1話 昭和という名の絶望時代!!
マイペースで書いていきます。
よろしくおねがいします。
「ウワーーーッ!! これは夢か、まぼろしか!!?
はたまた、リアルな現実か!?」
ヘリから見下ろす現状の、衝撃的な惨状に、A氏はたまらず泣きさけぶ。
常軌をいっしたA氏の態度と、眼下に広がる地獄絵図。
これらがもたらす衝撃に、A氏の仲間も涙を流し、ガタガタ震えてちぢこまる。
1989年1月7日。 神奈川県 S市、上空。
昭和最後となるこの日に、自衛隊のA隊員たちへ、応援が要請されたのは2時間前の事だった。
『S市の住宅街で、警察では対応できない殺戮集団が、大暴れしている』
そんな通報を受け、彼らは、自身満々に出発したはずだった。
その彼らが、現実を目の当たりにした瞬間に、怯え震える、このありさまである。
『A隊員! みんな! しっかりなさい!!
自分たちが誇り高き自衛隊員だという事を思い出してください!!
崩壊した街に残された生存者は、現場のあなた達が助けるんですよ!!』
「了解です!! 死者多数!! 死者多数!!
その数・・・・・・ウワーッ!!
もはや数えきれません!! 完全に、終わりです!」
『いいえ、終わりじゃないです!!
あなたの仕事のはじまりです!!
自分の立場を自覚して、正確な被害者の数を報告なさい!!』
「りょ、ダメだァ!! 」
本部のオペレーターに応答する途中で、噴水のようにゲロを吐き散らし、ついに気絶してしまうA隊員。
それを見た、A隊員の同僚たちも、後を追うようにバタバタと恐怖で気絶していく。
だが、彼らをせめてはいけない。
人命救助と国土防衛のために、苦しい修練をつんできた、彼らの日々に、嘘や偽りはないのだから。
ただ、上空から見下ろす、神奈川県 S市の被害がケタ違いすぎたのである。
S市を襲撃したのは、一人一人が一騎当千の、異様な存在感を放つ化け物集団だった。
その名も『煉獄同盟』。
世界最強と称される、凶悪無比なる暴走族。 その数、総勢400名。
彼らは崩落した街並みの中で、戦国武将のような本陣を構える総隊長を囲み『ある人物』に復讐すべく、待ち構えているのである!
『A隊員! みんな! 事態は一刻を争うんです!!
お願いおきて!! お願いだから・・・・・・』
涙がまじる声で、オペレーターが放つ悲痛な呼びかけに、反応はない。
だがオペレーターは、呼びかけをやめようとはしない。
彼女もまた、国を愛する誇り高い自衛隊の一人なのだ。
そんな中、オペレーターの声を放つ受話器を、一人の男が手に取った。
「点数稼ぎがお得意な、本部のヨチヨチお嬢ちゃんらしい、
ご立派な回答には恐れ入るねぇ・・・・・・」
『そ、その声は!? 村田正宗 准士官!! 』
「大当たり。 俺が本部の能なしならば
100点満点、花丸つけてあげちゃうね」
『!! 噂には聞いていたけど、なんて人なの・・・・・・。
真面目にやってください!! 』
「真面目にやれ? へへ・・・・・・。
被害者の数を数えるとかいう、うすら寒い算数のお勉強なら、他をあたりなィ」
『なんですって!? それでもあなたは、自衛隊ですか!?
村田じゅ(ガチャーン!!)』
ガチャーン!! と派手な音をまき散らし、通信を強制的に切り上げる正宗。
そして彼は、S市の惨状を見下ろして、にんまり、と満足そうに笑った。
ひさびさに楽しめそうな戦いに、腕が鳴り、その心が躍ったのだ。
村田 正宗(56)。
彼は、自衛隊に所属して以降、最強の名を欲しいままにしている、国宝級の剣客だった。
人外鬼畜の剣撃乱舞で、歯向かう相手をめった切り。
モラルや容赦を欠片も持たず、付いた二つ名『狂犬 正宗』。
もはやお手上げ、だが手放すには惜しい。
そんな手に負えない彼の処遇に揺れた、自衛隊の上層部が出した結論。
それは、闇の仕事を彼に一任するという事だった。
罪の有り無し関係なしに、自分たちに都合の悪い人間を暗殺させる。
彼は、そんな汚れ仕事を天職とした、自衛隊の闇そのものだった。
「にしてもよ。 こいつァ、聞きしに勝るねぇ・・・・・・。
久々、表に出るってのも、なかなかどうして、まんざらじゃあねぇやな。
この一件『お目当て』に限らず、丸ごと俺がいただきてェもんだがよ。
問題はあちらさんだねぇ」
あちらさんとは、自衛隊と犬猿の組織、公安特殊警察に属する2人。
余瀬明人と、丸井角造の事である。
彼らは、自衛隊に先駆け、一足早く地上に降り立っていたのだ。
「煉獄のクズ共が一堂に集結したのであれば、今こそ、まさに一網打尽の好機。
公安の名に懸け、やり遂げてみせるぞ、丸井」
「その名に懸ける公安の、お偉いさんを無視してきたのに
いけしゃあしゃあとよく言うぜ。
煉獄同盟が相手なんて、お前はともかく俺には無理だ。
こいつら2時間足らずで町を一つ壊滅しちまったんだぞ! 連勤で眠いしよ」
「呆れた奴だな。 そこまで言うなら、帰って寝ろよ。
S市住民の阿鼻叫喚が子守歌なら、さぞかし寝心地もいいだろうよ」
「うるせぇ!! 恰好つけんな偽善者が!! それに俺に命令するんじゃねえよ、ボケ!!」
2人の、いつものやりとりだった。
だが、そもそも余瀬は、丸井を誘っていない。
公安最高の戦力であり、東大主席の頭脳を持つ彼なら、一人でも事足りると踏んでいたのだ。
そんな彼が、上層部を無視して一人S市へ向かおうとすると、ヘリに丸井がドカスカ同乗してきたのである。
もしS市の戦火を止めることができれば、独断専行を差し引いても、大手柄なのだ。
手柄を独り占めさせまい。 あるいはお零れにあずかろうという、丸井の狡い算段だった。
つまり2人は、自衛隊と違い、上層部に内緒で、独断で急行していたのである。
丸井はともかく、余瀬がリスクを背負ってまで来た理由。
そこには、昭和という時代ならではの理由があった。
「来て正解だった。 想像以上のありさまだ。
これ以上、被害の規模が広がると、街ごと事件は『力技』で隠ぺいされかねん」
「良くも悪くも、それが昭和という時代の実情だろうが。 今更驚くことでもねぇよ」
昭和。
それは、携帯電話はおろか、ITすらも普及していない、未開で閉鎖された時代。
そして、こんな時代だからこそ実行可能な『力技』を、余瀬は危惧したのだ。
その『力技』とは、国の安全性を国外へとアピールするために、国ぐるみで、大きすぎる災害を無かったことにする絨毯爆撃の事である。
余瀬は、一人の人間として、そんなことは許せなかった。
そして、余瀬が危惧したのは、そんな時代の裏の顔だけでは無かった。
もう一つ、余瀬が危惧する事。
むしろ、無力な市民を守る、という観点から言えば、そちらが本命ともいえた。
それは。
「ウワーーーッ!! なんだあいつ!!」
その時。 昭和の実情には、さして驚くこともなかった丸井が、驚きのあまり尻もちをついた。
「なんだってんだよ!! あいつは!? S市に向かって、美女を引き連れ歩いてゆくぜ!?」
「・・・・・・本当に実在したとはな。 見るところ、帰宅途中といったところか。
丸井よ、留まるのなら、男を見せろ」
「なんでだよ。 というか、相手するのは、お前だけだ。 俺は逃げも隠れもするぞ」
「俺らの相手は、煉獄だけでは、済まないかもしれんからな。
公安の情報が本当ならば、俺らは億千万の核ミサイルより危険な
あそこに見える『最重要人物』と敵対することになる。
しかしだな。 その図体では、逃げも隠れも出来ないだろうに。 少し痩せたらどうだ」
「うるせぇ!!」
その時。
S市が、地響きをあげた。
煉獄同盟が、一斉にエンジンをふかし始めたのである!
なぜなら。
世界最強の暴走族が総力を結集し、復讐の機をうかがう『ある人物』。
自衛隊最強の闇の『お目当て』。
そして警察、最高の逸材が『最重要人物』と目する人物。
その台風の目を、いよいよ彼らが視認したのだ!
公安トップの余瀬の脳裏に、あの時の警視総監の言葉がよぎる。
『仮に『あの人物』が、ひとたび本気を出そうものなら。
・・・・・・・秒も持たずに、億が死ぬ』
いわく、歩く第三次世界大戦。
いわく、億千万の核弾頭。
警察の上層部や政界の実力者。 さらにはヤクザの組長にまで、そうまで言わしめ、恐れられる超危険人物。
その彼が、姿を現したことで、一斉に動き出す、日本屈指の各勢力!
口元をゆがめながら、50mの上空からパラシュートも無しに飛び降りる狂犬!
緊張感をみなぎらせ、腰の拳銃に手をかける無敵の公安トップ!
そして、怒りを爆発させる400人の無法者たち!
台風の目の到来は、嵐の到来。
つまりは、最強最悪の戦いの始まりを意味した。
そして、それは。
この物語の、始まりを意味するのである!!
頑張ります!