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第122話 類友パーティー

前回のあらすじ:ロッシュがいろいろとぶちまけた

「ひとまず、冒険者ギルドに移動しよう」


 言って、皆の顔を見回す。

 特に異存はないようだった。


「もうダメだ……『枠』が……私も……お終いだ……」


 ロッシュは虚ろな目でブツブツつぶやき続けているものの、大半が意味のないうわごとだ。気にしていても仕方ないので放っておく。


「わ、私もついて行っていいですか?」


「当然だ。ここは危険だからな」


 もちろん頼まれなくても連れていくつもりだ。

 こんな場所に放っておく選択肢など、あるわけがない。


「そ、そうですか。よかった……それでは、よろしくお願いいたします」


 ペトラさんがほっと息を吐き、頭を下げた。


 念のため建物内部に生存者が残っていないか確かめてから、外に出る。

 確かにペトラさんの言った通り、誰も残っていなかった。


「だんだん魔素の臭いが濃くなってきたわ」


 外に出るとすぐ、アイラがくんくんと鼻をひくつかせた。


 しかしアイラはだんだんと動物じみた仕草が板についてきたな。

 もともと小動物っぽいところがあるが、雰囲気だけじゃなく実際に近づいてきているのかもしれない。まあ、近づくとしたらワイバーンだろうが。


「確かに私にも肌がヒリつくような感覚があるな。先ほど倒した赤小鬼(レッド・キャップ)の死骸も消えている。……この現象は、確かにダンジョン特有のものだ」


 イリナも自分の二の腕をさすりつつ、鋭い目つきで周囲を見回す。


「うう、なんだか背筋がゾクゾクします……」


「今のところ周囲に魔物の気配はない。安心しろ」


 ペトラさんを不安にさせないよう、あえて口にする。


 気配探知スキルに感はない。

 だがアイラやイリナと同様に、体に張り付くようなピリピリとした奇妙な感覚を感じ取ることはできた。


 これがロッシュの言う、ヴィルヘルミーナの『魔術』とやらだろうか。

 今のところ、誰も具合が悪くなったりといったことはなさそうだが……注意は必要だろう。


 ともあれ、冒険者ギルドは、ここからそれほど離れた場所ではない。

 魔物を警戒しつつ移動しても、十分もかからないだろう。


 俺たちは無言で顔を見合わせると、移動を開始した。




 ◇




「おい、誰かいないのか?」


 冒険者ギルドの扉は固く閉ざされていた。

 ガンガンと叩きノブを捻ってみるが動かない。

 施錠されているようだ。


「にいさま、こっちも無人なのかしら?」


 アイラが心配そうな顔でこちらを見てきた。


「どうだかな。魔物を狩りに外に出ているだけかもしれん」


 ここに来るまでの間、冒険者を目にすることはなかったが、二度ほど魔物と戦闘になった。

 小物ばかりではあったが、それでも街中をうろつきまわっていい存在ではない。

 (ヘズヴィン)が異常事態の真っただ中にあることはもはや疑いようがなかった。


「我々も人のことを言えた義理ではないが、それにしても冒険者は血の気の多い連中ばかりだからな。ギルド長殿など、こういうときこそ生き生きするだろう」


 イリナはおおむね俺と同意見のようだ。


 確かアーロンは若かりし頃は凄腕のA級冒険者だったらしい。

 しかも相当な荒くれ者だったらしく、喧嘩三昧の日々を送りつつ各地のダンジョンを荒らし回っていたとのことだ。


 ……『彷徨える黒猫亭』に来たときはしょっちゅう武勇伝を聞かされたので、ずいぶんと辟易した覚えがある。


 まあそんなアーロン直々出張るのかどうかはさておいて、どうしたものか。


「フン。どうせ皆死ぬのです」


 背後で力なく吐き捨てているのはロッシュだ。

 気にしていても仕方ないので、放っておく。


「面倒だな。私が斬り破ろうか?」


「まってねえさま。せっかくだし、私が半魔化してこじ開けるわ」


 この脳筋姉妹は……!


「もし中に誰かいたら討伐されかねないから、やめておけ。イリナも、扉付近に人がいたらどうする」


 俺はため息をつきつつ、二人を制止する。


 イリナはまあ剣に魔術を付与できるだけの脳筋戦士だから、だいたい想定の範囲内の言動だが、アイラはこんな性格だったか? こんな性格だった気がする。

 まあ、治癒術師(ヒーラー)はいろいろと気が強くないと務まらないからな。


 というか、今さらだが、俺以外勇者パーティーの面々は全員こんな(脳筋)だったのを思い出した。


 ……まったく、やれやれである。

 

「ハア……。お前ら、いったいなんのために盗賊職(シーフ)がいると思ってるんだ。こういうときこそ俺の出番だろ。ダンジョン内ならいざ知らず、たかが街中の建物だぞ? スキルで解錠なんぞお手の物だ……どうした? ペトラさん。俺の顔に何か付いているのか?」


「…………いえ」


 なんだか俺たちを見るペトラさんの目がいつにもましてクーーールな感じになっている気がするが、きっと気のせいだろう。

 もともとペトラさんは黙っていればクールビューティーなレディだからな。


 ……それはさておき。


「よし、開けるぞ。――《解じょ……」


 ――ガチャリ


「ああん? 誰だ……ってお前らかよ」


 スキルを発動しようとした途端、扉が開いた。

 わずかに開いた隙間からは、胡乱な目をしたアーロンが覗いている。

 奥には、武器を構えたまま固まっている職員たちの姿が見えた。


「なんだ、いたなら返事くらいしろよ」


「魔物が外をうろついているんだ。そう簡単に開けられるか。……もとかく無事でよかった。まあ、入れ」


 アーロンがため息を吐きつつ、中に迎え入れてくれた。


「ライノさん、イリナさんにアイラさん! ご無事で何よりです」


 職員たちが続々と近寄ってきて、ねぎらいの言葉をかけてくる。

 どうやらギルドの連中はほとんど全員いるようだ。


 カウンター奥のバックヤードからも、顔だけ出してこちらの様子を伺っている職員たちも見える。一様にほっとした表情を浮かべている。


 まあギルド職員は事務員含め、一定のランク持ちばかりだからな。

 ロッシュの言う人間の強さ弱さの基準はよく分らないが、それで無事だったのだろう。


「ほかの冒険者たちは?」


 ギルド内部にいるのは、俺たちを除けばギルド職員だけだ。


「低ランクの連中は行方が分からん。ご近所様も姿が見えなくなっちまった。寺院の連中は知らんが、衛兵連中もだ。高ランクで依頼を片付け報告に来た連中や依頼を受けにきた奴らには、こちらから緊急依頼ということで魔物の掃討に出てもらっている。出現ポイントが少し離れた場所だから、ここらにはいないがな」


 アーロン簡潔に状況をまとめ、顎でその方角を指し示す。

 商工ギルドとは反対の方向だった。

 どうやらそれで、今まで他の連中と出くわさなかったらしい。


「で、だ。あー、そこの捕縛済みの御仁は……ああ、あんたがロッシュか。あんたも災難だったな」


「……フン」


 商人のプライドなのか、ロッシュは鼻を鳴らすとそっぽを向いた。

 だがアーロンはさして気にした様子もなく、話を続ける。


「……ということは、商工ギルドはダメだったということか」


「魔物に中を荒らされた形跡はなかったが、誰もいなかった。というわけで、留置部屋を借りたい。それと、ペトラさんも保護してもらえるか?」


「もちろん構わん。依頼は達成扱いにしておく。ペトラさんは大事な行きつけの店主様だ。俺たちが責任をもって保護すると約束しよう」


「……話が早くて助かる。依頼の報告は必要か?」


「今は緊急事態だ。後回しで構わん。それよりも、お前らも魔物の掃討に向かって欲しい。それと、逃げ遅れた人がいれば救出も頼む。これは正式な依頼だ」


「分かった、引き受けよう」


「了解よ!」


「承知した」


 三者三葉に同意する。


「じゃあ、さっそく頼む。お前らならばそうそう危ないことにならんだろうが、無茶はするなよ」


「ああ、わかってるさ」


「じゃあ、行ってくるわね!」


「アーロンギルド長殿、それに職員の皆もご無事で」


 最低限の依頼内容や報酬を確認し、俺たちは冒険者ギルドを出た。

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