鏡 ~ソラノイロ~
子供のころ、不思議に思ったこと。
『どうして水色って、水の色してないんだろう』
まさかそれを幼馴染の彼女から答えが聞けるなんて思わなかった。
「暑いね……」
七月の下旬、時刻は午後二時半。
私と彼女は、私の家で寝そべりながら彼女がつぶやく。
「ん? なんかあっちのほうに……」
「……一雨きそうな雲ね」
「……少しは涼しくなるかしら」
「だといいわね」
私たちがそんな話をするうち、その雲は空を覆う。
そして数分の後――。
ざー。
「……きたわね」
「ええ……」
土砂降りの雨。
ものの数秒で通り過ぎるためにいっきに降らせている、そんな夏の通り雨。
「……うそみたいに晴れちゃったね」
それから数分……彼女の言葉通りに、さっきの雨がうそのよう。
「しかも……暑いのも少し柔らかくなった気がする……」
「そうかも……」
「少し……歩こうか」
「そうね」
そういって私と彼女は外に出ることにした。
軽く着替えて外に出るともうそこには真夏の太陽がじりじり照り付けていた。
ただ、先ほどの雨が多少涼しくしてくれたようで、すごしやすくはなっていた。
ふと下を見れば、そこここに水たまり。
「……」
「どうしたの?」
私が水たまりを見つめているので彼女が怪訝そうに声をかける。
「いや……子供のころさ、どうして水って水色して無いんだろって思ったんだよね」
「? どういうこと?」
急に何を言われたのかわからないといった様子で彼女が聞き返す。
「いやさ、小学校の図工の時間に、絵の具の『水色』を見ててさ、これ水の色じゃないよねって思った、って話。
今でもぜんぜんわからないけどさ」
「あ、そういうことか。
私その理由、聞いたことがあるよ」
「え? ほんとに?」
「ええ。
教えてあげよっか?」
「うん、教えて教えて」
「よし。
じゃぁ、あの水たまり、よく見てみて」
「うん……」
「そうするとさ、何か色が見えない?
『水は透明』って常識というか、先入観を抜きにしてみると」
「……あ」
「わかった?」
そういって彼女は楽しそうに微笑んだ。
「そっか……だから薄い青なんだ、水色って」
「そういうこと……さて……そろそろ帰ろうか」
「そうだね……」
時刻は午後2時……夏の通り雨が過ぎ去った跡に、空の色が切り取られていました。
~fin...~