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8話 絶空天覇の女帝あらわる!!

頑張りました!


 ドバシュウゥウウッ!!

 ドドドド!! ギャギャギャーーーン!!!


「きゃああああっ!!」


 サヤ子の眼前がんぜん粉塵ふんじん砂塵さじんが巻き上がり、小石と瓦礫がれきがはじけ飛ぶ。

 『国丸本土くにまるほんど』のハッチから、勢い任せにはじき出された長方形の物体が、目先の地面に着弾したのだ。

 あの時、サヤ子が目撃し我が目を疑った物でもある、この長方形の物体。 

 それはなんと黒塗りの高級車ロールスロイスである!


「・・・・・・独断専行、おまけに失態。 公安トップが聞いてあきれる」


 土ぼこりの中、辛辣しんらつきわまる罵倒ばとうの言葉が、いきなり余瀬よぜを突き刺した。

 だが辛辣しんらつな言葉に反して、その声は可憐かれん優雅ゆうがで、すこぶる耳障りが良い。

 余瀬よぜの良く知る女の声だった。

 

「・・・・・・何のことかな」

 

「フフ。 知らぬぞんぜぬ、か。

 らしくもない三文芝居だが、所詮しょせん貴様もオスだと思えば、これもまた道理か。

 だがな」


 シュババババ!!


 2人の問答もんどうのさなか『国丸本土くにまるほんど』から遅れて降下した無数の影が、ロールスロイスと3人を取り囲む。

 そして手に持つ巨大な「うちわ」を使い、宙に舞うチリをあおぎとばして、次々にひざまずいた。

 女のみで構成された50人前後の公安・隠密部隊である。

 うちわのあおぎで、またたく間に鮮明になった視界で、その一人がロールスロイスの扉を開けて深々とおじぎをする。

 

「・・・・・・だがな。 私が、この地にり立つ意味に

 知らぬぞんぜぬは、まかり通らんぞ」


 カツーン!!


 光沢こうたくを放つ黒塗りのハイヒールが、S市の大地を踏み鳴らす。

 燃えるような深紅の瞳が、余瀬よぜ見据みすえて鋭くにらむ。


「こ、怖い・・・・・・。 けど、美しい」


 ためいきじりに称賛をこぼしたのはサヤ子だ。

 高い鼻、ととのう唇。 眼光をいろどる彼女の顔立ちは、同性から見てもため息が出るほど美しかった。

 特注の軍帽からのぞくしなやかな黒髪は腰まで伸び、その前髪はきれいに切りそろえられている。

 キメのコマかな柔肌は、しみの一つもなく純白の雪を思わせた。

 ロールスロイスから出てきた女は、まったく非の打ち所のない完全無欠の美女なのだ。

 そして彼女は、美しいだけではなくスタイルも抜群だった。

 ピッチリと着こなす公安の制服が、彼女のボディラインを強調したまらぬ色気をくゆらせる。

 だが厚手の手袋を付けた、彼女の手が握るバラのように赤いムチが、何人なんぴとたりとも、その色気に酔う事を許さなかった。

 

余瀬よぜ。 自身の立場をかえりみず、民間人の救助に来たようだがな。

 お前がS市にり立つときには、すでに手遅れだった事を告げておこう。 

 フフ。 ムダ足まことに痛みるよ」


「・・・・・・この目で確認するまでは、そんな話は信用しない。

 それに、上層部からの指示をあおいでいたら、間に合うものも間に合わん」


「やれやれ。 まるでウブだな、その反応は。  

 今更、貴様が何をしようが、結果は何も変わらない。 

 もはやS市の住民は、誰の一人も生きては居ない。

 これは『国丸本土くにまるほんど』のレーダーで確認済みだ。 それに」


 つうっと細めたまぶたは、鋭く張られたピアノ線を思わせる。

 嗜虐しぎゃくの色に染まる彼女は、恍惚こうこつとした表情で言葉を続けた。


「それに。 待てど、暮らせど、無駄なこと。

 我々の上層部が、S市に手を差し伸べる事は、永劫えいごうありはしなかった」


「な、なんだと? ま、まさか!!」


 そんな馬鹿なと、崩れ落ちる余瀬よぜ

 自衛隊のトップが手を染める闇ギャンブルに、警察の上層部も加担かたんしていた事に気付いたのだ。

 美女は、そのさまを視線でむしゃぶりつくしハァフゥと深い吐息をこぼした。

 優れたオスが絶望するさまは、何度みても最高に気分がいいのだ。


「なんですって・・・・・・」


 しかし、絶望したのはオスだけではなかった。

 女のサヤ子も余瀬よぜと同じく、彼女の言葉に絶望していたのだ。


「そ、それは、本当なのですか? 本当にみんな死んでしまったのですか!?」


 彼女はS市の住民とは顔見知りだった。

 祐介と同棲している彼女は、毎日この地方都市をとおり帰宅していたのだ。

 もう何度目だろうか、彼女の瞳に涙があふれる。

 いつもオマケしてくれた八百屋のおじさんも、人懐ひとなつっこいあの子供たちも。

 さらにはあの時、口に拳銃を加えていた警官すら。

 祐介だけでは無く本当に、みんな、みんな死んでしまったのか。

 いや、彼女はその答えは知っていた。

 街に散らばり視界に入る、無残なむくろの数々が否応いやおうなしに現実を突きつけてくるのだから。

 だが、到底うけいれられないのだ。


「ウウッ。 そんなっ・・・・・・。 嘘ですよね? 嘘だといってぇ」


 泣きじゃくりながら、よちよちと美女に近づくサヤ子。

 しかし彼女を出迎えたのは、冷血動物さながらの鋭い視線だった。


「オスにまみれて、けがれた吐息といきを、私に向けて吐くんじゃない!! 

 この淫売いんばい娼婦しょうふが!!」


 ビッシィ!!


「きゃ!!」


 ビンタの一撃をほほに食らい、思い切り地面に倒れるサヤ子。


 ビシュシュ!! ヒュン!! ヒュン!!


「きゃああああっ!!」


 そしてサヤ子の衣服は、乱れ飛ぶムチに切り裂かれていく。

 真冬のてつく寒さの中で、あっという間に下着姿となるサヤ子。

 そんな彼女の、震える柔肌やわはだ、青ざめる唇から驚くほどの色気が一面にただよう。


「男にかしず不埒ふらちなメスは、恥を知らないおのれさとれ。

 フフ・・・・・・そのみじめな似合いの姿でな」


 下着姿のままムチの衝撃で巻き上がるチリを被り、地べたのよごれもまとわりつけて、酷く哀れな姿となってしまうサヤ子。

 あふれる涙はそのままに、絶望と寒さに震えながら倒れこんだままちぢこまる彼女は、もう言葉を話すことも出来なくなってしまった。

 おびえる子猫のような、その姿に満足した美女は再び余瀬よぜへと視線を戻した。

 呆然ぼうぜんとなり視線が泳ぎ、もはや聞く耳も持てそうにない余瀬よぜの姿に、とろけるような表情に戻った美女は言葉をつづける。


「フフ。 まだだ!! フフフ。 まだ話は、終わっていないぞ、余瀬よぜ!!

 もっとも貴様は、一足早くさっしたようできょうが覚めては、しまったがな」


 カツン、カツン、とヒールのかかとを打ち鳴らしながら、崩れ落ちた余瀬よぜの周りを悠然ゆうぜんと歩く美女。

 そう、彼女がここへと来た理由を彼にまだ告げてはいなかったのだ。

 東大主席の頭脳を持つ余瀬よぜは、その理由に いち早く気付いてはいたが、この場で、彼の目の前で高らかにソレを告げるだけでも意味はあった。

 そう、自身の上に立つ余瀬よぜうすら寒い正義感と目障りなプライドを、他でもない自分が打ち崩すという大きな意味が。

 サディスティックな自己満足に酔いしれながら、美女は高らかに宣告する。


「この私がじきじき々に、1時間後、S市を日本から抹消まっしょうする!! 

 国や政府や警察に、都合の悪い現実は!!

 時代の闇へとほうむり去って、過去も未来も消し飛ばす!!」


 バババッ!!


 周囲を囲んでいた隠密部隊が、宣言を聞いた瞬間に背筋を伸ばし、右手を高々と上げ呼応こおうした。


「了解!! S市全土に照準を合わせ、『国丸本土くにまるほんど』の爆撃を開始します!!

 S市は日本に不要です!!」


「やれやれ。 何を言っているのだ、貴様は? 

 そんなところは、もうすでに初めから、この日本には存在しないのだ。

 ・・・・・・そして、何をしている貴様たち!!」


 一同が敬礼している最中さなか、敬礼をサボり丸井のそばでうずくまっていた3人の隠密に怒鳴る美女。


「ヒィ!! 隊長。 申し訳ございませんですぅ」


 炸裂する怒りを受けて、いつの間にか開始していた丸井の救護を止めた3人の隠密たち。

 隠密部隊に所属する、木子きこ実子みこ花子はなこの三姉妹だった。

 三人が離れて、お目見えしたのはハリネズミのようになった丸井である。


「な、なんて女だ、美空山みそらやま。 嫁のもらい手なくなるぜ・・・・・・」


 痛々しい見た目に反して、急速に回復していた丸井は思わず言葉をこぼした。

 そしてこれは完全に失言である。

 まさに人間失言製造機、丸井の面目躍如めんもくやくじょと言わんばかりの見事な失言だった。

 丸井に近寄っていた3姉妹は、丸井で遊んでいたわけではないのだ。

 その卓越たくえつした針治療の技術で傷の結合、止血を手早く済ませていたのである。


「・・・・・・無様ぶざまに転がるゼイ肉団子が、人の言葉を話すなど」


美空山みそらやまよ。 ナンバー2の自分の立場を心の底から嬉しく思うぜ。

 俺の仲間を傷つけた、お前の悔しがるさまをこうしてながめる事が出来るからな」 


 美空山みそらやまと呼ばれた女は余瀬よぜを離れ、ハリネズミ丸井の方へと歩みを進める。

 無言で近づく彼女の表情が、凄まじい殺意と怒気に満ちている。

 怒りの理由は丸井の失言もあったが、彼の立場の方が彼女には許せなかった。


 美空山みそらやま つばさ


 公安所属のナンバー3である。

 彼女の任務は余瀬よぜや丸井に限らず、公安ならば誰もが知り恐れるものだった。

 それは過ぎたる犯罪、災害によってしょうじてしまった被害を『抹消まっしょう』することである。

 誰もが忌諱きいする凄惨せいさんな任務を、きき々として引き受けるだけでなく忠実に行使する彼女は、破竹の勢いで出世した。

 ・・・・・はずだった。


 だがここにきて、思いもよらない悲劇が襲った。


 ナンバー3まで駆け上がった所で、出世が頭打ちとなったのだ。

 単純な実力だけで言っても彼女は、本来ならば余瀬よぜに次ぐ実力者だった。

 そこだけを見ても、ナンバー2まで駆け上がっても可笑しくない。

 いや、それどころか余瀬よぜが上層部と道義どうぎの面で、たびたび対立していることも含めれば、上層部に忠実な自分こそがナンバー1でもなにも問題は無かったと、美空山みそらやまは憤慨した。


 美しい彼女を愛人にしようとした幹部の誘いを断り続けた事も理由の一つではあったが、彼女の出世を直接的に阻害したのは、時代という名の壁だった。

 昭和という時代が許さなかったのだ。

 昭和に根強く息づいた、年功序列と男尊女卑だんそんじょひ風潮ふうちょうが、彼女の出世に立ちふさがったのだ。

 だから昭和という時代を、彼女は許さなかった。

 いや許せないのは、昭和という時代だけではない。

 この世に息づくすべての男と、それにかしずく女たち。

 この時代の街並みも、流れる空気や文化ですらも、彼女は許せなくなっていた。

 彼女にとって出世とは、生まれながらに優位に立つ、幼少期から憎んできたオス共への反逆でもあったのだ。


 こうして美空山みそらやまは、破壊の限りを尽くす任務を、任務以上に行使する恐るべき存在となったのである。

 時代へ、烈なる憎しみをえんえん々無限につのらせながら。

 いつしか付いた『絶空天覇ぜっくうてんぱ』の二つ名を、唯一の心のり所にして。


余瀬よぜ、そして豚だんご。 貴様ら二人は断じて許さん」

 

「隊長! あれを御覧になって!! 醜悪男の顔から炎が!

 なんだか、自衛隊の奴らともめてるみたい!!」


「捨て置け。 児戯じぎにもおとる。 

 しかし自衛隊は失念しつねんしていたな。 確かにアレは役に立つ」


 はたと、残酷な発想が頭をよぎる美空山みそらやま

 余瀬よぜと丸井を巻き込んで殺す、同僚殺しの罪を自衛隊にかぶせる算段が付いたのだ。


「フフ。 余瀬よぜよ、その節穴で良く見ておくんだな。

 お前が抜かした敵対組織の瓦解がかいとは、こういう風にやるものだ!!」


 動けぬ丸井に一瞥いちべつくれて、きびすを返す美空山みそらやま

国丸本土くにまるほんど』の爆撃に巻き込まれては、元も子もないのだ。


「爆撃をはやめるぞ!! 今すぐ、この地を焼き尽くす!!」

 

 最悪が折り重なった。

 『国丸本土くにまるほんど』の集中爆撃が秒読みになったのだ。

 ついにS市全土を巻き込んだ、決着の時きたる。


頑張ります!!


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