名剣術士、パーティに入る
レイラとパーティを組んで、3カ月が過ぎた。
彼らはいまだに一度もモンスターに出会わなかった。そして、隣接する町のいくつかの地理に少しだけ詳しくなった。お気に入りの喫茶店、町をめぐる楽しみが増えたので、仕事は楽しかった。なにより、2人で一緒にいるだけで楽しかった。
ある日、届け物が終わって、隣町の喫茶店で話題になった。
「ところで、モンスターが出てきたら、どうやって戦うの?」
甘そうなクリームが乗ったコーヒーのストローに口を付けながら、レイラが言った。
「御覧の通り、僕は武器持ってない。」と、笑った。
「この前、ギルドの人も言ってたよ、この前、冒険者が襲われたんだって。」
タルキは全く聞いておらず、その整った顔をずっと眺めてた。
「レイラは、僕が傷ついたら治せるの?」
「すり傷、切り傷の止血はできるよ。ただ、深い傷はやったことが無い。」
タルキは、突然、ナイフで自分の指に傷を入れた。赤い血が勢いよく飛び出た。
「いきなり、何してんのよ!」
彼女は、すぐに”手”をかざした。なにやら、つぶやいているようだった。気づくと、アッという間に傷がふさがった。
(えっ?すごい。本物なんだ。。)
「本当なんですね??」、間抜けな物言いである。
逆に戦闘の準備もしないタルキは、詐欺のようなもんだ。
「何だと思っていたのよ?」、彼女は、ぷくっと、顔を膨らました。
長い脚は組んだままだった。
(まだ、全然精いっぱいじゃない。すごい能力だ。。このまま、僕と付き合わせるだけでは勿体ない。。)
「ぶつぶつ言って、どうしたの?」
しばしの沈黙。。。
「パーティを増やそう!強い人を仲間にしようよ!」、タルキ。
レイラは、怪訝だった。
「さっき、レイラが言ってたことは本当だと思う。パーティとして、世の中の役に立ちたいよね。」
「私は”タルキ”が戦うんだと思ってたよ。練習すればいいじゃない?」
「人生は短い。鍛えたって、二束三文。素質がある奴を仲間にした方が、パーティとしては正しいんだよ。」
レイアは微妙な表情をした。
+++
その会話の後日。
ギルドのスタッフに聞いてみると、若い冒険者がパーティを探しているとのことだった。剣はつかえそうで、若い、ということだった。
ギルドの会議室で、待っていると、コンコン、失礼します、と若者が入ってきた。身長160cm程度の小柄でがっちりしたドワーフだった。僕は、人種差別が無いので、全く抵抗はなかったが、レイラは何ていうだろう。
「今日はよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
オーラから疑念が見えた。会議室と呼ばれている部屋は、机、椅子、扉、壁などすべてが濃いこげ茶色の木材でできていた。机の表面は、年輪模様が浮かんでいて、きれいに磨かれていた。電球は、白色の明るいタイプの蛍光灯がだった。
「年齢はいくつですか?」
経歴書をギルドに出す習慣はないため、自分で基本スペックを確認する必要があった。
「19です」
彼は以下のように語った。
「1人で冒険者をしています。先日、戦闘で傷を負ったのです。オークの不意打ちです。普段、オークなどは敵ではありませんが、不意打ちで右肩に斧が掠ったのです。致命傷ではありませんでした。しかし、クレリックがいないので、止血できなくて、結局、逃げて町まで帰りました。そして、医者で治してもらいました。」
話は続いた。
「私は、剣の腕には覚えがあって、わざとパーティを組まずにおりました。タルキさんもご存知の通り、パーティの人数が増えると、収入は人数割りになります。そのため、仕事も増やさないといけないって、その忙しさから、パーティ内で喧嘩になるなどトラブルもよく聞くので、面倒だったんです。しかし駄目です。一人だと限界があるし、やっぱり寂しい。」
「剣の腕について、証明はありますか?」
「ご存知かもしれませんが、”一本流”という剣術の流派があります。私は師範代の免状を師範から受けています。」
(これってかなり凄いクラスなのかも。)
彼をパーティに入れなくてはいけない気がした。
「私たちは、あなたのような剣の腕を必要としています。しかし、パーティで一番大事なのは、人格と思っています。」
タルキは、リーダでパーティ管理者、人間の女性のクレリックの2名で構成していることを伝えた。さらに、タルキは全く戦えない事、世の中の役に立ちたいけど、自分ではどうしようもないこと、仲間のクレリックはかなりの能力がある事を伝えた。
「是非、入れさせていただきたいと思っています。」
彼は何に魅力を感じたのか、わからなかったが、オーラから、疑念が消えていた。
(なんでだろう。。)
オーラから、彼が誠実であることが解った。ただ、レイラとうまくやれるか気になった。レイラが美しすぎるのが気になった。下世話な話だが、好きになられると面倒、と思った。
+++
レイラとのRINEでの会話。
タルキ:面接終わったよ
レイラ:どうだった?
タルキ:ドワーフ、男、若い。
レイラ:!?、ドワーフ?
タルキ:抵抗あるかな。
レイラ:大丈夫だと思う。あまり知り合いにはいないんだけどね。私、波風立てないタイプだし。
タルキ:すごいんだよ。一本流師範代なんだって。知ってる?
レイラ:えっ。知ってるよ。割と有名な流派だと思う。でも、そんな腕前なのに1人って、性格的に問題があるんじゃないの?
タルキ :ある意味、僕はそれしか見てないんだけど、多分大丈夫。
レイラ:タルキが良いなら、多分大丈夫だね。他に何か気になるのかしら?
タルキ:いや。
レイラ:何よ。
タルキ:男だからさ。なんていうか。大丈夫かなって。
レイラ:いい人そうなんでしょ?
タルキ:うん、そこは根拠のない自信がある。
レイラ:タルキの根拠のない自信を信じるよ。気にしてくれてありがとね。
こうして、なんの苦労もなく、腕利き剣士が仲間となった。
(つづく)