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40.翡翠の腕飾り

早く行かなくちゃ今度こそ本当に置いて逝かれてしまう。そう思いながら翡翠は母親の形見である翡翠の腕飾りを握りしめた。


「翡翠さん!待ってください!」


そう言いながら後ろから妹を師匠と慕っていた桜が追いかけてくる。妹が連れ去られたと妹の式神から聞いた時いてもたってもいられなかった。だって私のたった1人の妹で、私の大事な家族で…。


「母上…!どうか雷斗を…雷を守って…!」



私と雷斗は双子だった。桜が満開に咲いていて、春の嵐で雷が鳴っているそんな時に生まれた。

私達の故郷には人間達から狙われ逃げていたもの同士が集まってできた小さな村だった。母も当然神の血を引き継いでいて力も強かった。母は私と同じような瞳を持つ人で村で1番の美人だった。

父と母はとても仲が良く村で1番のおしどり夫婦と言われるほどだった。春は満開の桜を楽しみながら散歩したり、たまに来る神々や私達と同じような一族の人とお話したりとても楽しかった。真名はある程度大きくなってから与えられそれは家族やよっぽど親しい人にしか教えないしきたりがあり、私の幼名は翡翠のような瞳から(みどり)と名付けられ妹は(いかづち)と名付けられた。

雷は私と違いとても活発でいつも木登りなどをしては落っこちていたりして皆を心配させていた。ある日に竜という私たちより5つほど離れた男の子がきた。どうやら活発な雷のお世話係のような感じで母が信用している人の息子らしかった。竜はとても礼儀正しくとても大人しかったので妹とはまるで正反対だったが妹はすぐに竜と仲良くなった。私も仲が良くなったのでよく3人で遊んでいた。

ある日私は妹が竜と話している時に耳をよく触っているのに気がついた。妹は照れている時に耳を触る癖があり何となく妹が竜のことが好きなのがわかった。それを母に伝えると…。


「あらあら、まあまあ!そう!雷がね…うふふ。」


とても嬉しそうに笑っていた。父が不思議そうにその様子を見ていたのは今でも覚えている。

母が結婚する時に父から貰ったという翡翠の腕輪と瑪瑙(めのう)でできた勾玉の着いた首飾りを見せてくれたのはいつだったろうか…。


「この翡翠は翠の瞳に、この瑪瑙は雷の瞳の色にそっくりね。そうだ、2人が結婚する時はこの2つを贈りましょう。」


しかし、その2つは母が人間達から私達を逃がすときに自分の形見として私達に渡された。人間達から逃げた後に雷とはぐれてしまった時、人間達から酷いことをされていた時などの辛い時はいつもこの腕輪を握りしめていた。もうあんな思いは二度としたくない…!



「翡翠さん!」


自分の名を呼ばれ腕見掴まれたのでばっと振り返ると桜がいた。


「ごめんなさい、桜さん。早く妹の所に行かなくちゃと思うとつい…。」


「翡翠さん…。大丈夫です、きっと師匠なら無事ですよ。」


「そうよね。さ、行きましょう。」


きっと大丈夫、あの子は強い。だから、だから…



「嘘、嘘よ…。師匠…!」


妹の姿をしたそれは薄気味悪い笑みを浮かべこちらを見ていた。近くにはみのりが倒れていた。私には分かる。あれはもう中身が無い。


「あーあ、遅かったね。もう人間の娘は取り込んじゃったよ。お前も取り込めば強い力が手に入るけど天照の使いはやだなぁ。」


ケタケタと嗤う。やめて、その姿で気味の悪い笑い方はしないで。私の見たかった妹の笑顔はそんなんじゃない。


「翡翠さん、どうしよう。師匠が、師匠が…。」


桜さんの顔色は真っ青だった。彼女にとって妹は親同然だ。目の前の現実が受け入れられないのだろう。私だって受け入れられない。でも、私にはやるべきことがある。


「桜さん、私が妹を、雷斗を止めるわ。」


「そんなどうやって…。ま、まさか!」


「妹を殺します。それしか方法がありません。」


最悪の状況となった今にはこれしか方法がない。このまま放っておけば高天ケ原に来るだろう。現世にもきっと影響が出る。そんな事は妹が望むはずがない。


「嫌です!だって師匠はあいつに体を乗っ取られているだけで…!」


「お黙りなさい!私だって…私だってこんなことはしたくないのです!さあ、貴女は外に出なさい。」


術を使い桜さんを外へ無理やり移動させた。いくら亡者で死なない体でも戦いに巻き込まれれば魂に傷がつき最悪の場合、消滅してしまう。


「へぇ、逃がしたんだ。君にとっては人間は憎しみを感じている生物だと思ってたんだけど。」


「ええ、そうね。私にとっては人間なんて増悪の対象でしかないわ。でも、妹が大切にしていた人間は別よ。」


優しい妹とは違い私はそれほど人間に関心はない。今回もほとんど人間達の自業自得だった。でも、妹の為なら…。


「それで?僕をどうやって殺すの?君の大好きな妹の姿をしているんだよ?」


「妹はそんな薄気味悪い笑い方をしないわ。もう、何千年と笑顔を見ていないけれどきっとそんな笑い方はしないわ。」


「そっか…。じゃあ、かかってきなよ。今までの恨み全部ぶつけてあげるから。」


そう言いながらそれは近づいてきた。接近戦は苦手だけど大丈夫。死んでも止めてやる。

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