表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

EP1 邂逅

 胴のない頭。


 四肢のない胴。


 千切れた腕。


 切り離された脚。


 そこに全身が揃った死骸はなかった。目に映るのは正に地獄絵図。歩けば足元に広がる血の水溜りが不快な音を立て、息をすれば血の匂いと死臭が鼻を刺激する。小一時間前まで堂々と傍に並立していた純白の柱たちは血に塗れ、赤黒い石片となって大量の肉片とともにそこらに転がっている。


 この光景が何者の仕業によって創り出されたのかは一目瞭然であった。血の海の波際に佇む赤い影。鋭利な嘴と鉤爪をこびりついた血で赤に染めたそれは、巨大な鳥だった。それはこれだけの惨事を引き起こしても尚無傷であり、その事実がそれの実力を如実に物語っている。


 食べても食べても(殺しても殺しても)、赤い怪鳥の食事(惨殺)は終わらない。何故なら獲物は自ら、無限にやってくるのだから。


 そして今、新たに二つの影がそれと相対する。


 鉄の軽装に身を包んだ若い男女の二人組、新たな獲物たちは案の定その光景を見て絶句した。おびただしい数の魔物と同業者の死体、そしてここにいるはずのない高ランクの魔物。全てが異常事態(イレギュラー)なこの状況。これを見て驚かない方が可笑しいだろうが、その隙を目の前の化物は許してはくれない。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 咆哮をあげ素早く押し寄せる赤い怪鳥に対し少女は咄嗟に両手剣で防御の構えをとるが、少年は対応することが出来なかった。その瞬間、赤い怪鳥は己の捕食者としての力を自覚し、少女は少年の無残な死を見届ける。


 はずだった。


「は......?」


 代わりに少女の素っ頓狂な声が響く。彼女の目に映ったのは縦に両断された赤い怪鳥ーーA級魔物、〈炎鳥〉だった。嘴まで真っ二つにするその腕は達人並みといっても過言ではないだろうが、両断された死体の向こうで納刀する赤黒い髪の男、この所業を起こしたと思しき男の見た目は少女と同じくらい、十六、七といったところだった。


 少女はその事実に唖然とする。ついさっきパーティーメンバーが瞬殺されかけた怪物、ついさっき自分に死を鮮明に意識させた強大な怪物、『絶対に敵わない』と自分が思った怪物、それををいとも容易く、しかも認識できないほどの速さで倒した同年代の少年。若手冒険者の中では敵無しだった少女にとって少年は未知の存在であった。


 それ故少女は行動を起こした。自分の欲する物を手にいれるために。小便を垂れ流し気絶するパーティーメンバーには目もくれず、〈炎鳥〉の魔石を回収している少年の元へ一直線に向かった。


「危ないところを助けていただいて、ありがとうございました」


「いや、別にいい。他人の獲物を横取りするのはマナー違反だからな、むしろお礼するのは俺のほうだ」


 近くで顔を確認したが、やはり少女は少年に見覚えがなかった。ここ、レーンで活動するB級以上の冒険者とは全員と顔見知りのはずなので、最近レーンに来た冒険者なのだろう、と納得した少女は少年に再び話しかける。


「あの、最近レーンに来られたんですか? 見かけない顔だったので」


「......? 一応有名なはずなんだが......ああ、この前彼奴が言ってた...」


 セミロングの金髪に赤く透き通った瞳、それと非常に整った容姿に少年は何かを悟ったように呟く。少女は少年の言葉の意味がわからないといった風だが、少年はそれを察したのか一言付け足した。


「ま、上に帰ったらわかるさ」


 その言葉に少女はさらに混乱するが、一旦頭の隅に追いやり解体作業に加わる。ちなみに鳥系の魔物は鉤爪、嘴、羽毛などが素材として買取対象になる。ものの数分で解体作業を終えると、少年は辺りを見渡しため息をついた。


「進化種か、災難だったな」


 心の籠もっていない声でそんなことを言うと、ちゃっかり〈炎鳥〉が食い損ねたのであろう魔石を回収していく。死体の処理は、少しすれば〈()()()()()()()()()()()()と冒険者カードだけを回収して素材や魔石と共に小さな袋に突っ込んだ。風属性付与で内部の空間が拡張された袋は易々とそれらを収納し少年の懐に戻った。値は張るが所持品が多くなる冒険者にとっては必須アイテムだ。一通りの作業を終えた少年は未だに気絶したままの男を持ち上げる。


「申し訳ないので私が持ちます! えっと...」


「エル・リンネだ。多分今後関わることはないだろうから覚えなくても大丈夫だ」


「いえ、命の恩人の名前くらいは覚えますよ? 私はユノ・オルティスと言います、これからよろしくお願いしますねエルさん」


「ああ、宜しく。それとこの男は俺が持っていく。救助料目当てだから気にしないでくれ」


 そう言うと少年、もといエルは上へと歩き始めた。少し置いていかれたユナは小走りでエルに追いつき、二人は横並びで話しながら上へと続く階段を登っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ