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プロローグ
ある一人の魔女《少女》が町を歩いていた。見た目は至って普通であり、皆が想像する帽子や箒の姿は無い。
彼女は寂しそうな顔をしていた。それでも前を向いて歩いている。
「あの子、魔女なんだって」
「物騒ね、こんなところ出歩くなんて」
ヒソヒソと話す声。少女はそれでも歩みを止めない。こんなことにいちいち反応している暇はないのだ。
突然、辺りに轟音が響き渡った。同時に聞き慣れたサイレン音が空気を殴る。
ヒソヒソと話していた人たちは悲鳴をあげて逃げ惑った。人の波に逆らうように進む少女を、構う人はいない。何人かはその姿を目にしたが、気にも留めなかった。
やがて轟音の元へと辿り着く。少女――魔女は手を前へ差し出し、何か呟いた。
すると辺りは静まり返り、人々はその場で静止した。
「大丈夫? 熱くなかった?」
彼女の足元には真っ白い花が揺れている。
魔女戦争伝説――彼女がその伝説だ。