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20.人食い井戸

この話には残酷な表現があります。苦手な方はご注意ください。

ブクマ&評価ありがとうございます!

 ああ、なんてことをしちまったんだ俺は…!

 興味本位での肝試しがまさかあんな結果になるなんて!

 俺は実際に体験した事をここに書く。もし、これを読んだ者は絶対にそこへ行っては行けない。そこに行けば死があるだけだ。逃げても追いかけてくる。捕まれば死が待っている。だから……



「なんだよー、途中で途切れてんじゃねえか。」


 青年は持っていた古びたノートをポイッと投げた。


「お?何々?うわー、よくありそうなネタだな!」


 そのノートを拾い上げたのは青年のサークル仲間の1人。


「それさ、いつの間にかリュックに入ってたんだよ。誰だよ入れたやつ…。」


「しかも書いてある題名みたいなの『人食い井戸』だってよ!ネーミングセンスねーな!ちゃっかり血の痕までついてんじゃん。」


「なにそれー。私にも見せて!」


 同じくサークル仲間である少女もそのノートを見た。


「これよくネットとかであるやつじゃん。つまんないの。……ん?」


 少女はノートの下の方に小さく書いてある住所のような物に気がついた。


「ねえ、これ井戸がある住所じゃない?真相知りたければ自分達で調べろって事?」


「ちょっと見せて。確かに住所みたいだけど本当にこんな所あるのか?」


「見て見て、この住所さ実際にあるみたいだよ。」


 そう言い少女は2人の青年にスマホの画面を見せた。


「え?あるんだ。しかも結構遠くないじゃん。あ!そうだ、今度肝試しにここに行かねえ?」


「お、いいねえ。他の奴らも誘って皆で行こうぜ!」


「さんせーい!」




「ちぇ、なんだよ他の奴ら単位が足りなそうで危ないからって断りやがって。ちゃんと勉強しろよ。」


 この肝試しに来たのは肝試しを計画した3人に加えたった1人がほぼ強制に近い形で参加した。4人は車でその井戸があるところに向かっている途中だった。


「そう言うあんたも単位足りなくて留年しそうなんでしょ?」


「ああそうだよ!それにしても、こんな山奥に井戸なんてあんのか?井戸って人が住んでいるから出来るもんだろ。こんな山奥に人なんて住んでたのか?」


「ご、ごめん。もうちょっと運転を優しくして…。酔いそう…。」


 眼鏡の青年が顔色を悪くして言った。


「あ?メガネのくせに文句言うなよ。」


 運転している青年は後ろに座っている眼鏡の青年に言った。


「おい!ちゃんと前を見ろよ!もし人とかがいたらどうするんだ。」


「こんな山の中に人とかいるはずねえだろ。………ん?あれはなんだ?」


 前方に人影らしきものが道の真ん中に見えた。近づくにつれそれは1人の老婆だとわかった。


「なんでこんな所に婆さんがいんだよ。しかも道のど真ん中とか危ねえじゃねえか。」


 老婆は車が目の前に止まってもなかなか動こうとしない。


「おい、婆さん!道のど真ん中に立ってたら危ねえじゃねえか!俺達は先に行きたいんだ!どけよ!」


 運転していた青年は窓から顔を出し老婆に乱暴な口調で文句を言った。


「ちょっと止めなよ。もしかしたらこのお婆さん幽霊かもよ。」


 少女が小声で運転していた青年に言った。


「お前さん達、あの井戸に行くんかえ?」


 老婆はしわがれた声で話した。


「ああそうだよ。文句あんのか?」


「あそこには行かないほうがええ。あの井戸は人を食らう化け物だ。何年か前に若い連中が封印を解いちまったばっかりに何人も犠牲になっとる。命が惜しければすぐに帰ることだ。」


 老婆は青年達にまるで警告するように言った。しかし


「は?そんなの作り話だろ?化け物なんざいるわけないだろ。ほらどけよ、轢いちまうぞ。」


 青年達は聞こうとしない。


「そうかえ。行って後悔するがいいさ。わしは忠告したぞ。」


 そう言い残し老婆は闇の中に消えた。


「なんなの?あのお婆さん気持ち悪い。」


「あの、今からでも引き返しましょう?」


「ああ、俺も嫌な予感がするんだ。今からでも間に合う。帰ろう。」


「あ?なんだよ。怖じ気づいてんのか?ただの作り話だろ。ほっとけ。お前達2人だけここから徒歩で帰るか?こんな街灯もない山道を?」


 しばらく車の中で言い合った後、結局全員で行くことになった。そして、車は目的地に到着した。


「んで?井戸は何処にあるんだ?」


「多分あれじゃない?」


 少女は古びた柵の向こうの奥にあるボロボロの井戸を指さした。


「へー、確かに呪いの井戸って感じ。」


「か、帰りましょうよ。」


「あ?メガネ、まだそれを言うのか?そうだ、お前1人であの井戸の所に行ってこいよ。」


「い、嫌ですよ!行きたくありません!」


「えー?メガネ君怖いのー?行かないと帰り置いていくよ?」


「そ、そんな…。」


「おい、井戸の方に女の人いないか?」


 井戸の傍に女性がぽつんと立っていた。


「え?もしかして幽霊?怖ーい。」


「は?そんなわけねえだろ。俺が確かめてくる。」


 そう言って青年が1人で井戸の方へ行ってしまった。


「お、おい!勝手に行くんじゃない!」


「あ、ちょっと!待ってよ!」


「お、置いてかないでください!」


 他の3人も青年の後を追いかけて井戸の方へ行ってしまった。

 そこには本当に女性がいた。女性はとても美しかった。


 なんだよ、ただの美人じゃん。結構タイプかも。


「あの、どうしたんですか?俺でいいなら聞きますよ。」


 しかし、女性はうつむいたまま…。


「え?どうしたの?その人。」


 他の3人も井戸の傍についたころ、女性が何やらボソボソと話した。しかし誰も何を言ったのか聞き取れなかった。


「え?なんて言ったんですか?もう一度お願いします。」


 先ほど乱暴な口調だった青年が女性に近づくと…。


「最近は人間が来なかったから腹が空いてたんだ。久しぶりの食事だ。」


 女性はガッと青年を掴んだ。長く尖った爪が青年に食い込んでいた。


「え?」


 青年が振り払う余裕も無く女性は井戸に飛び込み青年を井戸へ引きずり込んだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!た、助けてくれぇぇぇぇ!嫌だぁぁぁ!」


 引きずり込まれた青年の声とまるで何かに骨ごと喰われているようなゴキッ!バリッ!グチャ!という音が井戸から聞こえた。


「いやぁぁぁ!」


 少女が走り出した。しかし、井戸から先端が槍のようになった紐状のものが飛び出し少女の足を貫き井戸に引きずり込もうとした。


「いやぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇ!」


 少女は他の青年に手を伸ばし抵抗しようとしたが…。

 ヒュンという音共にまた同じような紐状のものが新たに飛んできて少女の頭を貫いた。そして、少女は動かなくなり井戸に引きずり込まれた。


 バリッ!バリッ!グシャッ!グチャッ!バキッ!と音が響く。


「ひ、ひぃぃぃぃ!死にたくない!死にたくない!」


 眼鏡の青年も逃げようとしたが今度は口がついた触手のようなものが青年の頭にかぶりつき青年の頭はもげた。頭をなくした体も他の触手のような物に連れて行かれた。


 残された青年は………


 くそ!どうやったら逃げられる?逃げたとしてもあの触手のようなものが飛んでくるに違いない。しかし、一か八か!


 一気に3人食べたせいか井戸の反応がない。相変わらずあの耳を塞ぎたくなるような恐ろしい音は響いているが…。


 今なら逃げられるのでは?そう思い青年は音を立てないように後に下がった。しかし、


「……………!がっ!」


 大きい石のような物に躓いてしまい大きな音を立てて転んでしまった。そして


井戸から先ほどと同じようなものが青年めがけて飛んできた。青年は諦めて目を閉じた。

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