5話 やはり祐介死亡!! そしてサギ丸急襲!!
頑張りたいです!!
「ウッ。 余瀬よ・・・・・・俺は既に、この状態だ。 おそらく長くは無いだろう」
瓦礫と火の手を、かいくぐりながら、ポツリと丸井が弱音を吐いた。
立ち上がった時は、それほどでも無いように思えた腹部の痛みは、数秒ごとに深刻になっていき、今では、もはや歩行も困難なほどに成長している。
服をまくり、めった打ちにされた自分の腹を見ると、信じられないほどに、どす黒く変色していた。
あばらはボキボキにへし折れているだろうし、内臓もいくつか破裂しているだろう。
うつろな瞳で、遠くにそびえる黒鉄の山を見る丸井。
崩れ落ちそうになる体の勢いを利用して、なんとか前進していたが、その歩みも限界にきていた。
あの場所まで歩くには、このペースだと20分は、かかるだろう。
これでは、たどり着いたその時に、もう何もかもが終わっていても、おかしくはない。
「荷物は軽い方がいい。 俺をおいて先に行け」
普段は、弱音や泣き言ばかりの丸井だが、今の言葉は、弱音ではなかった。
自身の終わりを確信して、せめて余瀬の足かせにはなるまいと、最後に矜持を見せたのだ。
プライドと性欲に振り回され、公安の職に就いてから、ろくな事をして来なかった過去を、涙目で悔やむ丸井。
「・・・・・・丸井。 らしくもないぞ。
お前の腹が黒いのは、今にはじまった事じゃないだろ」
「へへ。 笑えないぜ、それ」
そう言いながら、ついに崩れる丸井の体を、すんでのところで支えたのは、七瀬サヤ子だ。
襲撃された際に、運よく軽傷で済んだ彼女は、自力でここまで、歩いてきたのだった。
「丸井さん。 しっかりしてください。 ここで私と休んでいましょう」
「な、七瀬さん。 俺は、あなたに酷いことをしたのに」
「いえ、それは、私も同じです」
もとはと言えば、自分が祐介に付きまとわなければ、彼が傷つくこともなかったのだ。
だが、彼女は、祐介に感じた違和感の正体を、確かめずにはいられなかった。
そして、その違和感の正体は、祐介が死んでいる、という最悪の確信によって答えを出していた。
しかし、だ。
死んでいるのならば、彼がなぜ、いま動いているのか。
そこだけは、全く理解できなかった。
「逆式・頭活栓・・・・・・」
「えっ!? 今何かおっしゃいましたか? 准士官殿」
道中で向かってきた雑兵たちの死体を、足跡のように残しながら、一足早く祐介の元へとたどり着いていた、自衛隊の二人。
だが、意気揚々としていたはずの正宗は、どっかりと胡坐をかいて、動こうとはしない。
祐介を見るなり、一言つぶやいた後、不貞腐れてしまったのである。
正宗が免許皆伝を取得している、剣術流派、咎斬剣には、逆式・頭活栓という、秘儀がある。
これは、全身の筋肉を正確に膨張、縮小させることで生じた、圧縮した血管の動きをポンプ代わりにして、無理やり心臓を動かす技だった。
血圧と血管を圧縮した勢いで心臓を動かし、動いた心臓で、また血圧と血管を圧縮する。
これにより、脳が死んでも、短時間ながら死後の活動が可能になるのだ。
たまに噂される、残留念思などの都市伝説も、たいていはこの原理に起因していた。
『死なばもろとも』を可能とする、にわかには信じがたい、この秘儀を正宗が見たのは、15歳の時、彼の師と斬り合いになった際の一度きりである。
数百の戦いを重ね続けた、自身の半生を振り返っても、3本の指に入る強敵だった彼の師ですら、死後の活動は、5分かそこらが限界だったはずだ。
それを皆口は、少なくとも15分は発動させている。
しかも脳が死んでいるのに、冗談も言うし、本まで読んでいるのだ。
この一点だけを見ても、彼が人知を超えた猛者であることに、疑う余地はない。
「つくづく惜しいねぇ・・・・・・」
心底悔しそうに、正宗はうなだれる。
もちろん、皆口 祐介は、咎斬剣を習ったことは、一度もない。
頭に浮かんだ発想を、的確かつ、効率的になぞると、その分野に精通した者たちが導き出した、最善の方法に酷似するだけなのだ。
「そろそろ、やっこさんの、電池が切れるぜ。
抜け殻なんざに興味はねぇしよ。 どうしようかねぇ」
自身と目が合い、口元ゆがめた祐介に、中指を突き立てるだけで動こうとしない正宗。
すっかり覇気が消え失せた、牙を抜かれた狂犬に、心のどこかで安どするA隊員。
しかし、A隊員の安どを、急襲する爆音が切り裂く。
「ドオオォらっしゃあああああ!!」
牙をむいた獣のごとく、祐介に突撃する、一台の超大型バイク。
時速200㎞を超えるスピードで、300kgの鉄の塊が直撃すれば、祐介の華奢な体では、ひとたまりも無いだろう。
シュゴガギガーーーズガン!!
だがバイクは、祐介が作った空気の壁で、ものの見事に弾き飛ばされてしまう。
しかし、その搭乗者は、ただモノではなかった。
弾き飛ばされる大型バイクのマフラーを、ガッチリと片手で握り、思い切り自分に引き寄せると、そのまま鈍器として肩に担いだのだ。
鈍器を担いだ巨躯を支える両足が、ズシリと地面に沈み込む。
右手のバイクと、左手のこん棒の総重量は、驚異の750キロ。
そんな両手の獲物を、羽根のように軽々と振り回す、長身巨躯なる、仮面のケダモノ。
そう、彼こそが。
「サギ丸総長!!」
「総長殿のおなりィ!!」
怒りに震える、狂気の殺戮人間、煉獄同盟が総隊長、田中サギ丸である。
「へぇ、自滅するかと思ったけれども、中々そうも、いかないらしいね♪」
「腑抜けた小細工、休むに似たり!!
てめぇの猿知恵ていどでは、傷の一つも、背負う道理無し!!」
ズパァン!!
その時、タイミングよく落ちてきた出刃包丁が、サギ丸の兜に突き刺さる。
祐介が詩集に、栞のように挟んだ包丁である。
的確に風の動きを読んでいた祐介による、恐るべき精度とタイミングによる一撃だった。
深々と傷がついた兜を投げ捨てる、サギ丸の頭部から血が噴き出している。
「何か言ったかな?」
「みぃいいいい なああああぁ ぐううぅぅ ちいいいぃ!!!」
ホッケーマスクの小さな穴から、勢いよく煙が噴き出す。
ほとばしる怒りで、急上昇したサギ丸の体温が顔に集中し、蒸気機関車のように、蒸気となった汗が噴出したのだ。
これに慌てたのは、煉獄同盟の面々たちだ。
「だ、誰だ!! 包丁なんざ投げ散らかしたのは!!」
「おめぇだ!!」
「てめぇだ!!」
「おめぇらだ!! いちいち、うろたえるんじゃねえ!!
俺たちが今、何の上に立っているかを、忘れたとは、言わさねぇ!!」
「流れだ!」
「そうだ流れだ!! ここなら、俺たち安全だ!!」
馬鹿どもが、と一喝した、隻眼の副隊長が、合図を出す。
「やるぞ、てめぇら、気合を入れろォ!! 流れ発動!!」
「「「ウオオオオオォォォオオオォ!!!」」」
ついに発動する『流れ』。
祐介が宣告したショータイムの終わりまで、残り5分12秒。
その終わりを迎えるときに、この戦い、最大の衝撃がおとずれる事を、今はまだ、誰も知らない。
どんどん頑張ります!!