝いパーティーで是非つけてくださいね、と。
今まで姉妹での交流という交流もなかったため、初めてのことに少し感動して疑いもせずにその腕輪を身につけたところ、翌朝目覚めたときにはカメレオンになっていた。
いや、動物に姿を変えられちゃう令嬢ものって言ったら、普通にゃんこでしょう!呪いをかけられたことよりもカメレオンだったことにキレてしまったよ。
ベッドに夜着を脱ぎ散らかしたまま姿を消してしまったわたしに対して、義母と異母妹はわたしがバザーで知り合った平民と駆け落ちをしたとのたまった。以前から隠れて逢瀬を重ねていたと。
正直、結婚に対して消極的だったのでパーティーで優良な旦那様を見つけたい、などという目標はなかったけれども、当日いきなりパーティーを取り止めるほうが外聞が悪いだろう。準備にかかった費用と労力と時間もすべて無駄になる。
本当にふざけんなと思ったが、カメレオンのわたしでは鳴くことも引掻いてやることもできない。むしろ見つかったら気持ち悪い!と殺されてしまうかもしれない。
擬態しながら慎重に隠密行動することにした。
数日経ってわかったことは、カメレオンの体は自在に体色を変化させられること、意外に素早く動けること、人間の食べ物も食べられること。さすがに虫を食べるのは勘弁だもの。
わたしの前世の知識と比べてみると、だいぶ本物とは違う気もする。けれどここは魔法の存在する世界。ましてや呪いで姿が変わったわけだから深く考えるのはやめておこう。
とにかく元の人間に戻るための情報を集めようと、義母と異母妹のいる場所へと足繁くかよった。時には使用人が押すティーワゴンに潜んだり、清掃メイドが運ぶ掃除道具やリネン類に張りついたり。
家族というには疎遠だったけれど、憎まれるほど仲は悪くなかったつもりでいた。でもそれはどうやらわたしだけだったらしい。
義母と異母妹は、わたしが地味顔なくせに美人ぼくろを持っていたことが許せなかったらしい。美人ぼくろとは泣きぼくろのことなのだけど、この世界では美人の要素と見做されている。
なので普段はお化粧でほくろを消している。それだって義母が「美人ぼくろがあって恥ずかしい思いをするのは貴女よ。だから隠した方がいいわよ」って言ったからだった。
それとわたしは背が低くお胸が人よりやや大きい。これでひっこむところはひっこんだメリハリボディならよかったんだけど、全体的にずんぐりむっくりして見えるから自分の容姿はあまり好きではない。
逆に異母妹は背が高くすらっとしていてはっきりした目鼻立ちで、前世で言うモデルや俳優タイプ。わたしとしては異母妹の容姿に憧れるのだけど、異母妹は豊満ボディがよかったらしい。
容姿は生まれ持ったものでどれもわたしが望んで得たわけではない。お互いに無いものねだりして好敵手視されても困るよ。
そして、わたしの刺繍が社交界で好評を博していたことが気に入らなかった模様。父がわたしの刺繍による世間の声を自慢に思っていて、成人祝いパーティーには格上の侯爵子息やら公爵子息にまで声をかけていたことが、今回の呪いの件につながったらしい。
地味にショックだったけれど、彼女たちとは別の人間なのだ。気にしても仕方がない。
さらにわたしが行方不明なのをいいことに、わたしの部屋を物色しはじめる義母と異母妹。こんなにあさましい人間だったのかと怒りと呆れが込み上げた。
腹いせに、私室に入りこんだときに彼女達の大切にしているドレスや服飾品に粗相してやった。淑女として(人間としても)アウトではあるけども。ざまあみろ。
それと、呪いの腕輪の効果がカメレオンではなくトードに変える呪いだったこともわかった。カメレオンなだけましだったかも。
義母と異母妹はメイドたちに大きな蛙を見たら捕獲するようにも指示していた。どうやらこの呪いの腕輪は誰かから強引に借りてきたもののようで回収したいらしい。
わたしの心配どころか腕輪のことだけ気にしている姿を見て、心の中で家族としての縁が切れた。
そして有力な情報がようやく判明した。王国の魔法省長官を務める公爵の嫡男ならば、解呪ができるかもしれないと。
ようやく希望の灯が見えた。
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