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6話 無敵の盾と最強の矛!


 遥か太古たいこの眠りから、目覚めし魔物の脈動みゃくどうが、地軸を波打ち虚空こくうらす。

 揺らぐ虚空と波打つ大地を、目覚めし魔物はその口で、微塵みじんに砕いてむさぼり食らう。


 ―――――目覚めし魔物の、その名は『流れ』。


 煉獄同盟れんごくどうめい三段式さんだんしき半月戦法はんげつせんぽう『流れ』。


 1989年。 1月9日。 時刻は、17時34分。

 

 神奈川県S市の中心部でついに発動した『流れ』。


 その異変は、すぐに起きた。


 黒鉄くろがね山の近辺きんぺん周囲しゅういで無残に散らばるビンの残骸ざんがい瓦礫がれきの破片がフワフワ宙に浮き始めたのだ。

 いや、浮き始めたのは地面に散らばるガラクタだけではない。


「な、なんだァ!!?」


「た、助けてくれええ!!」


 なんと救助活動を再開していた、自衛隊のA隊員と仲間たちの体も浮き始めていたのである。

 そしてそれは、皆口祐介の体も例外ではなかった。

 さながら無重力状態となった半径400mにもおよぶ空間の中で、身じろき一つの自由も気かない祐介に向けて煉獄の副隊長が叫ぶ。


「おお~、これはまさしく絶景よ!! どうした皆口ヨチヨチかぁ!?」


 ドッと笑いが巻き起こる。

 腹を抱えて笑った後、しんみりと確信した勝利に酔いはじめる雑兵たち。

 だが彼らは見落としていた。

 宙に浮いた瞬間に、祐介の瞳の奥底が怪しく光った事を。


「ヒィーーーッ!! 助けてくれぇ!!」


「ウワーーーッハッハ!! そこにいるのは自衛隊か?

 貴様らは本当にふざけた奴らだ!! ついでに皆殺しにしてやる!!」


「ウワーーーッ!! まずい!! これじゃあ逃げることも出来ないよォ!!」


 副隊長の木刀におびえるA隊員たちには、知るよしもないが『流れ』の正体とは磁力である。


 彼らの積み上げたバイクには、例外なく特殊な磁石じしゃくほどこしてあった。

 当初は仲間同士の接触を磁力の反発で防ぐために装備した物だったが、この強烈な磁石は彼らにとってある一つの嬉しい誤算を産み落としていたのだ。

 それは膨大な磁力の反発と吸引によってしょうじた、バイクの生物的な躍動やくどうである。

 これにより煉獄同盟は武田騎馬隊のごとく、たちまち相手を無軌道むきどう蹂躙じゅうりんする獣の群れと化した。

 そして戦いの天才であるサギ丸は、その誤算にするどく着目ちゃくもくし、さらなる活用方法を編み出す。


 これが『流れ』である。


 すなわち『流れ』の正体は磁力じりょく反発力はんぱつりょく引力いんりょくといった、3つの力を集積させた三段構えの高層・処刑装置なのである。

 特殊磁力で人体の万有引力にまで干渉かんしょうし宙に浮かせて無力化する『流れ』は、まさに。


「まさに、まさしく『流れ』こそ鉄壁、無敗の『無敵の盾』よォ!!

 黒鉄くろがね山の三段構えの、渦巻うずまく力の奔流ほんりゅうが、貴様の全てを無力と化すわ!!

 ウワーッハッハ!!」


「ははは」


「何がおかしい!! 皆口祐介ェ!! もはや貴様は、絶対殺す!!

 この俺様がじきじき々になぁ・・・・・・」


 ズシィィン!!


 おぞましいほどの重量で『流れ』に逆らい地面に沈んだのは、サギ丸の両手にあった獲物たちである。

 なんと殺すと叫んだサギ丸は、自身最大の武器である巨大バイクとこん棒を惜しげもなく手放してしまったのだ。

 だが、これは理にかなっていた。

 本来なら鋼鉄の建造物すら、紙細工かみざいくのように散らしてしまう超重量の2つの鈍器だが、祐介が相手では、全く通用しない無用の長物ちょうぶつなのだ。

 

 そしてサギ丸は両腕をクロスさせ、その指先でマスクをつかむ。


「いよいよもって、この俺様も奥義を使う!! 念には念をという奴だ!!」


 奥義を使うと言い放ったサギ丸はガッチリつかんでいたホッケーマスクを、ゆっくりとはずしていく。

 いや、それは『はずす』など言う生易なまやさしい行為ではなかった。

 その行為を正確に表現するならば。


 ベリッ!!!  ベリべリベリィッ!!!


 『がす』である!

 なんとホッケーマスクは、彼の顔にボルトで打ち込まれていたのだ。

 まるで封印をとくように拘束具のようなマスクを外すと、サギ丸の衝撃的な形相ぎょうそうがお目見えした。


「ひゃあ!! 何度見てもヤバすぎる!!! 人間のツラじゃねえ!!」


「ば、馬鹿野郎!! 容姿の話は、ご法度はっとだ!! 

 二度と口にするんじゃねぇぞ!!」


 吊り上がる口元以外は判別がつかないサギ丸の顔は、ドクロの頭蓋ずがいに真っ赤な血肉を薄く張り付けたような、おぞましい見た目としか言いようがなかった。

 だが本当に衝撃的なのは、サギ丸の形相ぎょうそうではない。

 拘束具を外しきった瞬間、サギ丸の口、耳、鼻の穴という穴から煙が派手にふきあがっていく。

 そして。


 ズボオオオォオオオオォウ!!


「フゥゥゥゥゥゥゥッ!! 

 俺様の顔から放たれる最強の槍『煉獄れんごく』で、貴様を穿うがつぞ、皆口祐介ェ!!」


 そう、本当の衝撃とはサギ丸の顔面から凄まじい勢いで噴出した、極熱ごくねつの火柱である!

 これは彼の特異な体質、顔面熱量操作のたまものだった。


 威嚇いかくと威圧が勝負を決める、暴走族の世界に3歳の頃から身を置くサギ丸。

 歴34年にもおよぶ超ベテラン暴走族の彼は、自身の体質に目を付けそれを『最強の矛』へと変える事に成功していた。

 殺した相手の体から抽出したリンを加工し顔に塗りたくることで、怒りと共に急速に上昇した顔面の温度を発火装置とする火炎攻撃をあみ出していたのだ。

 すなわち顔面火炎放射『煉獄』である。

 顔面からほとばしる『煉獄』の温度は、マスクを外した瞬間に空気中に散布した特殊リンをむさぼり続けることで上昇し、最大1200度前後という驚異的な温度まで上がる。


 まさに煉獄は『最強の矛』なのだった。


 具象化ぐしょうかした怒髪天どはつてんのごとく、天へ向かって垂直に伸びる炎の勢いからみても、今のサギ丸の顔面は既に1000度を超えているだろう。


「お、おい!! 『煉獄』だ!! 総長が『煉獄』を使いだしたぞ!!」


「おめえら、『流れ』を強めるぞ!! 

 もたもたしてると、丸焦まるこげ程度じゃすまねぇぜ!!」


「「「おおう!!」」」


「行くぞォ!! よい! よい! よい! よい! お前ら叫べ!! 

 腹の底から声を出せッ!! ハッ!!」


「「「殺せッ!! 殺せッ!! 皆口殺せッ!!

   ウオオオオオォォォッ、シャアアアア!!!」」」


 『流れ』の上で始まった副隊長の音頭に、雑兵たちが踊り狂う。

 彼らは、ただバカ騒ぎをしているわけではない。

 そのリズムにあわせ抜群の平行感覚で踊ることによって、『流れ』の磁力を的確に操作しているのである。

 磁力で空気の流れに干渉かんしょうし、特殊リンをはねのけることで地獄の炎から逃れる算段だった。

 もはや完全なる勝利を確信したサギ丸。

 そして、心にできた余裕が彼を一つの意外な発想へ導いた。


「・・・・・・げに惜しい。 どうにも貴様を殺すは惜しいぞ、皆口よ。

 貴様が我らと手を組めば、この俺様の大願成就たいがんじょうじゅも夢では無かった」


 まだ遅くはないと、口角歪ゆがめる炎の頭蓋ずがい

 彼が3才の頃から見続けていた夢とは世田谷で盛大に行う予定の、レイプオリンピックの事である。


「僕が煉獄同盟に? それこそ顔から火が出るね」


「皆口、またもや減らず口!! ヌウオオオオオオォオオオォ!!」


 ズボオオオオオオォウッ!!


 一瞬で決裂した交渉にいまだかつてない勢いで、燃えあがる火矛ひほこ

 生涯最高の怒りをかてにした『煉獄』の温度は、ついに1500度を超えていた。 

 完全に最高記録である。


「ほ、ほわああああああっ!!」


 さらに無重力感が強まり、いよいよ泣き出したのはA隊員と仲間たちだ。


「正宗 准士官じゅんしかんお助け!!」


 そして彼らは遠目に見える正宗へ、悲鳴まじりの助けを叫ぶ。


「ん!? なにィ!! 正宗だとォ!!」


 A隊員たちの叫びで遠くで宙に浮かびだしていた、一匹の狂犬に気付くサギ丸。

 鋭く視界に正宗をとらえたサギ丸は、憎き自衛隊の一人でもある彼に向けて驚くべき行動に出たのである。



サボっていた事、お許しください!!

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