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伯爵令嬢と正邪の天秤  作者: 秋田こまち
13/68

3ー3

 星将軍率いるアルセーヌ国境付近への軍が王都を出発してから数日たった今、セシリアは王宮の庭園を散策していた。

 王宮を訪れる頻度が増えて以来、何度も足を運んでいるが、全てを見て回るまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。セシリアのお気に入りは、色とりどりの薔薇の花が両脇に植えられた白いレンガの小道である。

 

 何気ない休日の一幕であったはずなのだ。隣を皇太子が歩いてさえいなければ。


「なぜ、殿下が、、?今はお忙しいのでは。」

「取り敢えずひと段落した。後は、戦場からの吉報を待つだけだ。俺も気分転換がしたいと思ってな。」


 妹の方は将軍として出征したが、今回皇太子は王都へ残っているそうだ。スカーレットの他に、もう1人星将軍が同行しているらしい。


「皇女殿下が総司令だとお聞きしたんですけど、余計に火に油を注ぐことになりません?アルセーヌ相手ですし。」

「珍しいな、最近の世代でカナンの件を知っているとは。」

「この間、モロゾフ伯爵夫人からお聞きしたんです。」


 そうセシリアが言うと「相変わらずご婦人方の情報網は素晴らしいな」とジルフォードは感心している。実際、厳重に緘口令の敷かれたシシィの件だってじわじわと語られだしているのだ。



「もうこの際だから最大限嫌がらせをしてやれ、という結論になったんだ。レティに怯んで引いてくれれば御の字だと。まぁ、怒り狂って突撃してくる可能性もあるが。」

「、、それって大丈夫なんですか?」

「だったら正面から迎え撃つだけだ。あいつらなら大丈夫だよ。」

 

 普段から何かと振り回されている彼だが、戦場へと赴いている同僚を信頼しているのだろう。その顔に不安の色はない。


 そのままたわいもない話を続けながら、白いレンガの小道を歩く。暖かい太陽の光が降りそそぐ花園で、婚約者と優雅に散歩する。まるで小説の一部を切り取ったかのような場面だ。

 ロベリアと婚約していた頃にも並んで歩いた事はあったが、今日のように気楽なものでは無かった。皇太子と並んで歩く方がよっぽど神経を擦り減らしそうなものであるのに、セシリアにとっては彼と過ごす方がよっぽど楽しかった。









「ご機嫌麗しゅう、皇太子殿下。あんたやっと結婚するんだってな。」


 目の前から1人の男が歩いてくる。年は30代前半頃に見える。背が高く体格に恵まれた男性で、整った甘い顔立ちをしている。どことなく漂う大人の色気に、言い寄る女性が後を絶たないだろうと思われる。


 皇太子に対して随分豪快な物言いだなぁ、とセシリアが感心していると「あんたが噂の婚約者殿か」と話しかけられた。


「口説くなよ、ディアラ。」

「流石に皇太子の婚約者は口説かねえよ。後々大変だろ。」


 何というか、こう、皇女殿下と同類の匂いがする。


 ディアラ・エストレ。彼は魚座を冠する星将軍の一角を担う男性だ。彼も女性関係がかなり爛れているとの噂を聞く。今の所面識のある将軍は4人だが、半分はアレだ。


「どうしてお前はここに?」

「休憩だ。アルセーヌの方がどうにかなるまで暇だからな。さっさと決着つけろよあのクソ共。終わるまで落ち着けねえだろ。」


 クソとはまた物凄い言いようだ。思い当たる節はある。白髪碧眼の美女あたりだ。おっかなくて確認できないが。


「そうは言ったって、すぐに軍が国境に到着するわけじゃないんだ。幾ら数日経ってるとはいえ、衝突してからはそこまで経っていないはずだ。」

「んなこたぁ知ってるよ。知ってるか?それはフラグってやつだ。それより、どうしてあんた、今になって婚約したんだ。」

「何か不都合があるのか?ーーあぁ。」

 

 一瞬怪訝な顔をした皇太子が、思い当たる節があったのか顔を覆う。セシリアも、先日皇女が兄の結婚について賭博をしていた事を思い出した。確か、勝ったのは彼女で54年ものの葡萄酒をぶんどったとか何とか言っていた気がする。


「お前ら良い加減にしてくれ。」

「なら、まずはあんたの妹を何とかしてくれよ。」


 セシリアの前で会話を続ける彼らは年頃の令嬢が見たら頬を染めて興奮しそうな絵面であるのだが、何しろ会話内容がちょっとアレだ。




 そのエストレ将軍がセシリアの方をまじまじと見つめる。その視線にセシリアは僅かに後ずさる。

「皇太子殿下はこういうのがタイプなのか。やっぱあの女の兄貴だな。」

 これは訳あり結婚だから好みだの何だのは無いと思うが。ーー何故、皇太子殿下は否定してくれないのだろう。「図星か」とエストレ将軍は揶揄うように笑っている。



「あんたも大変だな。あの色狂いが義妹とか、俺ならとっくに国外逃亡してんぞ。」

 本当に物凄い言いようだ。本人の前でも普通に言っていそうなのがまた空恐ろしい。


「でも、殿下にはよくしてもらってますし、、。」

「下心ありきだろ。」

「レティは身内と部下には手を出さない主義だ。流石のでもそれは無い、、はずだ。」

 そこは言い切って欲しかった。あの麗しの皇女様は身内からの信用もないらしい。





「この間だって、戦争前にわざわざ顔を出してくださいました。それ以外にも時々顔を出してくれますよ。ーー初めてお会いした夜会でも、私のことを助けてくれましたし、お優しいところもある方だと思います。」


 その言葉に、2人が信じられないといった表情でセシリアを凝視する。「人違いじゃねえか?」「あいつと見間違えるくらいの美女がいるならとっくに噂の的だ。」と散々に言っている。セシリアは何か変なことを言ってしまったのだろうかと考える。



「セシリア嬢、あんた気に入られてんな。」

「そうですか?」

「あの女は口説くつもりの無い女にはマメじゃねえよ。義姉のあんたにそこまでするってことは、そういうことだろ。」

 よくわからないが、結局気に掛けてくれているということだろうか。


「皇太子殿下、あんたなら心当たりはあるんじゃねえか?」

 何気なく問いかけたエストレ将軍に一瞬迷ったあと、心当たりはないな、と皇太子は返した。



 その時、王宮の方から1人の軍人が走ってくるのが見えた。勿論2人も気がついたようで、軽口を叩きながら軍人が到着するのを待っている。

 少しして、辿り着いた軍人が額の汗を拭いながら口を開いた。


「伝令です!アルセーヌ戦線が決着しました。ーーーアルセーヌ王国軍、撤退です。」

 その言葉にセシリアは驚く。ついさっき、今頃開戦したばかりだと皇太子から聞いたばかりだ。よくわからないが、かなり早い決着なのではないだろうか。


「、、、フラグ、回収だな。」

 エストレ将軍が呟く。流石のジルフォードも驚いたようだ。


「、、想定よりだいぶ早いな。」

「どうやら、アルセーヌの方がかなり早い段階で白旗を上げて撤退したようです。」

「思ったよりあっさりしてんな。なら何でわざわざ攻めてきたんだ?」

「申し訳ありません。そこまではわかりかねます。」


 取り敢えず勝ったということだろうか。ひとまず現状把握の為に王宮へ戻るということで、3人は足を王宮へと運ぶ。


 

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