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伯爵令嬢と正邪の天秤  作者: 秋田こまち
16/68

3ー6

 周辺諸国との戦争に発展しかけ軍も憲兵も大惨事になっている裏側で、何も知らない令嬢たちの日常は平和なものである。


 セシリアは友人のテティス・ユディットの屋敷へと遊びに行っていた。鉱物関連の事業を生業とするバイロイトとは異なり、ユディットは豊かな土壌を活かした果物関連の事業が活発だ。

 テティスの家に遊びに行くと、宝石のように艶々とした色とりどりの果物を味わうことができる。



「最近の流行っている噂って聞いた?」

「星将軍が既婚者を妊娠させたっていうアレ?」

「ええ。戦地から帰ってきたザルム将軍にアストレ伯爵が詰めかけたっていう、、違う!それじゃないわよ!」


 蜜入りの甘い林檎を齧りながら、テティスは話を続けた。


「5年前の事件よ!星将軍がアルセーヌの間諜で、それも皇帝陛下を暗殺しようとしていたなんて、、。」


 セシリアも、貴族たちの間でその手の噂話が流行っているのは知っている。先日のアルセーヌの大使が殺害された件で、諸々露見したのだ。

「大使殺害だけでなく、大罪人を我が国の間諜呼ばわりするとは。」と言った具合で抗議されたため、もはや隠しておくことは不可能だった。


「セシリアはシリウスって名前を聞いたことはある?」

「ううん、無いよ。」

 存在すら消されていたはずのシシィが、こんな形でアルビオンに舞い戻ってくるなど誰が想像できようか。そして、セシリアには、彼について語ることは許されていない。

「それにしても、すっごく速かったわね。」

「えっ、何が?」

「この噂が広まるまでよ!まぁ、こんな話にみんな興味持たないわけないわよね。」

 それはセシリアもそう思う。皇帝が厳重に緘口令を敷いていたにも関わらず、今では誰もが知るところとなる。実際のところ、貴族たちはこの手の話は好きそうであるが。


「そういえば、アルセーヌとの戦争ってどうなったんだろう?勝ったとは聞いたけれど、、。」

 これ以上シシィの話をするのは居た堪れ無かったので、不自然にならない程度に話題を変える。

「アルセーヌから大使が来たって話は聞いたわ。結構な色男だったらしいわよ。」

「へ、へぇ。」

 テティスが興味深々と言った顔で教えてくれた。年頃の令嬢にとって、他国の美男子というのは興味を惹かれるものなのだろうか。実際、他国の大使と結婚する貴族令嬢も居るくらいだ。


「まあ、貴方の婚約者様には到底及ばないでしょうけど。」

「そりゃあ、あの人と比べちゃったらね。」

「あら、認めたわね。何か進展はないの?」

 その言葉に「ないよ!」と食い気味に否定する。

 ロベリアとはその様な関係になったことはない。寧ろ、浮気性の彼に悩まされていた程だ。テティスもそれを知っていた為、彼女と恋愛話などをする機会は無かったのだ。

 だから、何だか余計に恥ずかしい。そもそも恋愛感情云々の話では無いのだから、彼女の思う様な話は無い。しかし、どうしても照れる。セシリアは自分の頬が熱を持つのを感じた。












「ロエル公国からの書状はきたか?」

「レユニオン王国との国境付近で紛争が!」

「モンルージュ王国の間諜から連絡です。」


 王宮はさながら地獄絵図であった。アルセーヌとの話が諸外国の耳にも入ってしまったのだ。国境付近の守備隊や、他国に潜り込ませていた間諜からの知らせが一斉に届けられた。どこもかしこも大騒ぎだ。

 辛うじて戦争には至っていないが、今この瞬間に開戦となってもなんら不思議では無い。


「なんでいっぺんに揉め始めるんだよ!」

 そう吠えたのはディアラ・エストレ将軍だ。

「シャロン!大使の方はなんか進展ねぇのか?」

「生憎だけど無いわね。そもそも大使館で事件が起こった時点で分が悪すぎる。」

「最悪だな。」


「周辺諸国が裏で手を組んでいる可能性もある。」

 ジルフォードが告げた最悪の可能性に、その場にいた者たちは頭を抱える。

「そんなお前たちにに悪い知らせだ。」

 手紙を携えて、地獄へと訪れたスカーレットが口を開く。

「悪い知らせなら黙っててくれ皇女殿下。」

「ディアラは無視して続けるぞ。ロエル公国と武力衝突したそうだ。」

 その知らせに部屋の中から呻き声が響いてくる。


「父上、如何なさいますか?」

 皇太子が玉座に座っている1人の男性に問いかける。群青色の瞳に青みがかった黒髪を持つ、壮年の男性は少し悩んだ後、口を開く。

「各国には書状を出して可能な限り時間を稼げ。その間に星将軍を国境守備にあたらせろ。憲兵局はアルセーヌ大使の件の捜査が最優先。仮に我が国の中に不届き者がいた場合は隠蔽してくれ。」

 その言葉にルネ・シャロンは頷く。大使殺害の犯人が我々にとって都合が悪ければ、もはや隠蔽する他無い。


「陛下、問題を先送りにしたところで全面戦争は避けられないかと。」

 皇帝と目を合わせることなくスカーレットが奏上する。

「裏で手を組んでいるか否かは定かで無いが、一斉に攻め込まれでもしない限り星将軍たる貴君らの敗北は無いだろう。全面戦争へと発展した場合は、申し訳ないが腹を括ってくれ。」

 そう命じた玉座の皇帝に対し、将軍たちは敬礼を返す。




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