ファンタジーにおける、ワンランク上の命名方法について考えてみた【地名編】
本作は、主に西洋風異世界を作る人をターゲットにしております。それとあくまで主観です。個人的に思う「地名の良い名付け方」を考えていきます。基にする言語は主に英語、歴史部分や実在の地名は、主にイギリスを例に挙げます。
前作(そこそこ歴史に詳しいヨーロッパ人(笑)が、なろうテンプレを読んだ時の感覚を再現してみた【転生令嬢編】)よりはもうちょっと真面目です。
ネーミングセンス皆無の作者が使う、ただ史実を丸パクリする、ロジカル命名法!
ハイファンタジーにおける地名や人名…創作者なら誰もが少なからず悩んだ分野だ思います。
ハイファンタジーの美点、それは自分の妄想の赴くままに歴史や地形を創り、民やシステムを考えられる…そして何より、ジャガイモ警察の脅威が無い。
しかし一方で、やはり世界を一から全てを作らなければならないのは、大変である。特に地名。これに悩む人は多いのはないでしょうか?
王国名。領地名(及びそこから来る爵位名)。街の名前や村の名前。もし、貴方がそれらを、何となく響きの良い言葉を選んで名付けている、もしくは適当なカタカナを並べている、とかだったら、私はこう言います。
もったいない!
ある意味土地の命名は、創作心をくすぐる、中々楽しい物です。そしてやり方によってはその世界に、より一層深みとリアリティを与えます。
ではどうすれば良いのか?細かい説明は後でします。まず、以下の例を見て下さい:
ここに無名の土地Aがあります。Aは数百年後に都市に発展します。Aの地形で目立つのは、ゴツゴツした岩の様な大きな丘と、トネリコの森と、大きな川です。まだ知られてはいませんが、この丘には素晴らしい金鉱が眠っています。
数百年後までには定着する、Aの名前は何でしょうか?
正解はありません。しかし、ここで「ダイヤモンドランド!!!」みたいな、超脈略の無い事をほざいた人は、即退出して下さい(冗談です、戻って来て!)。また、「トネリコランド」と言った人…否定はしません。表向きは。
そして、オリジナル言語でピッタリな名前を即思いついた人…貴方はここにいるべき人ではありません。マイページへお帰り…!
結論から言うと、これだけの情報では良い名前は見つかりません。良い名前を付けるには、この「都市に発展するまでの歴史」を考えなければならないのです。幾つかの例を挙げます:
パターンその1:超平和&シンプルに
無名の土地Aには、やがて人々が住むようになりました。集落はやがて村になり、村は町に、町はやがて都市になりました。
最初の村人達は、川で取れるマスを中心に生きていました。故に、町になる頃には土地Aは「トラウト・タウン(Trout Town/マスの町)」と呼ばれる様になり、それはやがて簡略化され、「トラウトン(Trouton)」と呼ばれる様になりました。
命名:トラウトン
パターンその2:侵略された場合・その1
土地Aには、原住民が移住しました。しかし、彼らがそこに付けた名前はもう失われています。海からやって来た侵略者が土地Aを占領したからです。彼等は岩の様な丘の上に、砦を建てました。故にその土地は駐屯街に発展します。その駐屯街は、岩の上に建てられた砦にちなんで、「フォート・ロック(Fort Rock/岩の砦)」と呼ばれる様になりました。それはやがて簡略化され、都市になる頃には「フォルトック(Fortock)」と呼ばれる様になりました。
命名:フォルトック
パターンその3:侵略された場合・その2
土地Aの西隣の土地Bと、東隣の土地Cが侵略されました。侵略者は、防衛と軍事力強化の為、土地BとCを繋げる大きな壁を建てました。壁は土地Aのランドマークとなりました。やがて土地Aには人が移り住む様になります。地理的には壁の真ん中に位置するAの町は、「セントラル・ウォール・タウン(Central Wall Town/中央壁の町)」と呼ばれる様になりました。簡略化され、「セントラル・ウォルトン(Central Wolton)」になりました。
命名:セントラル・ウォルトン
パターンその4:村長の名前が…?
Aに村が出来ました。村の村長の名前はハリー。ハリーの村なので「ハリーズ・ヴィレッジ」、略して「ハリーズヴィル」と呼ばれています。やがて王様はその村を中心に、自治都市(burgh/バラ)の建設を命令します。自治都市となったので、「ハリーズヴィル」は「ハリズバラ(Harrisburgh)」となりました。
命名:ハリズバラ
王様「ああん!?俺が作った自治都市だぞ!?」
…命名:キングズバラ
王様「ああん!?俺の名前はサミュエルだ!」
……命名:サムズバラ
王様「ああん!?唯のサムじゃ無いだろう!」
………命名:キング・サムズバラ
パターンその5:聖者の名前が…?
Aの岩の丘は、聖者モイラが説法を説き、そして息を引き取った場所であります。彼女の埋葬はそこで行われました。故にその土地は、「セイント・モイラズ(Saint Moiras/聖モイラの)」となりました。
命名:セイント・モイラズ
挙げて行くとキリがありません!しかし、ストーリーも設定も、幾らでも思いつきます。土地Aの川が二国の国境となる場合、土地Aはシンプルに「ボーダーズ(国境)」(*実在する地名)になるかもしれませんし、トネリコの木や金鉱を目的に来た開拓民が、別の名前を与える可能性もあります。
以下の3点をハッキリさせれば、名前は自然と出来てきます。
1.その土地の地理的特徴は(山があるのか、森があるのか、川があるのか、特有の資源があるのかetc)?
2.最もその土地に影響力のあった民・人はだれなのか?彼等は何を目的にその土地に来たのか(例:原住民として暮らしていた、侵略者として乗っ取った、資源を求めに開拓した、等)?
3.1と2を交え、新たにその土地特有の特徴は出来たのか(新たな産物、建造物、文化等)?
これで十分です。命名する材料は整いました!
正直な話、命名法についてはこれ以上話す事はもうありません。次は、命名の際に使えそうなキーワードを挙げて行きます。(~が前に付いているのは、基本別の単語の後に来るキーワード(~バラなら○○バラ)、後に付いている場合はその逆です。無い場合は臨機応変)
*パッと思いついた物です。ちょくちょく加えていくかもしれません。
人工物系:
ファーム(farm)/農場・農村
フィールド(field)/畑
ヴィレッジ・ヴィル(village/vil)/村
~タウン・~トン・~ハム(~town/~ton/~ham)/町・街
~バラ(~burgh)/自治都市
キャッスル(castle)/城
フォート(fort)/砦
マーケット(market)/市場
チャペル(chapel)
チャーチ(church)/教会
カーク(kirk)/教会
カセデラル(cathedral)/大聖堂
アビー(abbey)/修道院
ナナリー(nunnery)/女子修道院
ダン(dun)/古代・中世初期の砦
ウェル(well)/井戸
ウォール(wall)/壁
シャイア(shire)/州
クロース(close)/路地
ストリート(street)/道
スクエア(square)/広場
コート(court)/デカい家とかを指す事がある(*一般的には裁判所や裁判)
地形系
ボグ(bog)/沼
ヴァリー(valley)/谷
デン(den)/巣、巣窟、洞窟、住処
リヴァ―(river)/川
バーン(burn)/小川
ブルーク(brook)/小川
フォード(ford)/(川の)浅瀬
フォレスト(forest)/森
マウント~(mount)/○○山
ヒル(hill)/丘
人系
キング(King)/王
クィーン(Queen)/王妃、女王
プリンス(Prince)/王子
プリンセス(Princess)/王女
ビショップ(Bishop)/司教
カーディナル(Cardinal)/枢機卿
アボット(Abbot)/男子修道院長
アベス(Abbess)/女子修道院長
セイント(Saint)/聖者
マスター(Master)/師匠、主
ロード(Lord)/主君、諸侯
また、上の単語はほぼ英語のみです。多言語を加えれば、バリエーションは更に豊かになるでしょう。
また、「なんか…案外単純。もっと捻らなくて良いの?」と思ったそこの貴方!良いんです、地名なんて案外単純な物なのです。捻りたければ勿論それも良いですが、時にはシンプルである事の方が良いのです。
強いて言うなら「単語をもじる」程度、上級者用なら「この土地の人は、特有の訛りがあるから、地名はこう進化した」的な物…ですかね?
しかし、実在する場所は本当に、案外こんな感じなのです。
土地Aの命名を考えていた時、私はこんな案が出ました。
「丘(ヒル・Hill)の上に城が建てられた。だから「Castle Hill (キャッスル・ヒル)」…「Castile」…あっ」
「じゃ、じゃあ…岩の上に城が建てられた。だから、「キャッスル・ロック」…あっ」
どちらも実在する場所です。一つ目はカスティーリャ王国の英語読み、意味は「城の土地」。二つ目はエディンバラ城のある場所、キャッスル・ロック、「城の岩」です。…た、単純!
勿論、実在の地名には、確かに複数の言語の影響下にあり、もう少し複雑なバックグラウンドの物もありますが、そうすると話がややこしくなるので、今回は無しです。
土地の命名方、如何でしょうか?少しでも皆様の創作の手伝いになれば、何よりです!
作者からの個人的なお願いです!皆さんの考える「土地A」の歴史と、最終的な名前をコメント欄に書いて頂けないでしょうか?
こういうのは自分で考えるのも良いのですが、やはり人のを聞くのも楽しいです。
最後に、本作に創作法に当てはまる、実在の地名(道の名前から州の名前まで)の例一覧(徐々に加えていきます):
メアリーバラ/Maryburgh(元ネタ:メアリー二世)
フォート・ウィリアム/Fort William(元ネタ:ウィリアム(オレンジ)の砦)
ニューカッスル・アポン・タイン/Newcastle upon Tyne(元ネタ:新しい城)
リヴァプール/Liverpool(元ネタ:泥水池)
チェシャー/Cheshire(元ネタ:軍団地の州)
ダンディー/Dundee(元ネタ:火の砦)
アバディーン/Aberdeen(元ネタ:ドン川の河口《アバドン→アバディーン 「アバ」がピクト語で河口》)
アーガイル/Argyll(元ネタ:ゲール人の海岸)
セイント・アンドルース/St. Andrews(元ネタ:聖アンデレ)
プリンシス・ストリート/Princes Street(元ネタ:王子の道 *エディンバラの大通り)
シャーロッツ・スクエア/Charlotte's Square(元ネタ:ジョージ三世の王妃と娘 *エディンバラの広場)
フィッシュマーケット・クロス/Fishmarket Close(元ネタ:魚屋路地 *エディンバラの路地)
ヘイマーケット、グラスマーケット/haymarket, grassmarket(元ネタ:藁市場、草市場)
コート・オブ・ミラクルズ/Court of Miracles(奇跡広場、昔パリにあったスラム。障碍者である筈の物乞いが、ここに入るとたちまち治って…?うわ~奇跡~という皮肉)