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番外編~桜と雷人~

今回は桜さんの過去編です。

暴力や腕の切断などがでてきます。

苦手な方はお控えください。

ブクマ&評価ありがとうございます!

 物心ついた時から私は親の顔を知らなかった。村人の話を聞く限り私は村に捨てられたみなしごらしかった。

 みなしごの私は召使いとして村長の家で働いていた。当時は身分の差が激しくみなしごの私はほぼ奴隷に近かった。しかし、生きていくために一生懸命働いた。

 村長一家のほとんどは仕方なく私をおいているかのように私に接していた。そりゃそうだ、この時代で食べ物に困っていない者は力を持つ武家などの上流階級の人達だけ。小さな村の村長など普通の百姓より家が大きいくらいだ。しかもここのところ米の収穫が悪いから口を少しでも減らしたい一心だろう。


「まだ終わっていないのか!これくらい出来なくてどうする!これだからみなしごは!今日の飯は抜きだ!」


 今日の飯はってここのところ毎日そうじゃないか。私はまだ8つくらいだぞ。それなのに洗濯、水くみ、掃除、薪の調達を全て終わらせろなんて最初から飯なんて食わせるつもりないじゃないか。


「なんだ、その目は!俺に反抗するのか!みなしごの分際で!」


 そう言ってバシャッと私に水をかけた。あーあ、せっかく遠い川から汲んできたのに。井戸なんてないから川まで行かなくちゃいけないのに。それにみなしご、みなしごってうるせえんだよ。好きでみなしごになったわけじゃないのによ。


「ほら!謝れ!反抗して申しわけありませんってな!」


 こいつ!腹に蹴り入れやがった!しかし、このままだと殺されちまいそうだな。


「ゲホッ……。は、反抗して申しわけありませんでした。お許し下さい。」


 正直体を動かすのもおっくうだが自分の命が優先だ。私は土下座をして言った。


「ちっ…。わかればいい。いいか、お前はみなしごで仕方なくここにいさせてやっているんだからな!それを忘れるな!」


 そう言って村長である男はどこかへ行った。あんなやつが村長だなんてこの村は終わっているな。


「桜!大丈夫?また父様から酷いことされたの?」


 駆け寄ってきたのは村長の息子の一之助(いちのすけ)様。歳は同じくらいだがとてもしっかりしておられて私のような召使いにも優しくしてくれて私にこっそり飯を分けてくれる時がよくあった。それに、名前のない私に桜という綺麗な名前までくれた。あの村長の息子とは思えないな。


「ゲホッ。大丈夫です。それよりも一之助様、私に話しかけてはまた旦那様達に叱られますよ。それにそのような綺麗な名前も私には勿体ないとあれほど………………っ!」


 クッソ!腹が痛え!さっきの蹴りを入れられた所がなんとも言えない程痛い。


「大丈夫!?やっぱり何かされたんだね!?待ってて今誰か人を呼んでくるから!」


 そう言って立ち上がろうとした一之助様の着物の裾をグッとつかんでそれを阻止した。


「一之助様、大丈夫です。これくらいへっちゃらですよ。それにまた私を助けたと一之助様が叱られるのは嫌なのです。」


 またみなしご分際で!とか殴られるのが嫌なのもあるが一之助様が叱られるのが嫌なのは本当だ。心から一之助様には幸せに過ごして欲しいと思っている。


「………。ごめんね。なにも出来なくて。オレが大きくなって強くなったら絶対に桜を助けるから。」


 一之助様は私の頭を撫でてずっとごめんねを言っていた。男なのに少し情けないな。


 それからしばらくしてただでさえ近年は不作続きなのに雨が全く降らなくなり田畑が枯れてきた。これはもうそろそろだな。


「どうしてです!父様!何故桜が贄にならなくてはいけないのですか!まだオレと同じ子供なんですよ!」


 ああ、やっぱりか。みなしごで身寄りの無い私が贄になるのは当然か。


「お前はまたあの召使いをそのような名前で!あいつはみなしごなんだから当然だ!それに、水神様の嫁に行くのだから名誉な事だ!むしろ感謝されてもいいくらいだ!おい召使い!来い!」


 呼ばれたからには行くしかないか。飢えて死ぬよりはましか。


「はい。何でしょう旦那様。」


「お前は村の決定で水神様の嫁に選ばれた。これはとても名誉な事だ俺に感謝しろ。」


 一之助様を見ると泣いていた。ああ、男なのに情けない。


「ありがとうございます。喜んでそのお役目をお受けいたします。」


 そして私が死ぬ日が来た。この日は白装束だが綺麗な着物や飾りをつけて貰い体も綺麗にされた。

 もし、あの世というのがあるのならこの村人達に復讐してやる。まあ、一之助様は別だけど。

 そろそろ何か毒でも飲まされるのかなって思った時目の前で雷が落ちた。目を開けるととても綺麗なこの世の者とは思えない人が立っていた。神と言われたらすぐに信じてしまう程綺麗だった。


「また、無駄な生贄ですか。人を喰う神などそうそういませんよ。人間は何でもかんでも決めつけてしまう。」


 とても心地のいい少し低めの声で綺麗な神様は喋った。


「!!!!水神様だ!水神様が現れた!」


 そう言って村人達は大騒ぎした。ここには大人しかいないから一之助様はいない。


「いや、私は水神ではないですよ。って言っても聞こえないか。面倒ですね。」

 

 チラッと神様は私を見た。神様の目はとても綺麗な赤色だった。


「水神様!その娘は水神様の嫁となる者です。何卒この村に恵みの雨を降らせてください!」


 村人達は神様に言った。神様は溜息をついて。


「水神様じゃないと言ってるじゃないですか。しかし、この娘をくれるならどうにかしましょう。どうせこの娘を残してもあなた方はこの娘を殺しそうですし。」


 そう言って神様は私の頭を撫でた。とても温かい手だった。


「こ、殺すなんて滅相もない!どうぞ、この娘を好きにしてくださって構いませんので!」


 最初から殺そうとしていたくせになにを言いやがる。


「では、この娘は貰っていきますよ。」


 そう言い神様はふわりと私を抱き上げた。親に抱えられるってこんな感じなのかな…。


 村からかなり離れた山の中。神様はとある洞窟の中に入っていった。ここで私を食べるのか。さっき神様は人を喰う神はそうそういないって言ったけどこの神様は食べる神なのか。


「さてと、ここでいいですかね。貴女の名前は?」


 そう優しく聞いてきた


「さ、桜です。一之助様がつけてくれた名前です。」


「桜ですか。良い名前ですね。桜、貴女は貴女を生贄にした村人達を許せませんか?先ほどどうにかすると言いましたが貴女が許せないようでしたらなにもしません。」


 確かに村人達、特に村長は許せない。だけど一之助様は


「一之助様はいつも私を助けてくれました。その一之助様が苦しむのは嫌です。」


 そうはっきり言った。あまり表情のない神様は少し驚いたようだ。


「わかりました。では目をつぶっていてください。すぐに終わります。」


 ああ、とうとう死ぬんだ。一之助様の為なら死んでもいいや。結果的にあの村人達を助けるのは嫌だけど。


「…………ぐっ………がっ………………っ!」


 神様が苦しむような声が聞こえてすぐにボトッと何かが落ちた音がして思わず目を開けた。


「!!何で、何で自分の腕を切り落としてんだよ!私を喰うんじゃないのかよ!」


 そこには自分自身の左腕を切り落とした神様が痛みで苦しそうにしていた。足下には切り落とされた腕が転がっている。何故か干からびているけど。


「この腕を燃やせばすぐに雨が降ります。そういう代物です。それに私は人間を食べるつもりなんてないです。」


 まだ苦しそうに神様は答えた。


「だからって自分の左腕を切り落とさなくても!…………え?腕が生えてきている?」


 切り落とされた所から新しい腕がすぐに生えてきたのだ。


「貴女は雨を降らせてもいい。一之助という人間を助けたいといいました。私はそれに答えただけです。それに腕などすぐに生えますからね。」


 そう言いまた頭を撫でてくれた。


 そして次の日その腕を燃やすと本当に雨が降った。神様になぜかと聞いても神様は知らないとしか言わなかった。

 それから村に返しても居づらいだろうからと神様に着いていくことにした。それと、神様は神ではなく人間と神との中間のようなものと教えてくれた。名前を聞いても教えられないといったのでなんと呼べばいいか困っていた。


「いつまででも貴女のそばにいることはできません。なので生きるための全てを教えます。」


 それから私は師匠と呼ぶようにした。師匠は文字から計算の仕方など上流階級じゃないと教えて貰えないことや薬草やその使い方。偉い人の前の立ち振る舞いなどを教えてくれた。あと、信用して良い人の見分け方などちょっと難しい事も教えてくれた。そして、


「えい!やあ!」


「そんなに弱い力では自分の身すら守れませんよ。このときはこうです。」


 自分の身を守るために剣術も教えてくれた。体を動かすのが元々好きだからどんどん腕を上げていった。しかし、どうも好きになれないことがあった。


「………。桜これはなんですか?新しい武器ですか?」


「鍋料理です!師匠へのお礼の気持ちです!遠慮無く食べてください!」


 師匠は固まってしまった。確かに料理は苦手だけど食べられないほどじゃないと思うんだよね。


「料理ですか、これが………(ボソ)」


 なかなか師匠が食べないから無理矢理口に入れたら倒れたことのない師匠が一瞬で倒れた。そして、しばらくしてようやく起きたと思ったら。


「将来絶対に料理の出来る殿方と結婚しなさい。いいですね?」


 と真剣な顔(まあ、いつも無表情だけど)で師匠は言った。料理の出来る男の人ってそんなにいないと思うんだけど。

 そして、私が17か18になる頃


「さて、私にはやりたいことがあるのでここでお別れです。いいですね?教えた剣術は人を殺すためではなく守るためのものですよ。あと、なるべく自分で作った料理は人前にだしてはいけません。」


「わかってます!それは耳にたこができるほど聞きました!」


「それから、これからはこの人に頼ってください。古い知り合いです。」


 師匠は名前とその人がいる村の名前が書かれた紙を渡した。何か言おうと前を向くともうそこには師匠の姿は見えなかった。


 それから師匠に言われた人に会いにいった。そこは力がありそうな大きな屋敷だった。

 そこではとても優しい家族がいた。私のことも本当の家族のように接してくれた。その家には男の子がいたのでその子の教育係のようなことをした。と言っても師匠に教えられた事しかやっていない。たまに盗賊などが人々を困らせていたので退治をした。そんな活躍が伝わったのか武家の屋敷でも教育係なども頼まれるようになった。

 そして、今の旦那である治にも出会い。子宝にも恵まれとても幸せだった。旦那も強面だけど良い人だし家族を何よりも大切にしてくれた。戦に行っても大きな怪我もなくちゃんと戻ってきた。師匠からは手紙もなにもなかったけど、別れる時に貰った紙に小さく「桜が幸せになれることを心から願っている」と書かれていてお守りにしていた。だって師匠は私にとっては神様だったから。

 何年かして旦那は先に逝ってしまった。でも、その時代では長生きなほうだと思う。そして、私もひ孫の顔を見て生涯に幕を閉じた。

 お迎えがきたとき師匠も旦那もいた。とても嬉しくて大泣きした。

 

「貴女は沢山の人助けをしたのでその功績を称えてここでは自由にしていいですよ。」


 そして、旦那がずっとやりたいと言っていた甘味処を地獄で開いた。



『へー。桜さんと雷人さんの関係ってそんな感じだったんですね。それにしても村人達酷いですね!』


 みのりはバイトの休憩時間に雷人と桜の関係について聞いていた。


「まあ、今も許してないんだけどねー。」


『腕がすぐに生えるって不思議ですよね。あ!そういえば一之助様?には会えたんですか?お別れが悲しすぎます。』


「ああ、それね。それなんだけど……」


 桜さんが言おうとしたとき


「おーい、桜。ちょっと手伝ってくれるか?」


 旦那さんの治さんが桜さんを呼んだ。もう!いいところなのに!


「はーい。一之助は小さい頃の名前で今の名前は治っていうの。」


 そう私に耳打ちした。


『え!と言うことは一之助様が今の旦那様!?』


 私がビックリして聞くと桜さんは「そうよ」とでも言うようにウィンクして行ってしまった。

 桜さんは最初の口調は少し乱暴ですが、雷人さんの存在で徐々に言葉使いが丁寧になり今の形までなりました。ちなみに村人達は宗教的な理由で殺生をすると落ちる地獄で苦しんでいます。

 また、過去の話で桜さんの両親は怪異で亡くなっているとあります。両親が身代わりとなり怪異から逃げ延びた幼い桜さんが村人達の勘違いで捨て子とされてたんです。

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