10話 煉獄同盟まさかの壊滅! 皆口祐介 大勝利!!
煉獄同盟との決戦、終わります!!
あと、誤字報告ありがとうございます!! 直しました!!
―――――だが!!
ボンボン!! ボシュウゥゥゥウゥゥ!!
祐介に当たる直前で炎はのけぞり虚空を焦がした。
「ひ、ヒィ!! まだ死にたくねぇ!!」
その原因は 雑兵たちの恐怖心である。
雑兵たちは間近でリック・次郎の凄惨なる末路を見て『煉獄』の直撃を恐れてしまったのだ。
必要以上に強めすぎた『流れ』の反発力が火柱を弾いてしまったのである!
「・・・・・・ぬうぅ!! 欲張りすぎが仇となったか!!」
――――数日前 祐介を殺すために、緊急・殺戮会議を開いていた煉獄同盟。
彼らの議論は当初こそ順調に進んだものの、最後の大詰め終わりの間近で完全に停滞してしまった。
最強の矛『煉獄』と無敵の盾『流れ』。
どちらの奥義で止めを刺すかで意見が2つに割れたのだ。
そして24時間にもおよぶ議論を不眠不休で続けた彼らの会議は、いよいよ完全に煮詰まりサギ丸のはらわたは煮えくり返った。
けっきょくサギ丸の八つ当たりで40人前後の死者を出しつつ、さらに45時間の議論を重ね。
・・・・・・ついに彼らは答えが無いのを、その答えとしたのである。
どちらが上か解らないなら、どちらも使えばそれでいい。
つまり煉獄同盟は、両方使うという結論にいたったのだ。
しかし二兎を追うもの一兎も得ず。
矛と盾も並べば矛盾。
結果的に、これが大失敗となってしまったのである。
「なんということよ!! 煉獄同盟ともあろうものが!!」
忌々しげに吐き捨てたサギ丸は、足並み乱れて取り乱す、流れの上の雑兵たちを勢い任せに睨めつけた。
「「お、お許しあれ!!」」
「ぬう! 『流れ』を弱め もろとも炎に包まれて、それでも生き抜く気概をみせィ!!
貴様らも煉獄同盟ならば、この俺様に意地と矜持を、みせてみろぉ!」
「そ、そんな、ご無体な!! 」
「総長、勘弁してくだせェ!」
「この機を逃せば勝機は無いわ!!
さっさと『流れ』を弱めんか!! 腰抜け、腑抜けのマヌケども!!」
そしてサギ丸は待ちきれないと言わんばかりに、まるで歌舞伎の連獅子を演舞するかのように首をグルグル振り回しはじめる。
すると直線的に伸びていた火柱はサギ丸の顔の動きにあわせ、新体操のリボンのようにトグロを巻き出す。
まるでアナコンダのように、大きく派手に舞い踊る『煉獄』!
縦に伸びていた『煉獄』が横に広がり、攻撃範囲を広げゆく。
戦いの天才サギ丸が、点ではなく面の攻撃に切り替えたのだ。
「この広範囲での炎熱ならば、余波でも十分に焼き殺せるわ!!
これ以上の妥協は出来んぞ!! さっさと皆口を差し出せィ!!」
緩和された条件に、いよいよ覚悟を決めていく副隊長と雑兵たち。
「よぉうし!! この領域の空中、地上は俺らが掌握ずみだ!!
皆口一人を動かすくらい造作もねぇんだ! やってやる!!」
「「「よし! よし!! よいヨイ!! よよいのヨイ!!
皆口ずらして焼き殺せ!! よい!!」」」
彼らの言う通り、その戦略にミスはあれど彼らの戦術に不備はないのである。
彼らは依然として2つの奥義で、天地の全てで優位に立っているからだ。
だが祐介はそんな絶望的な状況で、口元を吊り上げる。
「・・・・・・一つだけ教えよう」
「ほざけ皆口!! この期に及んで負け惜しみとは片腹痛いわ!!
だがしかし聞いてやるのも一興よ!!
末後の遺言、心して話すがよい!!」
サギ丸は祐介に情けをかけた訳では無い。
戦いにおいて認めざるを得ない祐介の意見を取り入れることで、さらなる高みを目指す糧にする腹積もりなのだ。
「・・・・・・お前が抱く、些末な疑問に一つの答えを教えよう。
勝敗つかずの矛と盾。 どちらが勝つかの、その答えをね」
「な、なにィ!!!?」
その時、衝撃の光景を目の当たりにして叫ぶサギ丸!!
なんと祐介がゆるやかに、しかし確実にその足を地に付けたのだ。
驚いたのは『流れ』を的確に操作していたはずの煉獄同盟たちも同じだ。
だが彼らの驚愕が向けられたのは、力の奔流を無視した祐介ではない。
「う、うおああああ!! 何だコイツは、ありえねぇ!!」
「俺らの体が、浮き始めてんぞぉ!!」
彼らの驚愕が向けられたのは『流れ』に飲まれ、浮遊を始めた自分たちの体である!
ズゥオオオオオオォオオオォ!!
オン!! オン!! オン!! オン!!
「「「ウ、ウワーーーーーーーーーッ!!」」」
洗濯ドラムに放り込まれた衣類のごとく。
黒鉄山から浮き上がった、副隊長と雑兵たちの体は空中で縦に高速回転する!!
そして一言。
たった一言だけで祐介は勝敗付かずの矛と盾、その勝者を彼らに告げた。
「・・・・・・勝つのは、僕が手にした方だ」
「貴様ァアアアア!! どこまでも減らず口を!! 貴様に何がわかる!?」
「わかってないのは、お前の方だ。 僕はこうも言ったんだよ。
すでにお前の心身ともに、僕が手にした『最強の槍』に焼かれているとね」
「なにをほざウワッ!! な、なんだこれは!!」
サギ丸に衝撃が走る。
自身の関節から炎が吹き上がり始めていることに気付いたのだ。
「な、なんだってんだよコイツはァ!? アチィ!! アッチィ!!!」
慌てるサギ丸の様子から見ても、次々に産声を上げる炎たちが、本人の意図しない不測の事態である事は明らかだった。
やがてサギ丸の全身を包み込んでいく招かれざる深紅の来訪者たち。
「おっ!!? おっ!!? おっ!!? 何だオイ!!
ァチイィィ!!! くそアチイ!!! クソがァァ!!」
正体は炎熱の余波だった。
彼らが掌握していた、空中でも地上でもなく。
「どうやら、足元がお留守だったようだね」
今まさに地下から湧き上がりつつある、炎熱の余波だった!
しかし、これはあくまで余波なのだ。
つまり。
ゴゴゴゴッゴゴゴ!!
ズドドドッドオ!!!!
ドドドドドーーーーーーーッ!!!!!!!
「ぐぬわあああああああああああああ!!!!!」
その時。
直径にして50m超の火柱が、凄まじい勢いで地下から迸った。
地面を突き破り、足元から襲来した謎の巨大な火柱に余すところなく食らいつくされるサギ丸。
「う、うおおおおおおおおおおお!!? な、何故だ!! 何が起きているぅ!!」
シュボボボボォーーーウ!!
「ぬううううう耐えるううっ!! しかし、俺は耐えるッ!!!! 炎は俺の体の一部だァ!!」
サギ丸は耐える!
炎の中でひたすら耐える!
しかし。
ボボボボボフ!! ボボボー-ーーン!!!
ドドドドドッバァ!!
「だ、ダメだぐわああああああ!!! おかああああちゃん!! ぬわっ!!」
シュボボボボボォォウン!!!
耐えていたサギ丸の息が絶えた。
そして、骨すら残さず燃え尽きた。
田中サギ丸、享年37歳。
死因―――――空前絶後の大爆死!
何が起きたかを知る由もなく炎に飲まれたサギ丸は、塵芥となり風に乗り、この世の全てに別れを告げる間もなく消え去った。
驚くほどあっけない最後だった。
だが彼を断末魔ごと丸呑みして尚、灼熱業火は勢い止まらず空をむさぼり続けている。
さながらそれは遡る、ナイアガラの滝だった。
最強の槍と無敵の盾。
勝利したのは宣言通り、祐介の手にした方だったのである!
矛盾の意味すら凌駕する究極の天才少年、皆口祐介!!
「もっとも猿知恵しぼった小細工程度が、最強と無敵の名を冠していればの話だけどね」
そう言い残すと地に降り立ったその足で、火柱に背を向けて歩き出す祐介。
去りゆく祐介を止めるはずの煉獄同盟は、もう誰一人としてこの世には居なかった。
疑う余地のない完全勝利である。
彼はわずか16歳にして、世界最強の暴走族を相手に圧倒的な大勝利を手にしたのだ!!
「丁々発止で、四苦八苦。
器用貧乏たぁ、おめえさんの為にある言葉だぜ」
鮮烈なる戦いを圧巻の大勝利で終えた祐介に、一人の男が呟いた。
事のしだいと成り行きを、寝ぼけ眼で傍観していた失意の狂犬。
自衛隊の村田 正宗である。
「手かせ足かせおっつけて、面倒ごとに挑むなんざぁ。
・・・・・・正気の行儀じゃねぇやなぁ」
無視を決め込み自分の横を通り過ぎる祐介に、おかまいなしに言葉を投げる正宗。
彼が言う手かせ、足かせとは、逆式・頭活栓の事である。
死後、数刻生きながらえるとはいえ、この技が心身ともに恐ろしいほどの負担と制約をかせるのは言うまでもない。
つまり彼は自ら進んで制約をつけるなど、戦いへのお行儀が悪いと口をとがらせたのだ。
そしてこれは祐介が、本来のポテンシャルの35分の1以下で煉獄同盟を撃破したことも意味していた。
「なにが目的なにが理由で、そんな小細工さらしてんのか。
知りたくなるのが道理ってもんよ」
これほどまでの実力を持つ祐介が、なぜ自ら死を選んだのか。
正宗の理解の範疇では到底、及びもつかない疑問だった。
勝負事で言えば、まんまと一杯食わされた自分の負けに違いはないのだが。
「銭金狂いの飼い犬 風情が、今日はひたすら良く吠えるね」
「涙にぬれる負け犬の退屈しのぎの遠吠えよ。
黙って聞いて答えてやっても、罰の一つも当たるめぇ」
「悪いけど、そんな暇ないんだよね」
「へへ、だろうねぇ」
ふらりふらりと風に揺られる祐介の体。
もはや抜け殻となった彼の限界は、誰の目にもあきらかだった。
問答不要の態度を崩さず、去り行く祐介へ正宗はさらに質問を重ねた。
「悪いついでに最後に一つ。
俺が『これからやる事』すらも、お得意の計算とやらでお見通しなのかねぇ?」
不敵につりあがる狂犬の口元。
本命の質問だった。
そして無言の笑みを、質問の答えとする祐介。
顔は見ずとも背中で笑う祐介は、正宗が『これからやる事』を見抜いているようだった。
「大したもんだ」
名残惜しさを持てあましながら、すくりと立ち上がる正宗。
どさくさ紛れに『流れ』から解放されていたA隊員たちが騒がしいのだ。
「じゃあ俺もその計算とやらを見習って、ひさびさ算数のお勉強にでも付き合うかねぇ」
そう言い終わると祐介とは逆方向の場所で喚く、A隊員の元へと歩き出す正宗。
たがいに背を向け歩みを進める二人の男の足音が、どんどん離れて遠ざかっていく。
その時、不意に鳴りやむ一つの足音。
正宗が足を止めていたのである。
「俺ぁ気の利かねえ男だからよ。 今更ながらに気付いちまったぜ。
そういやァ、まだお前さんに別れの餞別を渡してねぇやなァ・・・・・」
白々しく呟いたものの『これからやる事』は、彼の中では既に決まっていた。
正宗が日本刀に手をかけた瞬間、膨張する殺意が瞬く間に空間を圧迫してゆく。
「冥途の土産に一太刀ばかり、その身でたっぷり味わいなぃ」
ドバシュウゥウウ!!
刹那を超えるスピードで放たれた、鮮烈なる餞別。
狂犬、十八番の斬撃衝波『閃空・雷磊大斬波』である。
慌てたのは斬撃の飛翔音で、正宗の攻撃に気付いたA隊員だ。
「う、うわ!! 准士官!! 民間人に、なにを!!」
「黙ってみてなぃ。 面白れぇのはこっからよ」
だがその一撃は、祐介の体をすり抜け上空へと天高く飛翔していく。
ズバァアアアアン!!
「の、のわあああああああああああああああ!!!」
情けない叫び声をあげ、情け容赦のない一撃を食らったのはなんと上空に居た悪徳不動産王N氏だった。
つまり、斬撃が直撃したのは金ヘリである!
狂犬の鋭い牙が食らいついた金ヘリは真っ二つになり、無残な姿で地面を豪快に殴った。
あってはならない一撃だった。
そしてありえない一撃でもあった。
あってはならないのは闇ギャンブルの主催者に正宗が刃を向ける事だ。
陸将の密命で動く正宗が、N氏を攻撃するなどはあってはならない事なのだ。
そして、ありえないのはその一撃である。
まっすぐ飛んで祐介をすり抜け、垂直に跳ね上がった斬撃。
L字の軌道を見事に描いた、あり得ないほど卓越した剣術だった。
「たら、れば、ならば、は言わねぇたちだが今回ばかりは例外よ。
あと30ほど俺が若けりゃ、そしてお前さんが死んでなければよォ」
間違いなく極上の戦いが愉しめた、と苦々しく笑う正宗。
「それじゃあ達者で、くたばんなィ。 皆口の祐介さんよォ」
再び背を向けひらひらと掌を振る正宗。
剣術以外はてんで不器用な、彼なりの別れの挨拶だった。
そんな正宗を迎えるA隊員たちは、泣きながら叫び散らす。
「准士官!! た、大変です!!
これは一大事なのであります!!」
「がーがー、ぴーぴー。 やかましいったらこの上ねぇやな」
「そんなことを言ってる場合じゃないんです!!
同僚たちとS市の被害者を数え終えていたのですが、どうも計算が合わないんです!!」
「おめぇ1+1も出来ねえようじゃ
いよいよもって、かける言葉が見つからないねぇ」
「ま、まさか!! 流石に数百単位での数え間違いは
僕に限って、ありえ無いですよ!!」
A隊員は中学生の時、アリや小石を数えることで壮絶ないじめに耐え抜いた過去があった。
数を数える事において、その精度と速度はA隊員の右に出る者は居ないのである。
ましてや死体などという大きな物が対象ならば、A隊員が本気になれば数秒もかからず数キロ圏内に散在する対象物を正確に把握することも出来るのだ。
そして、地方都市であるS市の住民の数は約1000人ほどである。
だがA隊員たちが数え終わった遺体の数は、なんと驚異の1739体。
明らかに異常な数字だった。
「な、なにか。 ・・・・・・なにか壮絶なことが!!
このS市で起きているのであります!!!」
S市を包む明らかな異常事態。
そして煉獄同盟のお株を奪い、叩きのめした祐介の攻撃の正体。
果たして何が起きたのか。
そして何が起きていたのか。
それらの大いなる謎を、いち早く解き明かしたのは公安のあの男だった!
頑張ります!!