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死駅  作者: 京介
2/5

2.出発

 車両内の様子がなんだかおかしかった。

 まず、私の他に一人しか乗っていない。

 いくら人の少ない時間帯であるとはいえ、さすがに人が少なすぎると思った。

 その一人というのも先ほどホームにいた女性である。

 よく見ていなかったが、人は降りてこなかったような気がする。

 ということはこの車両は無人だったということか。

 とりあえず座席に座ろうと思っていると、その女性に話しかけられた。

「あなたも死にに来たんですね」

 私は驚き、女性のことを見つめてしまう。

 この女性は何と言ったか?

「何ですって?」

「だから、あなたも死にに来たんですねって」

 どうも聞き間違いではないらしい。

 しかし一体どういうことだろう。

「どういう意味ですか?」

 私の問いに、女性はキョトンとする。

「だってこの電車に乗っているんですから」

 これは死を望んだ人間だけが乗ることができる電車ですよ。

 女性は私を見ながらそう言った。

「あなたも死にたいと思ったから、これに乗れたんでしょう。きっとそう」

「私は……」

 言い返そうとして私は言葉に詰まった。

 たしかに私は「死にたい」と思ったのだ。

 それは間違いない。

 しかし、そんな本気で考えていたわけではない。

 ふと思っただけだ。

「私は……そんなことは思っていない」

 やっと、それだけを言った。

「嘘ですね。もしそうなら、この電車には乗れません」

 私はやっと乗ることができました。

 女性は言う。

「私はずっと乗りたかった。でも乗ることができなかった。きっと、心の底から死にたいとは思っていなかったんでしょうね。でも、やっと乗れたんです。本当に、やっとです」

「……あなたが何を言っているのか、私には分かりません」

「この電車は死にたいと心の底から思っている人だけが乗れるんです。死のお手伝いをしてくれる駅に、私たちを運んでくれるの」

「……」

「まあ、そのうち分かると思います。すぐに最初の駅に着くはずですから」

 私は訳が分からないまま立ち尽くしていた。

 やがて車内にアナウンスが響きわたった。

 アナウンスが停車する駅の名を告げたのだ。

「いま、なんと……?」

「あれ? 聞こえなかったですか? けっこう大きな音だったけど」

「いや……」

 聞こえていた。

 次に止まる駅の名を、私は確かに聞いていた。

 しかし意味が分からなかったのだ。

「次の駅は薬殺ですよ」

 女性の嬉しそうだった。

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