第9話 『イカれタバコ娘 Ⅱ』
「出てきてもっとーー遊ぼうよ‼︎」
叫び、ナツメがバズーカのトリガーを引くと、爆音と共にナパーム弾が発射され、硬い血器の盾を粉々に粉砕した。
「ーーーーッッ‼︎」
閃光と爆音ーー
飛んだ意識が戻った時には、アウラは宙に浮いていた。
直後、爆風が吹き付け、教会の床へと叩きつけられた。
「ジ・エンドだ‼︎」
そう弾んだ声が聞こえたかと思うと、目の前に出現したナツメが額に銃口を突きつけた。
避けなければーー
それだけは思考する事が出来たが、閃光と衝撃により脳に異常をきたしたのか、上手く体を動かす事が出来なかった。
ーーここまでか
そう諦め目を瞑るーーだが、額に銃弾が撃たれることはなかった。
「あらら、弾切れだった」
カチカチッとリボルバーはただ意味もなく回っているだけだった。
それをチャンスと見たアウラは力任せに剣を振るうが、ナツメは余裕の表情でそれを避け、アウラから離れた。
「それにしても……キミ、バズーカ砲なんていくらなんでもズルすぎないか?」
「ははっ、そんなことないよ。僕は銃とかしか血器化出来ないからね。逆にお嬢ちゃんみたいな剣を血器化出来るのを羨ましく思うよ。ホントは近接戦闘の方が得意なんだ」
ナツメは汗ひとつかくことなく、出会った時と変わらないふざけた表情のままそう笑いながら、左手に取り付けたワイヤーを引っ張り血液を滴らせると、それで銃弾を生成していた。
一方のアウラは苦手な盾の血器を生成し、ギフトを長時間使用したことで著しく体力を消費していた。
「どうしたんだいお嬢ちゃん。考え事かい?」
「あぁ、どうやって君にトドメを刺したら一番カッコいいか考えてるところだ。君もリアクションを考えていてくれ」
少しでもナツメに悟られないよう虚言を張ることが、今のアウラの精一杯の抵抗だった。
「ははっ!面白いねお嬢ちゃん!でもーー考える事は、僕とお嬢ちゃん逆じゃないかな‼︎」
ナツメとの長い攻防により、アウラは次第に息が上がり、呼吸が乱れ始めていた。
ナツメは的確にアウラの間合いを読み、自分からは近づかず、高速で距離を詰めても、瞬間移動のギフトにより逃げられ、確実にアウラは不利な状況を作られていた。
「ははっ‼︎さっきより動きが鈍いんじゃないお嬢ちゃん‼︎」
ジリジリと、四方から放たれる銃弾への反応が徐々に鈍っていき、鉛の弾による攻撃が体を掠めていく。
一撃……たった一撃ナツメに触れることさえ出来れば、あのムカつくニヤけ顔を引き裂いてやれるのに、そう心の中で苦悶する。
「そろそろフィナーレといこうか‼︎」
叫び、ナツメが二丁拳銃のトリガーを引くと、またもアウラに幾千の弾が飛ぶ。
「一撃ーーたった一撃でいいんだ」
飛んでくる銃弾に気を止める事なく、アウラは思考を続けた。
最初の銃弾が当たった時、そして次にバズーカにより吹っ飛ばされた時ーーどれも攻撃が当たり、隙が出来た時にナツメは瞬間移動して頭部を狙い、一発で仕留めようとしてきた。
「ようするに……この弾は、アイツをおびき出すトリガーってわけだ」
飛んでくる銃弾を見れば、恐怖で避けたくなるーーだから、強く瞳を閉じた。
その刹那、無数の細かな刃が自分の体を貫く痛みが全身に駆け巡った。
急所は外したものの、無数の銃弾は肉を抉り、骨を砕くと背中から抜けていった。
「ーーーーッッ」
激痛により立つ事もままなら無くなると、アウラは地面へと片膝をついた。
「ははっ!遂に降参かいお嬢ちゃん‼︎」
怯んだのを確認したナツメは、目論見通り耳障りな笑い声と共に瞬間移動で目の前へとその醜悪な姿を晒した。
「そんなわけないだろうーー」
額に銃口を突きつけられているーーそんな絶望的な状況下で焦るわけでも、逃げるわけでも無く、妖しく笑うアウラにナツメは恐怖した。
「君を待っていたんだよ‼︎」
アウラは手にした剣を一気に振り上げ、ナツメの両腕を切り落とす。
拳銃を持った両腕は、宙を舞ったあと重力により地面に落ちると、ゴトッと鈍い音を響かせた。
「え……あ……あ……」
何が起きたのか理解出来ないのか、ナツメは少し放心したあとーー
「うああぁぁぁあああーーーー⁉︎」
絶叫した。
両腕から血の雨が降る。
両腕からの出血は止まる事なく、ナツメの足元に真紅の絨毯が敷かれる。
「腕が、腕が……腕が腕が腕がーー‼︎」
ナツメは苦痛に顔を歪め、絶叫する。
「そこでじっとしていろ。今、楽にしてやる」
立ち上がると、教会に靴音を響かせ、ゆっくりと距離を詰めていく。
「ククッーーククククククーー」
不敵に笑うナツメに、恐怖の2文字が頭をよぎり、思わず歩を止める。
「シエラ……そっか、シエラ……両腕が切り落とされるのってこんなに痛いんだね……ククッ、アハハハハハ!」
ただならぬ狂気に危険を感じ、すぐさま刃を突き立てる。
だが、少しの躊躇がとどめを刺すチャンスを逃した。
「シエラ!また僕は君の存在に近づいたよ‼︎また君に相応しい人間になったんだ‼︎また語ろう!また笑おう‼︎そしてーーこの世界を僕とキミの楽園にしよう‼︎」
狂気の混ざった笑いと共に、ナツメの足元にある血溜まりがグツグツと煮えたぎったかのように音を立て、ナツメの両腕へと集まると、アウラの身長を優に超える巨大なバルカン砲となった。
アウラは構えていた剣を下ろすと、舌打ちし後方へ跳ぶ。
「まだそんな隠しダネを持っていたのか……」
睨むアウラに、ナツメの巨大バルカン砲が向けられる。
「僕の全生命の結晶だーー」
ナツメは体力の血液で創られた巨大なバルカンをアウラへと向けた。
「今度こそ死んでくれよ、お嬢ちゃん‼︎」
その叫びに呼応するように、一気に銃弾が連射された。
巨大なバルカンから発射される銃弾は二丁拳銃とは比べ物にならないほどのけたたましい量だった。
「くっそ‼︎そんなリアルとファンタジーの融合兵器ありか‼︎」
アウラは横に避けれないとわかり跳躍すると、教会の壁を走り、銃弾の雨を済んでのところで避け続ける。
アウラの動きに一歩遅れ銃弾は壁を破壊し、割れたスタンドガラスが地面へと落ち、七色の破片が散らばる。
「そうかい、これでも逃げられるんだーーなら‼︎」
ナツメは両腕を広げると、ガチャンという音と共にバルカンが二つに切り離された。
「挟み撃ちだ‼︎」
前方と後方の両方向からの銃弾が迫ってくると、アウラの逃げ道を完全に塞いだ。
「ハハハハハッ‼︎まさに挟み撃ち‼︎終わりだよお嬢ちゃん‼︎」
気違いじみたナツメの笑い声が、銃弾が弾ける金属音と共に教会に響いた。
「これじゃ、ラチがあかないかーー」
状況が状況だ、仕方がない。我慢しろ。
アウラは自分にそう言い聞かせ目を閉じると、全身に気を集中させる。
指の肉を噛みちぎり、黒い細剣の血器を精製しそれを握り、迫ってくる銃弾の雨の中へと自ら飛び込んだ。
「なっーー‼︎自分から⁉︎」
再びアウラが瞳を開けると、そこは時の止まった世界だった。
ギフトで身体を異常なまでに強化したことにより高速で飛んでいる銃弾といえども、死にかけの羽虫同然だった。
アウラは正確に、両手に構えた二つの剣で無数の銃弾をいなしていき、ナツメへと続く一つの道を作り上げた。
「これでーー」
ギフトの効果が切れ、止まっていた時が急激に動き始める。
アウラは重力に身を委ね、高速でナツメの元へと落下する。
「終わりだァァアア‼︎」
叫び、地上にいるナツメの体を十字に一気に引き裂いた。
「……っ‼︎」
ナツメからぶちまけられた大量の返り血が、視界を汚した。
けれど、苦痛に顔を歪めながらも、最期まで作り笑いを浮かべるナツメの顔だけは、よく見えた。
「やっぱり強いね……おじょう……ちゃん」




