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死駅  作者: 京介
3/5

3.薬殺

 やくさつ。

 とっさに漢字が思い浮かばなかった。

 やくさつ。

 ヤクサツ。

 薬殺。

 扼殺。

 いくつかの言葉が頭に浮かんでは消える。

 いずれにせよ、ろくなものではない。

「やくさつってなんだよ……」

「あれ、知りません? 薬殺。お薬で殺す薬殺」

 女性は天気の話でもするような軽い調子でそんなことを言う。

「薬殺は知っている。私が言いたいのは薬殺が駅の名前ってどういう……」

「だから言ったじゃないですか。自殺のお手伝いをしてくれるんですよ」

 まあ見てれば分かりますよ。

 なぜか女性は楽しそうだった。

 やがて電車は止まり、ドアが開いた。

 女性は電車から降りた。

 私はどうしようかと考えたが、一人になるのは心細かったので女性のあとを追うように電車から降りる。

「あれ、薬殺でいいんですか?」

「どういう意味だよ」

「まあ、しばらく停車してるはずなので、よく見てたらいいですよ。私も噂が本当か確かめたいし」

 ホームには等間隔に簡易なベッドが並んでいた。

 全部で八つ。

 なかなか不気味な光景だった。

 ふと見ると、一人の男性がホームを歩いていた。

 私はその男性に見覚えがあった。

 私がこの奇妙な電車に乗ってしまったとき、ホームにいた男性だった。

 あの男性もこの電車に乗っていたのか。

「あの人はここで降りるんだ。やっぱり薬殺は人気があるなあ」

「人気って……」

「薬殺は苦痛が少ないって言いますからね。もちろん、ものによるんでしょうけど最初の駅だからきっと眠るように死ねるはずですね」

 訳の分からぬまま、ベッドへと歩いていく男性を見ていると、どこからか二人の男が現れた。

 厳密なことを言えば、その二人は白いローブのようなものを着ていて肌を一切露出してなかったし、頭もフードをすっぽりと被っていたため、本当に男なのかは分からなかった。

 身長や体型から男だろうと思っただけである。

 男性は白いローブ姿の二人と少し言葉を交わすと、ベッドに横になった。

 広いローブ姿の二人はベッドの脇に置いてある箱からベルトのようなものを取り出すと、手際よく男性の手足や腰の辺りをベッドに固定し始めた。

「あれは、何をやっているんだ?」

「だから、薬殺の準備ですって。最初に意識を失う薬、次は呼吸を止める薬、最後が心臓を止める薬。きっとあの男性、安楽に死ねますよ」

 薬で死んだことないから分からないけど。

 女性はそんなことを言いながらクスクスと笑う。

「さあ、もう行きましょう。そろそろ電車も出るころだろうし。もちろん、薬殺で死にたいならここで待ってればあの二人が殺してくれるでしょうけど」

 女性はそう言うと電車に乗る。

 私はというと、まだ状況がよく分かっていないのだが、少なくともここにいては殺されてしまうということだけは確からしいので慌てて電車に乗り込んだ。

 電車のドアが閉まり、車体が揺れた。

 次の駅に向かって電車が動き始めた。

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