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少年魔女  作者: 朧
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第十四話 決意を(3)

「いいか良く聞けッ。俺はいつだってお前を本気で守って来た、それは俺が狩られたくないからじゃねぇ」


 これは事実で、俺の本音。


「お前だから守ってたんだッ」


 歓声とともに上がる光の花。間もなく地を揺らすほどの音が、辺り一杯に響き渡った。

 明るく照らされ、はっきりと彼女の表情が捉えられる。その瞳はきらりと輝き、涙は消え、頬は赤く染められていた。


 今まで多くの時間を独りで過ごしていたが、誰かに認めてほしくて生きてきたわけではない。ただ子供ながらに孤独が嫌で、気を紛らわすために他の魔女たちを助けるようになった。

 だが血筋を知った瞬間、どの魔女たちも俺を冷たい目で見るようになり、助けても礼を言われる所か罵倒される始末だった。


 何度も魔女をやめてやると思った。

 でも、心の中に残り続ける()()を捨て切ることが出来ずにいて、今に至る。


 死に毎日追われていたため俺はいつだって怪我ばかりで、目付きも口も悪いものだからクラスメイトからは異常なものを見る眼差しを向けられていた。先生でさえ近づかず、小中学生時代は孤独に生きた。

 でも、そうせねば他の関係のない人を巻き込むことになるから、それでいいんだと暗示をかけて。


「あの、千田くん」


 はっとして意識が戻る。上目遣いに見遣る彼女は、申し訳なさそうに口を開けた。


「ちょっと暑い」

「わ、悪い。その、また怖がらせるようなことを」


 慌てて手と顔を離し、熱が放出される。

 俺はあまりの恥ずかしさに顔を上げられなかった。

 そんな俺を見て、泉はいつもの抑揚のない声で答える。


「ううん、大丈夫。少しドキッとした」


 言い終えてから彼女は小さく微笑み、目を細めた。打ち上げられる花火に照らされる泉は、普段より一層綺麗に見える。いや、いつでも可愛いし綺麗だけども。


 というか今なんて言ったんだコイツは。以前から思っていたが、彼女は平然と恥ずかしいセリフを口にするな、こちらの気も知らずに。

 天然なのか、普通に耐性があるだけなのか、俺にはよく分からない。


「これで仲直り、だね」


 安堵の声を漏らし泉は表情を緩めた。俺も、仲が戻ったことに安心して肩の力が抜けたような気がする。

 泉は視線を下に向け、ゆっくり上げていった。


「千田くんって浴衣、すごく似合うね」

「そうか? ハルデが魔法で勝手に仕立てたものだがな」

「え、実は私も」


 なんだって? それはつまり、


「花火大会の下りは、ハルデに仕組まれてたってことか?」


 あんの悪魔め、一体何を考えてやがんだ。


 心中で彼を睨んだが反対に感謝もした。俺らの仲直りに力を貸してくれていた、ということでもあるからな。しかしあの猫のことだ、他に何か狙いがあって企てたに違いない。


『やーやー少年少女、デート楽しんでる?』


 早速ご本人が来てくれたみたいだ。

 コウモリに似た小さな翼を羽ばたかせ、俺と泉の間に黒い子猫が降り立った。三角耳をぴこぴこ動かし、ハルデはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


 この下りはあんたの仕業かと問うと、悪魔は何故か胸を張って頷いた。


『あ、でも、遊園地の件は知らなかったからね』

「あんたが狩人と繋がってたら転生しても呪い殺してやるからな」

『わー冗談に聞こえなーい』


 そのやり取りを見ていた泉は、クスリと笑ってしゃがみ込む。慣れたように子猫の額を撫でてやり、細めた目で優しく感謝の言葉を零した。


「ありがとうハルデ。でもどうして花火大会に? 直接話すなら、ココより人のいない千田くんの家に行ってもよかったと思うけど」


 純粋に思えば確かにそうだ。わざわざ遠い所、それも人の多いところで話さなくても良いはずである。

 彼女の問いに、ハルデは呆れたような声で答えた。


『君たち口にしなくちゃ伝わんないでしょ、お互いの気持ちをさ。ぼくが仕立ててあげたそのユカタに答えがあるよ』


 彼はそう言うと『続きは二人で楽しんでねー』と捨て台詞を残し、再び飛び立ってしまった。

 追いかけようとしたが視界の泉を考慮し、伸ばした右手を引き戻す。ここで彼女を置いていく訳にはいかないし、何より折角の時間だ。すぐには手放したくない。


 にしても、浴衣に答えとはどういうことだろう。紙やタグなどのものは無く、どこからどう見ても普通の浴衣だが。違いと言えば色と花の柄くらいだ。


「あ」


 何か思い当たったのか、泉が急に呟く。

 尋ねると彼女はくるりとこちらを向いて、口元に寄せていた人差し指を俺の足元を指し示した。


「その柄、菊の花だよね」

「? 多分そう」

「それで私が朝顔。ふっそういうこと」


 泉は一人で微笑み、一人で納得したようだ。

 答えを教えろとせがんだが、彼女はどうしてか教えてくれずはぐらかしている。彼女らしくない対応に驚きつつも、それさえも可愛らしく見えた。


 花火は続々と夜空に咲き、多くの人々を笑顔にする。

 泉の、自身が咲かせる笑顔に俺もつられて口角が上がった。


 まだ、この人の傍に居たいと思えた夜だった。

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