第四十四話 生まれ変わったら(1)
唐突な悪魔の告白に、私は脳内を疑問符だらけにしてしまった。
蘇生魔法が禁断? あ、でも確かに、普通はやってはいけなさそうなものだとは思ってたけど。待って、魔法を使ったのはシンシャであって私じゃない。いや、同じ魂を持っているなら私になっちゃうのか。
「だーっローディングしてる場合じゃないよ! ほら早く!」
ぼーとしている私に彼は甲高い声で怒る。強く手を引かれ、転びそうになりながらもついて行った。
どうやら人の多い此処で転送魔法を使うと、周りの人も巻き込んで移動してしまうらしい。なるべく広くて人気のない場所に行かなくてはいけない。
私だけが先に戻って良いのだろうか。
そんな不安に似た引っ掛かりを感じたが、私が残ることで更なる混乱を招くならば考える余地はない。これ以上みんなに迷惑をかけたくはないから。
開けた場所へ向かう中、ハルデはこちらの脳に直接話しかけてきた。軽く説明してくれるらしい。
『禁断魔法は二つ。一つは蘇生魔法で、もう一つは即死魔法。後者は例外もあるから微妙だけど、キミが使ったのは死刑になるからね!?』
死刑の二文字に血の気が下がる。そんなに使ってはいけないものだったの?
しかし、あの時千田くんを生き返らせなかったら戦争は止まらなかった。今よりもっと酷い状況に悪化していたのではないか。何より私が私に戻れなかっただろう。
あの選択は間違っていなかった。そう言い切るには逃げ切るしかない。
爆風が髪を嬲る。鼓膜が破けそうな気がして、空いていた片手で耳を塞いだ。
砂嵐が起こるように世界が不明瞭になる。手を引っ張っていたハルデが突然、勢いを殺して止まってしまった。
どうしたのと思わず声を掛けると、ふと、視野の濁りが消え去った。前方には同じ制服を身にまとった大人たちが数人立ち塞がっている。帽子で顔は見えなかった。
逃避行をやめた私たちの背面からは、なんだなんだと魔女と狩人がこちらを見る声がする。
どうしよう。まだ人気のないところまで行けていない。これじゃ実質、挟み撃ちになっているのでは。
後退の動きを取るこちらに、制服姿の彼らは淡々と言った。
「全魔法界法 第四条の二項、去る命を引き止めた者には極刑を――これに違反したとし、貴様を処する」
四肢が硬直する私とは対照的に、ハルデは冷笑を湛え、吐き捨てるように言った。
「魔法省って違反者には厳しーよね、戦闘介入はあくびが出ちゃうほど遅いのに」
悪魔は手を離し、臨戦態勢となる。三角耳を強く反らし、尾を不機嫌そうに揺らした。殺意が匂い立つのを感じる。
向こうが予備動作なく、光の矢を数本放ってきた。ハルデは突き出した両手から、赤黒い壁を即座に作り出して防いでみせる。
粉々に砕け散る矢には気を留めず、今度は全員が射撃してきた。数が多い。
悪魔の彼は更に大きなバリアを張るが押され気味のようだ。苦悶の声が微かに聞こえる。
私も加勢したいところだが、シンシャから与えられた魔力はもうない。また、ただの人間に戻ってしまった。
流石にハルデ一人ではどうにも、
「何やってんだテメーら!! そいつは戦争を止めてくれたんだぞ!!」
虚を突くように割れ鐘に似た声が響き渡った。同時に左右から炎の槍や水の弾丸が放たれる。
振り返るや否や、後方で防衛戦を繰り広げていた狩人たちが私たちの前に躍り出た。その中には、あの女性もいる。
魔法省の人たちは狼狽しつつも攻撃の手を休めない。半ばヤケになっているようにも見えた。
威勢の良い鬨の声と爆音が大地を震わせる。
先ほどまで敵対していた狩人らが、私を守ろうとしてくれていた。制服の大人たちにはわざと攻撃を外し、あくまで私を逃がそうとしてくれている。
胸に熱いものが込み上げてきて、ぎゅっと苦しくなった。いや、苦しいんじゃない、嬉しいんだ。
『ときのちゃん行くよ!』
悪魔が振り返って手を伸ばす。今度は途中で落とされたりしないよね……?
だなんて、不安に思っている暇もなくこちらも手を重ねようとした。この争いもすぐ終わってほしいと願いながら。
刹那。
たった一本の眩い矢が少年の体を貫く。
ぐらり、と彼の瞳が大きく揺らいだ。
『え、』




