表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第04話 来世に望むこと

「えーと……女神さん?」


様子のおかしい女神に創大はそう問いかける。

しかし、そんな創大の声は一切聞こえていないのか、女神はブツブツと何かを呟いていた。


「ちょ、ちょっと待って……え?億?嘘でしょう。こんな出鱈目な数字……桁が違うなんてもんじゃないわ。何が起こって……いえ、一回冷静になるのよ。再度数字を数えましょう。えーと、一、十、百……やっぱり530億じゃない!」


最後の「530億じゃない!」でガタンと大きな音を立てながら勢いよく立ち上がった女神。その反動で座っていた椅子が後ろに倒れた。

しかしそんなことも気づかない様子の女神は、若干血走りかけている目でディスプレイをガン見しながら喋り続ける。


「待って待って待って!530億!?いえいえ、おかしいでしょうこれは!今まで私が担当してきた転生者でも、最大で5千万あるかないかぐらいだったのに!」


「あ、やっぱり多いんだ。」


薄々感じてはいたものの、女神のその言葉で確証を得る創大。

しかし今度はその呟きが聞こえたようで、女神はハッとした顔をするとこちらを振り向いた。


「あ!っと、すみません。私取り乱してしまいましたね。転生者さんを放置するなんて……()()の癖に()()()えてないのか……なんちゃって。」


華麗な女神ジョークが炸裂するが、創大は愛想笑いを返すので精いっぱいだった。

そんな創大の若干引き攣り気味の笑みにハハハと乾いた笑いを顔に浮かべ、「さてと、冷静になって、まずは着席。」と言いながら腰を下ろす女神。


「あ。」


そんな創大の呟きは女神がこける鈍い音と「ぎゃん!」という悲鳴でかき消された。


(うーん、どうしたものか。女神さん、絶賛取り乱し中だな。)


お尻をさすりながら顔を赤らめ立ち上がる女神を尻目にそんなことを思う創大。

しかし、当の女神本人は恥ずかしいながらも痛みで多少頭が冷静になったのか、自身の後ろに倒れていた椅子を起こすとゆっくりと腰掛け、一度咳ばらいをした。

そして創大の目を真っすぐ見つめ、こう言った


「創大さん……あなたは何者ですか?」


しかし、真剣なその問いに創大はなんて返そうか困ってしまう。

なぜなら、自分は押しも押されぬ一般人。それ以外の何物でもないからだ。


「特に普通の日本人の男性ですが……。」


「あり得ないです!」


女神は食い気味に創大の答えを否定する。


「これだけの転生ポイント……正直その星の壊滅を一人で防いだとしても得られる数かどうか……。私も今まで数々の偉業を成し遂げた転生者たちを担当してきましたが、それでも5千万前後です。私の選任はそれこそ歴史上に名を遺す偉人達も担当したと聞きますが、それでも10億くらいだったはずです。つまり創大さんの530億という数字は規格外なのです。」


そう語る女神。その声からも本当に困惑している様子が伝わってくる。

しかしだ。もちろん創大に地球を救った記憶なんてない。自分はそんな特別な選ばれた人間ではなく、ただ普通に生きてきただけの凡人だ。

その事は誰よりも自分が知っていた。しかし、だからこそ創大は生前……。


いや、今はこのことは置いておこう。

ただ、そうは言っても目の前で切実な視線を向けてくる女神が少し不憫で、思いついたことを呟いてみる。


「でも、そう言われると確かに僕が生きるうえで掲げていたポリシーは、転生ポイントが溜まりやすいものだったかもしれません。」


「それは何ですか!?他の星からの侵略者を防ぐのが趣味とかですか!?」


「そんなハリウッド的な趣味じゃないです。」


訳の分からないことを口走る女神に創大は突っ込みを入れる。

なんだ侵略を防ぐ趣味って。ハリウッド映画でも趣味ではエイリアンと戦ってなかったぞ。

国を挙げて地球を防衛するような映画は幾度となく見てきたが、あれを一人で趣味感覚でやってたら世の中のヒーローが職を失うだろう。


そんな創大の突っ込みにも臆することなく、キラキラと目を輝かせる女神。

創大は若干の言いづらさを感じながらも口を開いた。


「自分が正しいと思うことを行う……それだけですよ。」


「正しいと……思うことを?」


首を傾げる女神に「そうです。」と頷く。


「例えば道端にゴミが落ちてたら拾うとか、落ち込んでる人がいたら励ますとか……そんな大それたことではないです。ただ、そういう生き方をしてきました。」


「いえ、立派ですよ!誇っていい生き方です!」


拳をギュッと握りながらそういう女神に創大は「ありがとうございます。」と言いながら頭を下げる。

しかし、苦笑しながら言った。


「でも、それは要因にはならないですよね。」


それを聞いた女神は申し訳なさそうに頷く。


「はい……非常に立派な生き方ではありますし、そんな創大さんが転生者に選ばれるのは当然の事だと思うのですが……それだけでこの転生ポイントが溜まるとは思えないです……。」


「いえ、僕もそう思います。歴史上の偉人が10億でしょう?おそらくその中には医療で多くの人を救った人や、音楽で戦争を止めた人なんかもいるはずです。僕なんて人を救ったことすら……ああ、最後に女の子を救うことができたんだっけ。ただ、そんな偉人たち偉業には遠く及びません。僕はあくまで自分の手の届く範囲で、行動をしてきました。」


謙遜でもなんでもない。これは創大の本心だった。

もちろん過去の偉人たちではなくとも、創大が生きていた現代にも後世に語り継がれるような偉業を成し遂げた人はたくさんいた。人々の生活水準を高めるようなテクノロジーを発明したり、貧しい国に病院を建てたりなどだ。

だからこそ相対的に見た時に、創大は自分が一般人以外の何物でもないと断言できる。

そのような規模の大きなことを成し遂げた経験は創大にはなかった。


「そうですか……。」


女神は顎に手を当て数秒考えた後、何かを決めたように創大をちらっと見た。


「このようなことを転生者さんの目の前で行うことは非常に申し訳なく申し上げにくいのですが、念のため一度本社の方に転生ポイントの確認を取らせていただきます。」


(本社?)


ますますサラリーマン感の増した女神の発言だったが、一応創大は頷く。

確かにこの転生ポイントは転生者の来世を左右する重要な様子だ。ポイント数が間違えてましたでは済まされないだろう。

それを見た女神は手を耳に近づけると、次の瞬間手が仄かな明かりを灯した。


「あ、お疲れ様です。地球担当のエルです。転生業務の件で確認したいことがありまして……」


まるで電話するかのように手に向かって喋り始めた女神。

ただその様子を見る限り、どうやら遠隔通信のような形で本社と呼ばれるところと繋がっているようだった。


(ていうか、この女神さんエルさんって言う名前なんだ。)


そんなことを思いながらも、あまり人と電話している様子を眺められるのも女神さんがやりづらくなるかと考えた創大は、ボーっと【53,000,000,000】と書かれたディスプレイを眺めていた。

それから何やら本社とやり取りをしていた女神だったが、急になにやら狼狽え始め「え?だからと言ってですね、あの」と言うと、最後に「ちょっ」と言った切り、呆然とした顔で目をぱちくりとさせていた。


「えーと、女神さん?」


手の明かりも消えており、様子を見る限り本社との通信は切れたみたいだったので、一応呼びかける創大。

女神は少しの間放心したように動きを止めていたが、ゆっくりと創大の方を見ると言った。


「本社に確認を取ったのですが、やはり創大さんの転生ポイントの数は間違っていないとのことでした。」


一言一句を確かめるかのように喋る女神。

しかしそう言われても創大は何と返すべきか迷ってしまう。


(そうですか……いや、良かったですの方が適切かな。うーん、リアクションに困るな。)


そんな創大の悩みに気付いたのか、女神はまたハッとした顔をする。

そして一度咳ばらいをすると、気を取り直したかのように喋り始めた。


「色々とお待たせしてしまい申し訳ございません。先ほども申し上げました通り、創大さんの転生ポイントに誤りはございません。530億。これが創大さんの所有する転生ポイントです。」


その言葉に創大は一度頷く。


「この転生ポイントの内訳というものは本来開示されません。そのため詳細をお伝えすることができないのですが……確かに創大さんはこのポイントが溜まるだけの事を前世で行ったということです。」


そう説明する女神。

確かに気にならないと言えば嘘になる。しかし、実のところ創大は【530億】という数字にそこまで囚われてはいなかった。それは創大の中にある“ある思い”に起因していた。

そのため、特に何を言うでもなく、創大は再度頷いた。


それを見た女神は創大のリアクションの薄さに若干目をしばたたかせたものの、一度咳ばらいをすると話を続けた。


「では改めまして……この転生ポイントを使用して、いよいよ創大さんには来世を過ごしていただく転生先やスキルを選んでいただきます。」


「分かりました。」


そう言って頷く創大。

しかし女神は少し険しい顔をすると「ただ……」と言った。


「正直これだけの転生ポイントとなると、選択肢が多すぎておそらく選ぶ労力がとても大変だと思います。」


「あぁ、なるほど。そういうことですか。」


女神の言わんとしていることを察した創大。

おそらく最初の説明に合った通り、本来は自分の転生ポイントをうまくやりくりして転生する星やスキルを決めていくはずだ。

その中では、これを選んだからこっちは選べない、これを選ぶためにはもっと他のポイントを節約しなければならないといった選択があるのだろう。

しかし今回の創大の転生ポイントは規格外の数だ。そのため、そういったやりくりをする必要がない……逆を言えば選べる項目が多すぎてしまうのだろう。


(ただ、僕が来世でやりたいことは決まってる。それを見つけ出すために、そんなに時間をかけるのも時間の無駄だな。)


創大がそんなことを考えている時、女神がある提案をしてきた。


「そこで、もしよろしければ今回は創大さんのご希望をおっしゃっていただければ、私の方で適切な転生環境をセレクトさせていただきますよ。」


それこそまさに創大が心の片隅でお願いできないかと思っていたことだった。

そのためすぐに頭を下げると言った。


「ぜひお願いしたいです。」


それを聞いた女神は頷きながら「分かりました。」というと、創大の目を見ながら希望を聞いてきた。


「では……正直に申し上げて創大さんのポイントがあれば大抵の事は可能です。どこかの国で容姿端麗な王族の子供として生まれ何不自由ない人生を歩むこともできますし、魔法を極めた賢者として世界の秩序を守る……それこそ半分神のような存在にもなれるでしょう。」


(最初に説明を受けていた時に考えていた転生先でチートでウハウハって奴か。まさか、自分自身がその人生を選択できる立場になるなんて思ってもみなかったな。)


人生何が起こるか分からない……いや、創大としての人生はすでに終わっているのか。

でも、まだ女神さんからは創大と呼ばれているし、この瞬間は未だ創大としての人生にカウントされるのか。

そんなことを考えながら話を聞く創大。


しかしそんな中、女神は意を決したように問いかけた。


「その中で創大さんが来世に求めることは何でしょうか?」


創大のことを真っすぐ見つめながら、そう問いを口にした女神。

確かに要因は分からないが規格外の転生ポイントをたたき出した転生者が来世に求めること、それは女神にとっても重要な意味を持つのかもしれない。


(何か……特別なことを期待されてるんだろうな。)


そんな雰囲気は察していた。しかし……創大はその期待に応えることは出来ない。

なぜなら自分は勇者でもヒーローでもなく、ただの一般人なのだ。

そして一般人として創大が人生をかけてやりたいこと……それは前世ですでに見つけていた。


だからこそ、女神のその問いに創大はこう即答する。


「動画投稿ができる世界で。それ以外は望みません。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ