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少年魔女  作者: 朧
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第十五話 好意とは(1)

「ねぇねぇ。聡乃(ときの)ちゃんって、五組の咲薇(さくら)くんと仲良いよね?」


 朝、スクールバッグを机に置いた時だった。

 なんの前触れもなく、私は数名の集団で押しかけてきたクラスメイト(一部他クラスの子)に、そう尋ねられた。


 質問の意図が読み取れず、肯定とも否定とも言えない反応で私は返す。それを見て、声を掛けてきた子とは別の子が身を乗り出して言った。


「あたしたち咲薇くんのこと隠れて推してるんだけど、最近泉さんに話しかけたりするのをよく見かけて気になってたんだ。あの人とは、前から仲良いの?」


 推してるって、つまりファン? 千田くんにファンクラブあったんだ。すごいな。


 私は取り敢えずの理由を並べ、深い関係ではないと嘘を吐く。口が裂けても、魔女狩りによる呪いで繋がってしまっているとは言えない。


 私の返答が腑に落ちないのか、みな困惑したような表情で互いの顔を見合わせた。

 その内、声を掛けてきた子が追って質問する。


「いつ知り合った?」

「春頃かな」

「何がきっかけで仲良くなったの?」

「仲良くはないと思うけど。私が事故に遭いそうなったところを助けてくれたのが、きっかけだと思う」

「その後どっちから話し掛けた?」

「え。私、かな」

「なんて話し掛けたの!?」


 突然、声のトーンが上がり思わず目を見開く。彼女たちは興味津々、といった顔でこちらの返答を待っていた。

 少し違和を感じて、私は努めて冷静に問う。


「どうしてそんなこと訊くの。千田くんに関することなら、直接本人に聞けばいいのに」


 彼女たちがその言葉を耳にした途端、声を揃えて私に言い返した。


「できないから訊いてるのっ」


 瞬きを繰り返し、私は彼女たちのことを凝視するので精一杯だった。

 彼女たちの説明によると、千田くんは本当に誰とも関わろうとしないらしい。その為、声を掛けても無愛想だったり、しつこくすると睨んできたりするそうだ。


「でもそこがまた良いっ」

「俺様感が堪らんのだ」


 口々に女子たちは、千田くんのことを褒めているのか貶しているのか分からない言葉を言い、各々の反応をしてみせた。この子たち、ちょっと変わってるのかな。

 その後も彼に関する話は続く。


「目付き悪いところも推せるよね」

「あたし声推してる!」

「めっちゃ分かる。無口だけど開けば口が悪いところ推しポイント」


 序盤はそうなんだー程度に頷いていたが、話が段々深くなっていくと、なんだかズレを感じて仕方なかった。私の知っている千田くんと彼女たちが話す千田くんがまるで違うみたいに。

 女子たちの言葉に対して、私は相槌のように心中で呟いた。


「独りで黙々と勉強してるの偉いよね」


 それは多分魔法の勉強だ。彼、本当は勉強できない類だし。


「努力家なんだよ」


 それは確かにそう。他の魔女たちを守るために、たくさん魔法の勉強や練習をしている。


「この間猫に話し掛けてるの見ちゃったの! お茶目なところあるんだなってギャップ萌えしちゃった」


 多分その猫は、彼の使い魔ハルデだ。


「独りでいること多いけど、大きい行事の時とかよく周りを見ててさ〜。その時に腕組むのが良い」


 それは魔女狩りの存在を警戒している時の癖だったような気がする。


「口悪いの良いよね、罵られたい」


 言葉遣いが悪いのはそうだけど、本当はとても優しい人だよ。気も遣える、でもすぐに心配してくるところもあるけど。


 私は、彼女たちが楽しげに話すのを見ていて、心做しか優越感に近しい気分でいた。

 この人らが知らない彼を、私は知っている。

 それの何処が嬉しいのかは分からない。分からないが、どうしてか誇らしく感じてしまっていた。何も誇らしく思うようなことではない筈だ。それだと言うのに、私の方が彼に近いのだと自負している。


 私の方が、千田くんを大切に想っていると。


 同時に灰色の煙が胸に漂う。

 彼と関わりたい女子(ひと)がこんなにいるのだと、不快に等しい感情が纏わりついてくる。


「皆は、千田くんのことが好きなの」


 気が付いたら、そんな言葉を口にしていた。

 瞬間静まり返る。あんなにも彼について語りたいと動いていた口たちが、半開きのまま静止する。

 どうしたのかと視線を巡らすと、一人の子が恥ずかしげに耳を赤くして答えた。


「私たちは好き過ぎるんだと思う」


 好きという気持ちが高まり過ぎたあまり、人として応援したくなる。自分たちのことなんてどうでもいい、本人が幸せならばそれでいい。

 そのような彼女の言葉に、他の子達も大きく頷き肯定していた。


 好き過ぎる、か。

 未だ恋愛的な「好き」という感情が分からない私には、到底考えられないことだ。

 食べ物の好き、教科の好き、家族への好き、友人への好き。

 好きの形は無限にあって、一つ一つ言葉にするのは難しい。でもなんとなく、自分自身では分かっているつもりだ。他の「好き」との差くらい自分で判別できる。

 

 でも、彼に対して「好き」という感情が浮かばない。


 代わりに違う何かが胸の中を掻き乱して、どうして良いか分からなくなる。

 一緒に居たい、でも一緒に居ると体の真ん中が窮屈になって、少し辛い。それでも一緒に居たいと思ってしまう。何なのだろう、この面倒くさい気持ちは。こんなものが「好き」なのだろうか。


 彼女たちは、唐突に押し掛けてきたことを謝罪して、私の元から去っていった。

 でも私の中の()()()は去ってくれなかった。


 この気持ちをさっさと片付けてしまいたくて、でもそれができなくて、私は意味もなく首の感覚に意識を遣った。

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