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外見チート男の冒険譚  作者: よしお
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そして、10年後。冒険の終わり。


それから、10年が過ぎていた。


ある森の館に向かう人たちがいた。


1人は、半袖の白いワイシャツ、黒いスラックス、黒い革靴の背の高い男、1人は、長身の女性で、緑色のローブ、黒の長い髪が腰元まで伸び、右手には先端に水晶がついた短い黒いステッキを持っていた。1人は、ドワーフで銀のプレートメイル、大きなブレードソードを背中に背負っていた。1人は、白い髭の老人で茶色のローブをまとっており、背を超える、長い樫の杖を持っていた。


その館の正面にある、古い鉄製の門に来ると、白のワイシャツの男が立ち止まった。そして、他の全員も止まった。ワイシャツの男は、タルキ。これから戦闘だというのにワイシャツだった。


タルキ「皆さん、罠が仕掛けられています。ヴォルドさんも気づいていると思いますが、強大な魔法です。おそらく、お出迎えでしょう。」


ヴォルド「このまま入れば、ドラゴンの幻影が現れ、見破らなければ、ブレスで黒焦げになっていたじゃろう。」


ドワーフ「こわっ。今回、私の出番はあるのですかね。。。」


彼は、屈強そうなフル装備だったが、かなりの体力があるのだろう、浮いたように軽快な歩調だった。彼もこの10年かなり腕をあげたに違いなかった。彼は、ドムだった。


ヴォルド「ありますとも。」


ヴォルド「儂が、50年前、彼女と戦った時のことを鮮やかに思い出させるほど、ここは変わっておらん。屈強の剣士、優秀なクレリック、若い魔術師、弓を持った盗賊、そして儂がいた。かけがえのない仲間じゃった。」


「あなたが書かれた書物、あの伝説の一戦ですね。」、緑のローブの女性が言った。彼女は、無限の癒しを持つクレリックのレイラだった。


ドム「剣士はタルキさんの父君。そして、あなたと、クレリックしか帰らなかった。そして、クレリックは、レイラさんのお婆様」


「そして、命からがら逃げてきた。何が伝説じゃろ。」


ヴォルドは静かに笑った。


タルキと呼ばれた男は、また、いつものようにゆっくり語り始めた。

「父の仇などとは思っていません。私は世の中をあるひとつの意思で操作することはフェアじゃない、そう思うだけです。人は神になれませんし、なってはいけません。人は不器用の中にそれぞれの生活があります。母は、洗濯機があるのに、毎日、洗濯板で洗たくしています。その労力は無駄です。しかし、それを大事にして捨てない、いや捨てられないでいる。母は、父に洗濯機の音が嫌いだと言われてから、そうしてるのです。大した理由ではありません。しかし、父は既に帰らぬ人になりました。その死が、それを大した理由にしてしまいました。母はそれから洗濯機を絶対に使わなかった。しかし、それが生きるということ。」


「ここにいる彼女は、1人の人です。ただ、世界を動かす力を持っているだけです。戦争が各地で起こるのも、文明がある程度までしか発展しないのも、全て彼女が操作しています。僕は研究しつくしました。結局、図書館には答えはなかった。答えは、現場にしかありませんでした。誰も知らないことは書物になりません。また、書物にすると情報が欠如し、その情報は、ある観面だけのものとなり、裏の観面上では、嘘になります。僕は、セントランドの情報部から入手した情報によると、帝国のある侯爵が、彼女から魔力による収益を得ていたことが解りました。しかし、そのおかげで、謎の紐が解けてきました。一度、紐が緩めばあとは手繰るだけでした。予想通り、彼女の手は、各国に及んでいました。ただ、それが手下もおらず彼女1人の手によるものでした。その存在は、もはや、人ではありませんが、あるひとつの”意志”に違いはありません。」


タルキ「だから、消滅させるのです。みなさんは強い。おそらくこの先にいるゲイラと呼ばれる存在にも、勝てるでしょう。彼女を滅ぼすことで、幸せをつかむ人たちが増えるはずです。幸せは全員に享受されるべきで、過剰で偏ってはならない。それが神の意志です。」


「ただ、約束してください、死なないと。」、タルキは結んだ。


(彼女にとって50年の時は、さほどの時間じゃないだろう。永遠にそうし続けてきたのだから。)


***

予想通り、ドラゴンがお出迎えをした。ヴォルドが何やら唱えると、それはブレスを吐きかけながら、消えてしまった。


ドム「凄い迫力だった、あれは本物と思ってしまう。。」


レイラ「真のドラゴンだったら、勝てたのかしら。。」


タルキ「勝てます。あなた方はもう既にかなりの強さを手に入れています。私たちは各地で難易度が高い仕事受け続け、毎日のように強モンスターと戦闘を繰り返しました。そして、私たちは生きている。」


正面の扉は、魔法の鍵を使わずとも、自動で開いた。


ドム「本当のお出迎えですか。余裕ですね。。」


タルキ「そのようです。」


普段であれば、隊列の先頭はドムなのだが、この戦いは先頭はヴォルドである。扉を入ると、広間だった。上からシャンデリアが吊るされていた。正面の奥の天井付近には、教会を思わせるステンドグラスがあった。両脇から上へあがる階段がらせん状になっていて、広場は舞踏会ができるような広さだった。床は紫色で、シャンデリアは煌々と光っていた。


扉は自動的に閉まった。


モンスターは出てこなかった。無駄であることが分かったのだろうか。


広間の真ん中、ちょうどシャンデリアの真下に来た。


ヴォルド「ゲイラーーー。」


タルキ「ヴォルド、よけて!」


シャンデリアが、ガシャンと音を立てた。ヴォルドは、何とか避けたようだった。


ヴォルド「随分な挨拶じゃ。つまらぬことをするな。興が覚める。」


ゲイラと呼ばれている女は階段の上に立っていた。女は紫色のローブを纏っていた。肌の色は青白かった。髪はショートカットで、やはり、紫色だった。目は生気が感じられない、無限の冷たさがあった。


ゲイラ「あら、ごきげんよう。ヴォルドさんですね。御年を召しましたね。」


そして、美しい声音だった。全身がとろけそうだった。ドムは、既に力が抜けているようだった。これは、”魅了”の魔法だろう。さらに、眠気も襲ってきた。レイラは特に表情は変わらなかった。何とか耐えているだろうか。ヴォルドも平気そうに見えた。


ゲイラ「復讐とか、どうでもいいわ。興が覚めるのは私のほう。」


ゲイラ「そちらの男と話がしたいわ。1人で上がってきなさい。」


レイラ「罠よ。やめて。タルキ。お願い!」


ゲイラ「皆で来てもいいわよ。だけどね。面白くないでしょ。どうするのかしら?」


タルキ「ごめん。みんな。僕が行く。」


(みんなではきっと勝てない。僕は強さが解るから。相手は2桁は違う。僕が何とか交渉するしかない。そして、レイラを死なせたくはない。これがリーダとしての存在意義だ。)


「なんで、謝るのよ。それにあなた戦えないじゃない。」


レイラは泣きそうな表情をした。


(レイラ。ありがとう。これが終わったら。。)


タルキは、レイラを見た。


「大丈夫。必ず帰る」


そして、右の階段をゆっくり上っていった。


ゲイラは、ヴォルド達に聞こえないような声で何かを話し、ふたり、右の廊下へと視界から外れていった。どこかの部屋へ入った音が聞こえた。


***

空間に取り残されたヴォルドは言った。

「駄目じゃ。あまりに違いすぎる。ここまで修行して、相手の強さが解る程度とは。人間の寿命じゃ、短すぎる。無念。ああ、お二方、そこから動くんじゃないぞ。罠が仕掛けられている。それも先ほどのドラゴン級のな。ただ、動かなければ、助かる。あとは、タルキの能力に掛けよう。」


ドムは、「ああ、解りました。私は信じています。最初から。彼を。」


レイラも、「はい。信じるしかないのですね。内なる神に祈ります。彼の無事を。」


***

タルキ「話を聞きましょう。」


ゲイラ「随分と自信があるのね。」


彼女は、椅子に腰かけて、足を組んだ。タルキは別の椅子に腰かけて、窓の外を見ていた。空は曇っていた。特別な日だというのに、天気は普通に変化していた。


ゲイラ「私の存在意義もご存知のようね。それは神に逆らうことになるのではなくて?」


タルキ「神の定義があなたとは違いますが、あなたが居なくなると困る人は多いのも確かです。」


ゲイラ「今日という日を本当に楽しみにしてた。最初からこの日が来るのは知っていたから。あなたはどういう観点(存在)なの。人が神の領域を侵害する、理由を尋ねたいわ。」


ゲイラは、座っていた場所にはいなくて、ワイングラスを持って立っていた。


ゲイラ「人の存在に意味は最初からない。定義でしかない。人の感情、喜怒哀楽は化学反応でしかない。そして、正義、悪は定義でしかない。」


ゲイラは窓辺にいた。早すぎる。いや、時空を操作できる。彼女は並行世界に同時に存在している。そんなものに勝てるはずはない。


ゲイラ「私がいないと、人は幸せになれない。」


今度は、誰だかわからない肖像画の前にいた。


ゲイラ「私が居なくなって、あなた方は幸せになれると思うの?私がそう仕向けてる。人が人の幸福を仕向けるより、私がしていたほうが良いでしょ。」


そして、目の前にいて、耳元で、ささやく。


ゲイラ「存在意義に目を向けるべきでしょ。そして、あなたも、考えは至っている。」


タルキは、動揺することなく言った。


タルキ「同意すると思いますか?」


ゲイラ「あなた、私に勝てると思っているのね」


タルキ「あなたの存在は、今日消えると思ってください。だから、言いたいことは全部、僕に下さい。」


ゲイラ「そう。別に未練はないわ。つまらない日々だった。一つの存在って悲しいわ。私と同類が存在した時代から、幾年たったのかしら。久しぶりに会話している。確かに数十年に1度程度は、あなた方と似たような冒険者が来る。彼らは、いつも、私を本気で倒そうとする。でも、考えが足りないのよ。筋肉や魔力をいくら鍛えたってしかたないでしょ。下の3人もそう。あの魔法使いの魔力は確かにすごいわ。人間の領域を超えている。でも、私を倒せない。あの、黒髪の女の子の中には、神が住んでるわね。でも、私を倒せない。あの剣士は既に寝ているでしょうけど。あなたのお父様よりも強いわよ。」


タルキ「はい。みんなに隠すつもりはありませんでしたが、言う必要もないことがあります。僕にとって、仲間は大切です。そして、ひとりはつらいです。力であなたを倒せないことも知っています。」


ゲイラは、端正な顔をしていた。レイラに似てなくもない。見た目は20代だ。ただ、あまりに美しい。既に魅了されているのかもしれない。


タルキ「質問があります。聞いていただけますか?」


ゲイラ「世の理でも聞きたいの?やめときなさい。あなたは、私になりたいわけじゃないでしょ。」


「それより、私とキスをしない?」


無抵抗のタルキに唇を合わせた。いい香りがした。


タルキは、人としての欲望が湧き上がった。


・・・


階下が心配になった。あまりに静かだ。普通なら助けに来ようとするはずだ。

いや、行為に背徳感があったのかもしれない。


ゲイラは、唇を離した。


ゲイラ「下の者たちは、きっと死んでいるわ。少なくとも、助けには来ないわ。」


ゲイラ「罠は無限にある。賢いものであれば、とどまり、動けない。無知であれば、罠にかかって命を落とす。どう、人として化学反応した(怒った)かしら。」


ゲイラ「人間とのキスは、それなりにいいわ。」


彼女は、タルキの膝の上に乗っていった。顔が近い。今度はタルキから、ゲイラにキスをしていた。


・・・


何秒、何分そうしていたか。。


静かに唇を離した。


タルキ「人(彼ら)は、思った以上に賢いです。一緒に帰ることにしたんです。」


ゲイラ「そう。仲間は楽しいかしら。」


タルキ「ヴォルド以外は、10年も一緒にいる。それだけ。ですが。それが生きるということなんです。僕は暇をつぶしているのではなくて、生きるというゲームをしてるだけです。あなたが、世の中の均衡を保つゲームをしているのと同じように。」


タルキが続ける。

「古代、この世界に数人の意志が降臨しました。僕の推測ですが、彼らは生きるために降臨したと思っています。彼らは、この時空に寄生することで、それを達成しようとし、それが波動を起こしました。時が始まったのです。僕は、その波動を”未来”と定義しました。”未来”は、無限のエネルギーであふれていた。ただ、それを具現化するには、”今”に”生きる”というエネルギを足し、”過去”することだった。」


ゲイラは無表情だったが、感情が感じられないが、とても素敵だった。

否、神にも化学反応ではない感情があるのだ。。


ゲイラ「神に講釈かしら。」


タルキ「数人の意志は、無限のエネルギーを良しとし、有限化することを悪と定義した。なぜなら、具現化したエネルギーは、”今”の一瞬の煌めきを経てゴミとなり、たまる一方だったからだ。意思は無限のエネルギーを具現化させないよう監視を始めた。」


ゲイラは、いつの間にか、窓際にいた。

「ある日、何から何を守っているのか疑問を持った。」、ゲイラが続けた。


ゲイラ「何もないのよ。外にも内にも。私たちはなんで存在したのかしら。」


部屋の電気のスイッチの前にいて、指でスイッチを押し蛍光灯がついた。


ゲイラ「いいわね、手動って。スイッチを押すと電気がつく。今、押せば光っている未来が過去になる。光っている過去が確定した今にいる。私は過去も未来もなく、同時に存在して自由だわ。どの選択肢もある。貴方が死んだっていいし、恋人になってもいい。でも、存在がきえれば、貴方の人生に私が居なくなる。それだけだわ。」


ゲイラ「そして、複数の意思の考えが異であることを示したわ。人のように存在意義を定義したのは私だわ。」


タルキ「複数の意思が目指したのは、”消滅”ですね。」


ゲイラは、答えなかった。何かを告白すべく、思念を送ってきたように思えた。


(理由を付けて生きれば、それは存在意義。そして、私はこの時空の最初から生きている。彼らは存在意義を否定し消滅した。私は無駄(存在)を選択した。そこに発生したのは、無限の暇。本当に人は認知しないで幸せだわ。私が無駄を選択したのは、何の意志なのかしら。私の意思でありそうで、そうでもない。複数の意思と私は何故、異な存在だったか。無限の悲しみと無限の喜びは、未来に可能性を起こす。波はすべてを存在させる。私たちを超える存在にだってなりうるでしょ。)


タルキは、ゲイラの思念をもって、”存在”を共有した。


タルキ「僕は、あなたのその姿(見た目)にやられました。好きになりました。」


ゲイラ「ありがとう。私はあなたの顔が好きだわ。」


大いなる意思の最後の一人はタルキと統合した。そして、タルキの世界に、ゲイラの消滅は確定したが、それはタルキのこの世界のみの小さな確率でしかない。そういう絵画が好きなだけだ。


(終わり)


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