表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

第11話 『余興』

 ガキンガキンと鍔迫り合う音が長い時間響いたーー

 シエラの攻撃に手をこまねき、心身共に疲弊したアウラに、徐々にシエラが優勢となっていた。


「その首、もらい受けました‼︎」


 ハルバートを床へと突き刺し、それを軸としてシエラはしなやかに体を捻り回転蹴りを仕掛ける。

 それを左腕で受け止めた時だった。

 シエラは逆の足でアウラの首へと回転蹴りを入れてきた。それをまともに喰らい、シエラの足を抑えていた力が緩む。

 シエラはその隙を見逃さず、自由になった足もアウラの首へと当てがうと、両足で首をきつく締め上げた。

 この細い体の何処にそんな力があるのか、そう考えた刹那ーー

 アウラの体は宙に浮いていた。

 シエラはハルバートを軸として弧を描くように回転すると、アウラを床へと叩きつけた。


「ーーーーっ‼︎」


 床に叩きつけられ、ボールのようにバウンドしたアウラの体に、シエラは追い討ちをかけた。


「これでーー最期です‼︎」


 シエラはクルクルとハルバートを回転させると、下から上にアウラの体を引き裂いた。


「がはっーー‼︎」


 アウラは衝撃で吹き飛ばされると、後方にあった柱へと叩きつけられた。

 衝撃で一瞬肺の中の酸素がなくなり、視界が霞む。


終わり(フィーネ)。ふふっ、どうやらこの勝負ーー私の勝ちのようですね」


 ハイヒールで地面を鳴らしながらゆっくりとアウラの元へと近づいたシエラは、ハルバートの矛先をアウラの喉元へと突き付けた。

 冷たい鉄の刃が首筋に当たる。


「ふっーー腕には自信があったんだが、まさかキミみたいなのに私が負けるとはね……」


「ふふっ、この状況でも命乞いは致しませんか。私、そういう強いお方は大好きですよ」


「はっ……それはどーも……」


 疲労も限界に達し、諦め宙を仰いだアウラの目が、あるものを捉えた。

 月明かりに照らされこの世の物とは思えない輝きを放つ金髪。忘れもしない、いつかみた少女ーーヨシュアだった。

 柱の上で隠れるようにして眠っていたヨシュアの体は、今のアウラが柱に当たった衝撃により、落下しそうになっていた。

 アウラは咄嗟に、持っていた細剣を天井へと向けて投げる。

 真っ直ぐに飛んだ剣は、シエラの頬を掠めると、ヨシュアの服を貫通し、画鋲の様に天井とヨシュアとを繋ぎ止めた。

 ツツー、とシエラの頬から鮮血が滴る。

 目的とは違う結果に、アウラは思わず目を丸くする。


「どうして当たったんだ?と言ったようなお顔ですね……まぐれですか」


 今までの妖しい笑みが崩れ、血走った目がアウラを睨んだ。


「いいや……計画的さ‼︎」


 まだ勝機はあるーーその一つの希望がアウラの心に芽生えると、瞬く間に体に力がみなぎってきた。

 転がり、シエラの間合いから抜ける。


「往生際が悪いのですね。勝てる希望を見つけた途端にそんなに元気になるなんて。本当に人というのは、愚かな生命です」


 アウラは指の肉を噛み切り、そこから流れ出た血液で細剣を精製すると、右手でそれを構えた。


「さぁ、第2ラウンドと行こうか。お嬢様」


「ふふっ、いいでしょう。今度こそ終わりの楽章(コーダ)へと送ってさしあげます」


 アウラは剣をシエラに向かって投げつけようと構える。だが、それ以上の動作は金縛りにでもあったかのようにアウラは動かなくなった。

(なるほど、遠距離攻撃なら当たるって訳じゃないのか……なら、理由は別にあるか)

 アウラは高く後方に跳躍すると、シエラと距離をとった。


「ふふっ、さっきまでは闇雲に向かってきてくれてやりやすかったのに、残念です」


 ですがーー、シエラの口から低い声が鳴る。


「逃げているだけで、私に勝てるとお思いですか‼︎」


 シエラは高速で突進し、アウラとの距離を詰めた。


「くそっーー早い‼︎」


「ふふっ、それではさようなーー⁉︎」


 突然、天井から何かが落ちてきた。


「くっーー!」


 シエラはその物体に気が着くと、眉間に皺を寄せ、それを()()()

 地面に落ちる前にシエラが避けたその物体ーーヨシュアを受け止めた。


「君ーー寝相が悪すぎるぞ」


 天井から落ちてきてもなお静かに寝息を立てるそのヨシュアを見て、微笑みかけた。


「エス!頼んだ‼︎」


 アウラはそう叫ぶと、ヨシュアをエスの方へと放り投げる。


『エ⁉︎エスガ⁉︎』


 慌てながらも、エスは平べったい頭部分でヨシュアを受け取った。


「ナイスキャッチだ。エス、その子と一緒に上の方に逃げててくれ」


『エー!コンナオモイノ……モッテラレナイヨ!』


「わがまま言うんじゃない!そのぐらいも出来ないなら、キミのパーツ全部引っこ抜くぞ!」


 アウラがそう言うと『ワカッタヨ……』と不服そうにエスは言うと、フラつきながら天井の方へとヨシュアを乗せて浮上していった。


「ふふっ、てっきり唯我独尊が似合うお方かと思っておりましたが、お仲間がいたのですね」


「仲間っていうほどじゃないよ。ただの顔見知りさ」


 思わず余裕の笑みがアウラから溢れる。

 さきのシエラの頬を掠めた攻撃ーーそして今のヨシュアの攻撃をシエラが避けた事。

 シエラのギフトについて、アウラは一つの核心を得た。

 周囲を見渡し、アウラは目的の物を探す。

 木組みが壊れ、ボロボロになっているテーブルの方に目をやると、目的の物はすぐに視認する事が出来た。


「ふふっ、よそ見とはーー随分となめてくれますね‼︎」


 シエラが横一文字にハルバートを薙ぐ。

 アウラはその攻撃に吹き飛ばされるフリをして、後方に飛ぶと、テーブルの下から小瓶を回収した。


「当たっていてくれよーー私の勘‼︎」


 アウラは意を決すると、地面を蹴りシエラへと突進する。


「正面突破ばかりーー結局何も学ばないのですね‼︎」


 シエラは叫び、ハルバートを振り上げ迎撃体制を取る。

 だがアウラは剣を構えず、シエラの目の前で手に持ったビンの中身をぶちまけた。


「ーー⁉︎なんです⁉︎これ⁉︎」


 シエラは顔にかかった液体に苦悶の表情を浮かべる。

 その隙にアウラはシエラの胸を鷲掴みにした。


「ーーっ痛⁉︎何を‼︎」


「ふっ、やっぱりこれなら触れるかーー」


 アウラは自分の勘が当たっていたことに安堵した。


「ーー‼︎なぜ、なぜ私に触れられるのですか‼︎」


「簡単だよ。私はキミに攻撃していないからさ」


「ーーなっ⁉︎」


「キミのギフトーー相手の“攻撃を無力化する”とかそういった類のモノだろう?だからヨシュアを助けるために放った剣がキミに当たって、攻撃の意思が無かったヨシュアの落下をキミは避けたんだ」


「くっ……獣のように突進ばかりだった割に、頭はキレるのですね」


「その言葉、褒め言葉と受け取っておくよ」


 アウラは唇の端を釣り上げ、まるで悪魔のように笑う。


「ですが、この先はどうするのですか?いくら自分に言い聞かせようと剣を振るえばあなたの脳は、たしかにそれを“攻撃”だと認識します。如何足掻いても、あなたは私に勝てなーー」


「そういえば言ってなかったねーー」


 シエラの言葉を遮る。


「私の能力は正確には“細胞の活性化”なんだ。いつもそうして傷を回復させている」


「それがなんだと言うのですか⁉︎」


 自身の体に触れられていることが余程不快なのか、業の煮え切ったシエラは血相を変え叫ぶ。


「君が今少し飲み込んだそのジュースーーそこにはキミ達が仕込んだ睡眠薬が入っているわけだ……その成分を何十倍にも増幅させたらーー君にもわかるだろう?」


「――――ッ!」


 状況を察したシエラの眉間に皺が寄った。


「これは攻撃じゃない。人気者で全く眠れていないだろうキミの事が私は心配で堪らないんだ。だからこの睡眠薬を増幅させてキミを無理やり眠らせてあげるだけだ。優しさだよ」


「まぁ少し、増幅の加減は間違えてしまうかもしれないがね」と意地悪くアウラは微笑む。


「くっ――ッッ!」


 シエラは拘束から逃れようとハルバートをアウラに向かい突き刺す。

 だがシエラがハルバートを振るうよりも早く、アウラはギフトをシエラの体へと発動させた。


「さようならーー」


 ギフトの能力により、シエラが少量飲み込んだ睡眠薬が一気に何千倍もの量に膨れ上がる。


「ーーいやああぁぁぁあああ‼︎」


 オーバードーズを引き起こし、膝から崩れ落ちたシエラの目や口から赤黒い血液が溢れ、地面へと滴る。


「まだ……まだ負けるわけには、いきません」


 シエラはハルバートを床に突き刺し、それを支えに立ち上がった。だがその姿は、風が吹けば今にも倒れてしまいそうなほど弱々しかった。


「驚いた。致死量以上に増幅させたはずだ、普通ならとっくに死んでるよ」


「私は、一人ではないのです……死んだナツメのためにも、あなたに負けるわけにはいかないのです‼︎」


 叫び、シエラは最後の力を振り絞りアウラへとハルバートを構える。金色の閃光がハルバートを覆う。


「はああぁぁーー‼︎」


 だがその一撃は、無惨にもアウラの剣撃によっていなされた。シエラの手から離れたハルバートは宙を舞ったあと、カランカランと音を立てて床へと落ちた。


「父様……母様……」


 シエラは震える声でそういうと、背中から床へと崩れ落ちた。


「ナツメ……」


 シエラが重い(まぶた)を閉じると、雫がシエラの頬を伝うーー


「……今、おくってやる」


 シエラの胸に剣先を立てたその時、飛んできた炎の玉がアウラの肩を焼き払った。


「ーーっっ⁉︎」


『アーーアウラッッ‼︎』


 痛みに左肩を抑えうずくまるアウラにエスが駆け寄る。


「シエラさんに手を出すな‼︎この意地汚い悪魔が‼︎」


 睡眠薬の効果が切れ、目を覚ました男がアウラに向かってそう悪罵を叫んだ。

 そして次の炎の弾を発動する詠唱を唱え始める。


「ふっ……なるほど、悪者は私というわけか……」


 アウラはそう言って鼻を鳴らした。


 今までの事を見ていなかった男からすれば、食事を振舞ってくれたシエラに手をかけるアウラは悪魔そのものであるのは間違いなかった。


「んー……どうした?」「なにかあったのか?」


 睡眠薬の効果が薄まったのか、男の叫び声につられぞろぞろと人が目を覚ましていく。


「見ろ‼︎シエラさんがあの女に殺されてる‼︎」


「なんだあの女ーーシエラさんに飯だけ頂いたら殺すなんてそこまで人として落ちぶれたか!」


 目を覚ました人々は口々にそういうと、血器を創り出しアウラへと構えた。


『み、みんな違うヨ!ーーアウラはみんなの事を守ろうトーー』


「やめろーーエス」


 ふらふらと立ち上がると、慌てるエスを静止させた。


「どうせ、無駄だ……」


 そう口にした後、唇を噛む。

 “無駄”ーーそう言ってしまった自分の言葉があまりにも虚しく自身の心に響いた。


『でもこのままだト、アウラがワルモノになっちゃうヨ……エス、そんなのイヤだヨ‼︎』


 何の邪念も無いエスの言葉は、何故だか機械から発せられる無機質な言葉だというのに、とても温かいものだった。

 アウラから思わず笑みがこぼれる。


「ふっ、そんな声を出すな。私の味方には君がいる。頼り甲斐はないが、それで充分だ」


『アウラーー』


 エスの冷たいプラスチックの様な頭を撫でると、視線を下に落とし、シエラを見た。

 シエラはオーバードーズを引き起こしたショックにより、いつの間にか意識を失っていた。


「眠っている人間を殺すようなーー卑怯なまねはしたくない、か。面倒なカッコつけをしてしまったもんだな……」


 先程自分がナツメに言った言葉を呟き、アウラは自分の髪を掻いた。


(どうせこの状態じゃ、放っておいてもいつか死ぬかーー)


 アウラは血器をしまい、エスへと話しかける。


「あれ?そういえば君、あの自称メシアはどうした?」


『あの子なら、あっちに置いたヨ!重いんだもン!』


 エスの言う方を見ると、壇上の所にある女神の石像の腕で、ヨシュアは抱きかかえられるように眠っていた。

 地を蹴り、一気にヨシュアの元へと近づくと、眠るヨシュアを抱き上げ、脇に抱えた。


『ソノコ、ドウスルノ?』


「連れて行く」


『エー⁉︎アウラ、ドウシテ⁉︎』


「あんないきなり火の玉飛ばしてくる野蛮人の元へ、こんな小さな子一人置いていかないだろ」


 その言葉に、エスは『ソッカァーー』と間の抜けた声を出した後、


『アウラはーーやっぱり優しいネ。エスは、アウラの優しい所、大好きだヨ』


 と言ってヘッドライトを点滅させて喜んでいた。


「ははっ、それはどうも」


 チラリと上を見ると、天井にはナツメの攻撃で空いた大きな穴があった。


「エス、飛ぶぞ」


『ウン!』


 地面を蹴り、一気に天井へと舞い上がる。

 屋根へと登ったアウラは、教会で自身に罵声を浴びせる人間を見る。


「じゃあね君達。晩餐の余興、たっぷり楽しんでくれ」


 そう言い残し、二人と一匹は、崩壊した世界へと消えていったーー





【エピローグ】


 ーー私はやっぱり間違っていたのでしょうか。


 ひとりの少女が、そう言って小さな体を震わせ泣いていた。


 ーーそんなことないよ。君のしたことは正しいよ。


 黒い衣服に身を包んだ女が、その少女のとなりに寄り添った。


 ーーけど、けれど……もし私がこの罪を受けることが必然だったのだとしたなら、私は間違った道を歩んでしまったのかもしれません……


 人前で涙を見せたことのない少女はーーはじめて誰かの前で涙を流した。

 そんなか弱い少女を、女はきつく抱きしめた。


 ーーそんなことはないよ。そんな哀しい運命なんてものがあるはずがない。君は両親をまた生き返らせるんだろう。そこで確かめればいいんだ。君が間違っていたかどうかを。


 ーーはい。ふふっ、私としたことが、こんなお見苦しい姿を……申し訳ございません……


 ーー何を言ってるんだい、僕は君の騎士だろう?王女様に寄り添うのは、僕の役目さ。


 女は笑い、少女の細い手を取る。


 ーー世界が戻っても、僕と一緒にいてくれるかい?


 少女は微笑む。


 ーーはい。もちろんですよ。ナツメ


 最後の晩餐編-fin-


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ