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第135話 加勢

前回のあらすじ:魔剣(影)が襲ってきた

「やった……のか?」


 路地に散らばる、魔剣の破片。

 完全に力を失い、沈黙している。

 さすがに粉々になってまで、襲いかかってくることはないらしい。


 だが、ほっとしたのもつかの間だった。


『オオオオオオォォ……』『ココ……ドコ……』『アアアアアアァァ……』『斬ル……斬リタイ……』『ニク……ニエ……』『アアアァァァッ!!』『死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ』


 地の底から響いてくるような呪詛とともに、教会の大扉からぞろぞろと出てくる『影』たちの姿が見える。


 数は……クソ。

 いちいち数えるのがバカらしいほどだ。


「……パレルモ、まだ行けるか?」


「もー、お腹へったよー……」


 パレルモは完全にお疲れモードだな。

 まあ、それは俺もだが。


 だが、愚痴をこぼしていてもどうしようもない。

 やるしかない。


「いいかパレルモ。連中の本体は武器だ。攻撃は俺が引きつけるから、その隙に片っ端から武器を破壊しろ」


「……う、うん!」


 時間を停めて打撃を重ねれば、あるいは刃にヒビ位は入れられるかも知れないが、『魔剣』の類いは総じてただの刀剣よりもずっと強靱だ。

 もちろん試してはみるつもりだが、難しいだろう。


 だから今は、なんでも切断可能なパレルモの空間断裂魔術が頼りだ。


 短剣を強く握りしめる。

 多少の負傷は想定内だ。


「じゃあ、いくぞ!」


 覚悟を決め、『影』の群れに突っ込もうとした――そのとき。




「ライノ殿! 伏せろッ!」




 突然、背後から鋭い女の声が聞こえた。

 聞き慣れた、声だ。


「……っ!!」


 違和感なく身体が反応する。

 考える前に、俺は低く身を伏せた。


「――焼き尽くせ、《火焔刃》ッ!」


 次の瞬間。


 ゴウ、と灼熱の風が頭上を通り過ぎ――

 俺に襲いかかろうとしていた『影』が、まとめて数体が消し飛んだ。


 カラン、と武器だけが地面に落ちる。


「ちょっとねえさま!? にいさまに当たったらどうするの!?」


 さらに、後ろで焦ったような怒ったような声が聞こえ、トタトタと軽い足音がこちらに近づいてくる。


「にいさまっ! 大丈夫かしらっ!?」


 振り向くと、金髪のふわふわ頭――アイラがそこにいた。

 その奥には、涼しい顔で剣を構え直すイリナの姿もある。


「アイラちゃん!」


 パレルモが嬉しそうな声を上げる。


「……よう。ナイスフォローだ。助かったぞ」


 二人がここにいるということは、魔物湧きは収まったということか。


「ああ。向こうは何とか片付いた。それでライノ殿の加勢に向かおうとしたら、巨大な光の柱が見えたのでな。急いで走ってきたのだ」


「ねえさまったら、いきなり建物の屋根に飛び上がるんだから! 私は治癒術師(ヒーラー)なのに……」


 アイラが不満げな顔でブツブツねえさまの文句を言っている。 

 だが彼女が一緒にいるということは、それはつまり半魔化してイリナの後に付いてきたということだ。

 ……ありがたいことである。


「ともあれ、だ。この影のような魔物を倒さねば、おちおち話もできん。……ライノ殿、あの魔物の弱点はどこだ? 倒したと思ったのに、アンデッドのように復活してしまったぞ」


 言って、イリナが鋭い視線を『影』の群れに向けた。

 先ほど倒したと思った数体は、すでに『影』の身体を取り戻している。


 ……なるほど、言い得て妙だな。

 たしかにアレらはアンデッドと言っていいかも知れん。

 人の魂が宿っていることを考えれば、種類的には怨霊(レイス)が近いだろう。


 もしかしたら、『死霊浄化(ターンアンデッド)』のような神聖魔術が有効かも知れない。


 まあ、俺は寺院の神官ではないので神聖魔術を使えないから、たとえ効いたとしても意味がないのだが。


 やはり『影』を倒すには、武器そのものを破壊する必要があるだろう。


「アイツらの本体は、手に持った『魔剣』だ。武器を破壊しなければ、倒せない」


「……ほう? まさかあれらは全て『魔剣』なのか」


「ああ、そうだ」


 『魔剣』と聞いて、イリナの目がキラリと光った。


「それは興味深いな。……なあライノ殿、一本くらい生け捕りにしても構わないだろうか?」


 そんなこと俺に聞かれても困るんだが。


「ねえさま……」


 ほらほらねえさま、アイラもげんなりした顔になっているぞ。


「先に言っておくが、破壊せずに倒すのは無理だと思うぞ」


「やってみなければ分からんだろう! 要は戦闘能力を奪い、動きを封じればいいのだ。いくぞ、――《雷刃》!」


 イリナが喜々とした表情で、『影』の群れに突撃していった。


 ……これだから剣士は。




 ◇




「クソッ! なぜっ……! どうしてっ……!」


 無数に散らばる魔剣の残骸の中、膝をついたイリナが慟哭する。

 すでに動くものは俺たち以外存在しない。


 よりどりみどりな魔剣を独り占めしようと、イリナが教会から出てくる『影』全てを相手にしていたら、いつの間にか殲滅してしまっていたからだ。


 それはもう鬼神のごとき戦いぶりだった。

 というか、まさか『影』の群れを一人で倒しきるとは思っていなかった。


 途中から面倒になったので数えていないが、百本は倒したんじゃなかろうか。

 おかげで、パレルモと俺はまったく出番がなかった。


 しかし、イリナはまだ身体が完治していないはずだというのに、とんでもない戦闘力だった。さすがは元勇者パーティーの魔法剣士である。


 まあ、その力の源泉が不純な動機だったらしいのは置いておくが。

 いや、不純な動機だったからこその奮闘ぶりだったのかも知れない。


 ……それはさておき。


「だから言っただろ。魔剣が本体だから、制圧するには破壊しなけりゃならないって」


「ああ、それは戦いの中、気付いたさ……! 分かっているとも! だが、だが……この世に神はいないのか……っ!」


 『魔剣を破壊せずに捕獲すること』を(つかさど)る神なんていてたまるか。


 つーかそれ生み出したの、魔王だからな?

 あとさっき倒した魔剣、全部人間の魂入りだからな?


 倒すのはまあ……敵対した以上仕方ないことだ。

 だがそれ以前に、人間の魂入りだということを知っている俺からすれば、とても所有したいとは思えない。


 まあ、言わぬが花……というやつだろう。


「はあ。まったくねえさまは仕方ないわね……」


 アイラが腰に手を当てながら、俺に同意を求めるようにこちらを見てくる。

 俺はどう反応していいのか分からず、とりあえずスルーすることにした。


「……とりあえず、俺たちは屋敷に戻ることにする。腹ごしらえも必要だからな。アイラとイリナはどうする?」


「そうね……」


 いまだ立ち直れていない(イリナ)をちらりと横目で見つつ、アイラが「んー……」と思案顔になる。


「状況も状況だし、しばらく一緒に行動した方がいい気がするわ。私たちもご相伴にあずかっても、いいかしら?」

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