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外見チート男の冒険譚  作者: よしお
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冒険の始まり

制御ができないものが愛おしい。高次元から低次元を見下ろすのと、低次元から高次元を予想するのは、どちらが楽しいか。一枚の絵画は瞬間を映し撮った。命のはかなさと生命の強さの両方を描くことはできない。何が私を魅了するのか。観測者の感性と対象物がリンクした瞬間に、恋が始まり、また、憎しみが始まる。


過去は、物質的に確定したものになり、わずかな確率を辿った冒険譚は伝説となる。

そして、未来は波動として確率的に存在し、邪悪を打ち滅ぼすことも不可能ではない。

陽光、煌めく光が、緑輝く大地を挿した。小鳥がさえずり、穏やかな風は、大地の草原を撫でた。


両開きの窓は、片側が全開だった。レースのカーテンの端が少し浮かび、彼の鼻のあたりをくすぐった。彼はベッドで寝ていた。町は丘陵地帯にあり、さらに家が、街はずれの崖の上にあるため、窓の風景に、空と緑の大地しか映らなかった。


母と2人暮らし。今年、18歳になった。この国では、成人と呼ばれ、働かなくてはならなかったが、ノープランだった。。。


でも、それは昨日までの話だ。


目をこすりながら、食卓に座った。


柱時計は、”ゴーン”、となった。そして、10回。終わるまで、彼は動きが停止していた。寝ぼけている。


彼の名は、タルキ。身長180cm、髪は緑、目も緑、白いTシャツ、黒の皮パンをはいていた。


ふと我に返ったように言った。


「かあさん!なんで起こさなかったんだよ!」


「朝ご飯はどうすんだい?」、母は、洗濯板でゴシゴシやっていた。


「いらない、行かなきゃいけないんだ。」


(やばっ、遅刻だ。急がなきゃ。)


約束の時計台までは、多少距離がある。自宅の扉を出ると、下りの数十段の階段がある。2段飛ばし。降り切って、右、塀を乗り越えた。緩やかな下り坂を左への旋回した。石畳を全力で走った。両脇には3階建ての石造りの建物が続いた。


(もし、帰っていたらどうしよう。)


時計台は噴水の真ん中にそびえたっており、町の中心だった。


(彼女は??)


かなり目立ったので直ぐに分かった。


「本当にごめん」、手を”ごめん”しながら、近寄った。


彼女は走ってきたタルキを見て、にっこり微笑んだ。


「大丈夫、今、来たところだから。」、彼女は、下の方で軽く右手を挙げた。


「そんなに急がなくても、携帯で連絡くれればいいのに。」


待ち合わせの相手は、長い黒髪が腰まであり、目は大きくわずかに吊り目で二重、色は黒、まつげが長く、肌は透けるような白、鼻筋はスッ、と通っていて、唇は薄く、口の端は、キュッと上がってた。耳以外の見た目はエルフのようだが、彼女は人間である。そして、背の丈が170cmほどあった。


黄緑のノースリーブのワンピースを着ていて、その上から同色のレースのマントのようなものを羽織っていた。左手には120cmほどのステッキを持っていた。先端には小さな水晶がついていて、魔力を増強してくれると言っていたっけ。


彼女の風貌は、人の視線を集めていて、時計台の周りの出店の準備をしているおじさんや、各店に材料を運ぶ運搬業の若者も彼女をチラチラ見ているのが解るほどだった。


「思いつかなかった。ごめん。」


「あやまり過ぎ。」、また、笑った。


時計台の時計は、10時15分すぎていた。


(流石に、今来たってことはないか。)


彼女は少し疲れていたようにも見えた。タルキは昔から、相手の様子がよく解った。それは、朧げなる感じではなくて、相手の雰囲気から発せられるオーラのようなものを感じることができた。


(ずっと立っていたから疲れたのか。)


「本当は30分くらい待ったんでしょ。」、また、謝りそうになった。


「実はね。待ち合わせの10分前に来ちゃったの。。気合入り過ぎだね。」、彼女は、恥ずかしそうに笑った。


(なんで、僕は遅刻をしたのだろう。。こんな美しい人とデートなのに。)


デートではなかった。冒険者としてパーティを組んで、今から、ギルドへ登録をすることにしていた。最近若者の間では、冒険者は、一番人気の職業だった。何しろ時間が自由、服装も自由、厳しい上司もいない。夢のような職業だ。しかし、収入額が低かった。仕事内容は、いわゆる何でも屋さんだ。大きく分けると、王国から出ている公式の依頼と、私的な団体ギルドから出ている依頼、の2つである。初心者は、王国の仕事を受けることはできないので、ギルドに行って仕事をもらうことになる。ギルドは、基本的に9時から17時までオープンしている。仕事は、手付金が設定されていて、受け付けられた瞬間に支給額をもらえる。また、結果を報告して、依頼主がOKを出すと、達成報酬が貰えるシステムになっている。勿論、達成期限も設定されているため、ギルドも達成できそうな冒険者に仕事を任せる。つまり、ギルドの信用が無いと仕事がもらえない。


初心者は、ほとんど、町から町への物品の運搬業だった。雖も、人気があるため、仕事が全く回ってこないことも、ざらにあった。報酬額は、隣町への運搬を1日1つこなしていると、生活が何とか出来るというレベルだったため、ほとんどの冒険者は副業をしなければならなかった。どちらかというと、冒険者を副業としている場合の方が多かった。通貨は、ジェンといい、ギルドからの報酬はスマホに送金された。スマホというのは、国民が全員支給される携帯コンピュータのことである。これはポケットに入るサイズで、身分証明書、兼お財布だった。国民はスマホを命に匹敵する大事なものとしていた。


ギルドの信頼度が上がり、ランクの高い仕事が受けられるようになると、報酬がぐんと上がるため、夢のある職業でもあった。内容も運搬だけでなく、モンスター対峙、貴族の護衛、など様々な仕事があった。ある意味、戦闘能力さえ高ければ、年齢に関係なく、ランクは上がった。


町の外(壁の向こう)にはモンスターがいる。町のすぐ近くや大きな街道にはほとんどいないが、森や夜間は、モンスターとの遭遇率が跳ね上がった。当然、森への運搬や夜の運搬は、報酬もたかくなった。モンスターは、人の生気を奪うことによって生命を保持しているらしい。モンスターと言えども、ある程度の知能があるため、彼らも大勢の人がいる昼間には出てこない。それに、冒険者の中にはかなり強い人がいるので、モンスターもおいそれとは襲ってはこなかった。


「お腹空いたな。」、タルキは思ったことを言ってしまう性格なのだ。


「朝ご飯食べれなかったのは、誰が悪いのよ。」、と、小首を傾けて僕を覗き込んだ。


髪が揺れて、シャンプーのいい香りがした。


「はい、自分のせいです。」、敬礼のポーズをとった。


「よろしい。」、彼女も敬礼をした。


傍から見るとデートにしか見えなかった。


***

彼女との出会いは、昨日の成人式だった。


成人式の祝宴は、自治体の青年団が毎年行っているイベントで、大抵、梅雨が明けた初夏に実施されている。町の18歳になった人は、全員参加することになっていた。タルキは、同じ年に友達がいなかったので、肉だけ食べて、早く切り上げようと思っていた。


町の成人だけでも100人を超えていた。その祝宴は屋外でBBQ形式だった。食材を自由にとって、勝手に焼いたりするというバイキング方式だ。沢山の生肉、野菜、フルーツなどがあり、アルコールもひとしきり置いてあった。タルキは、アルコールが駄目だったので、ひとり、肉ばかり食べていた。


(それにしても、成人って何だろう。)


(働くって何だろう)


妄想は続いた。人が働く理由が解らなかった。お金があれば、働かなくていい、という論理も不明だった。お金というのは何だろう。それ自体は、木を切れないし、食べられもしない。わからないことが多かった。だけどタルキは、人の役に立つことをすると嬉しかった。休日は必ず誰かの何らかの手伝いをして過ごした。報酬などは全く欲しくなかった。だから、就職には興味が無かった。


段々、食べ物がなくなってきていて、暇になったので、テントの外に出てみた。いつの間に、空が朱色に染まっていた。川原の広場には、家族ずれが子供の写真を撮っていたり、学生がバレーボールなどしていた。結構な賑わいだった。


視線を戻すと、そこに彼女はいた。


彼女は一人で、遠くを見ながら、飲み物を飲んでいた。明らかに、人を寄せないオーラを出していた。タルキには、少し落ち込んでいることが解った。


「夕日がきれいですよね。」


彼女は、ハっと、したような顔をした。「そうですね。。」


「話しかけてもいいですか?」、彼は真顔で、彼女を見つめた。


彼女は、タルキの目をじーっと見返していた。


暫く、時が止まったようだった。


彼も彼女も氷づいたように動かなかった。


沈黙。。。恋?


ふと時が戻った。聞くと、あまり複雑な状況ではないようだった。彼女は、このパーティで誰にも声を掛けられてなかったそうで、さらに声をかけるタイプではないから、若干、落ち込んでいただけだった。


「たぶん、君が人を寄せ付けないオーラを出していたからだと思うよ。あと、ちょっと美人過ぎるかな。」


彼女は、少し顔を赤らめた。


彼女は首を横に振ると、髪が風に流れ、夕陽が反射した。目がぱっちり開いて、笑顔になった。同時に夕陽が頬に照りかえった。


パーティは、いつの間にか終わっていて、係の方々がごみを集めたりしていた。その後、2時間ほど、川原のベンチでこれからのことや自分のことなど話した。彼女のオーラは、今までにない居心地の良さだった。彼女は、名前をレイラといった。


タルキは、人の役に立ちたいと言った。


レイラ「人の役に立ちたいってことは、やはり冒険者志望なの?」


タルキ「冒険者って、人の役に立てるの?」


レイラ「どんな職でも、人の役に立つと思うけど、人の役に立ったことを体感したいのなら、ボランティア活動のようなもの、つまりは冒険者かなって。」


タルキ「そうだ。冒険者、なろう。」


急に、何か解ったような気がした。


タルキ「レイラは何になるの?」


レイラ「決めてないわ。さっきまで考え事していたの。どうやって生きようかって。」


タルキ「良かったら、僕のパーティに入らないか?一緒に冒険しようよ。人の役に立とう。」


駄目元で誘ってみた。もしかして、これは恋なのだろうか。冒険者のプランニングなんて全くできてなかったし、実はどうしてよいか、よくわからなかった。


レイラは、うなずいた。そして、明日、時計台の前で待ち合わせることにしたのだ。


(つづく)

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