女子の可愛いの感覚は男子には分かりづらい事が多い
パロディも多く含んでいる可能性あり。また、意味不明な設定状況となっていますので予めご了承ください。
ここは俺らが通う花笠高等学校だ。入学してからかれこれ四ヵ月経ち、新しい学校、クラスにも徐々に慣れ始めていたころだった。
そこまで学力偏差値の高い高校という事もなく、通いやすさや学校環境の良さも申し分なかった。それもあってか、俺も通っていた清河中学の生徒達は目と鼻の先のここを受験した者も多い。そのため見知った顔の連中も少なくない。
まぁ、その結果が昨日の学校のマドンナの咲夜争奪決闘に早々と発展するほど賑やかな学校生活になっているのかもしれない。
特にこの学校についても特筆すべき特徴はない。他の学校と比べて変わってると言える事が何一つとしてない平々凡々の学校。
なのだが・・・。
「よし、時間になったから三時限目の社会は終わりだ。確り今日やったとこを復習するようにな。では、日直。号令を」
「はいっ!」
教師の言葉に反応してうちのクラスの日直当番の女子生徒が景気よく返事をして立ち上がる。
「起立!気を付け!礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
「着席!」
日直の号令でクラス中の生徒が一斉に立ち上がり、礼の句を上げ同じように席に着く。
それを見届けた社会科の男性教師は静かに教室を後にする。
「んっ・・・!っはあああ!疲れたぁ」
「ああ、お疲れ夕凪さん」
「んーありがとねーしゅー君」
しゅー君、それは夕凪だけが呼ぶ俺の愛称みたいなものだ。主人、公なんて名前だから呼びづらいのもあるんだろうけど、それでも俺の名前をからかわないで呼んでくれる人はもしかするとこの人だけなんじゃないかと思う。
「よう主人公。取り合えず一回死んでみないか?大丈夫、ボール七つ揃えて生き返してやるからさぁ」
「生き返す気ないよね!?そもそもそんな何でも願いが叶うボールはフィクションだろ!!」
何かこう、偶にクラスの連中の命の重みについての倫理観が著しく軽んじられる時があるような気がするんだが。人は一度死んだら二度と生き返れないんだよ、だから今を大切に生きさせてくださいお願いします。
「それでさぁ咲夜さん。こんなつまらない主人公ほっておいてさ、俺とお茶しない?」
「お断りよ。次に四時限目が控えてるじゃない。お昼休みはその後よ、おバカさん?」
ぴしゃりと言い放つその凛とした姿は、学年を超えてほぼ全ての男子生徒が憧れる高嶺の花という言葉に相応しい立ち居振る舞いだ。
しかし実際は。
「じゃ、じゃあお昼一緒に食べようよ!俺と居る方が楽しいぜ?」
「あなたみたいな豚マントヒヒと居るくらいなら女装してもいないのに女の子みたいな男の娘と居る方が一垓倍以上楽しいわよ」
かなりきつい言い方するな、このお方は。
「そ、そんなに嫌ですか咲夜さん!?俺何か悪い事しました!?」
「存在が既に天災レベルなのよ。自重なさい、袴田露豆辺留斗君」
かつて存在自体をここまで否定された人物が果たしていただろうか、嫌いない(反語)
「そろそろ次の授業よ?席につきなさい、袴田、ロンダルキア君?」
いやさっきと名前変わってんじゃん!覚えづらい名前だけど!
ガラッ!
「ちょっ、ごめん!咲夜いる?」
不意に教室のドアが乱暴に開かれ、開くと同時に一人の女生徒が息を切らしながら教室を見回していた。
「ここよ?みぃちゃん。どうかしたの?もうそろそろ次の授業が始まるのに・・・」
今教室に乱入して来て夕凪さんを見つけるや否や猪の様に彼女の元に走ってきたのは小柳美々子だ。身長はかなり低く、全体的にちんまりとした見た目が小動物を彷彿とさせる。それもあってか夕凪さんからはみぃちゃんという愛称で慕われている。天然パーマなのか、肩までかからない栗色の髪の毛は所々クルクルとカールしている。
「ごめんね!ちょっと忘れ物しちゃって、次の体育でどうしても必要なものなんだけど・・・」
両手を合わせながら拝む様に夕凪さんに説明する。
「体育で必要なものね・・・。ブラジャー以外なら何でも貸してあげるから、言って?」
このセリフを何かおかしいと思うのは俺だけじゃないと信じている。
「実はね、主人公を家に忘れてきちゃって!貸してくれる?」
「待て!主人公を家に忘れてくるってどういう状況!?何?主人公ってそんなに大量生産されてんの!?」
「そうだったのね。確かに主人公は忘れてきやすいものね。私の貸してあげるから、次の体育怪我しないようにね?」
忘れてきやすい物なのか!?おかしくね?絶対おかしい!てかそもそもこのままだと俺別のクラスの授業に貸し出されるじゃん!
「あ、それと。前に借りてた体操着の下、いつ返したらいい?」
「体育終わった後私の貸した主人公に添えて合わせて返してくれたら問題ないわ」
俺にとっては問題しかないんだが!?というか普段しゅー君とかって慕ってくれてるから夕凪さんだけはそんな事しないと信じてたのに!裏切者!
「じゃあ、またお昼の時ねー!」
結局俺は小柳さんにレンタルされてしまいましたとさ・・・。
「よーし、それじゃあ四時限目の科学基礎始めるぞ。あれ?主人はどうした?そうたいか?」
「先生!主人公は只今一年C組の小柳美々子さんに貸出しています!」
「そうか、なら仕方ないな。ちょっと今日は科学の実験をしようと思ってたんだが、仕方ないあいつなしでやろう・・・」
「・・・」
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結局俺は一年C組の剣道の授業の竹刀役として小柳さんに(物理的に)振り回されていました。
「夕凪、一緒にお昼をしてもいいだろうか?」
この野太い声の主は、昨日人の事を量産して颯に決闘を申し込んでいた影坂だ。
「え、えぇ、いいけど・・・」
露骨に嫌そうな顔をしているけど、断らないだけさっきの奴よりはましだろう。
「そういえば颯ちゃんはどこ?一緒じゃないの?」
きょろきょろと颯を探す夕凪さん。もしかして影坂の事は颯の添え物くらいにしか思ってないんだろうか?
「あ!いたいた!颯ちゃーん!こっちこっち!」
「ギクッ、さ、咲夜ちゃん・・・。どうしたの?」
今ギクッて言ったぞあいつ。リアルにそれ言うやつ初めて見たわ。
「お昼一緒に食べましょう?」
「あ、はい」
なぜだろう、何かを諦めた様な表情に見える。
「ん?あー!ここに主人公置いてあったんだ」
既に俺は人としての扱いを受けていない。泣けるぜ。
「そういえばさ咲夜ちゃん。男嫌いって割にはいつもそいつ近くに置いてるよね?何か理由でもあるの?」
それは俺も気になっていたことだ。俺は颯と違って女顔でもなければイケメンでもない。
もっともイケメンだったとしても夕凪さんに好かれる可能性は万に一つもない。ユリ属性だから。
そんな颯の疑問に対して夕凪は颯を自分の隣に座らせて、鮮やかな手並みで颯に猫耳を付けながら答える。
「しゅー君がいると何かと便利なのよ。お掃除にも使えるし。小物入れにもなって万能よ?」
そんな機能を搭載させた記憶は微塵もない。そしてそんな不可解な機能を兼ね備えた人間は存在しないはずだ。執事かなんかだとしても言い方が完全に物扱いだよね。
「なんだ、それだけの理由か。割と普通だったな。てっきり俺は夕凪は主人公の事が好きなのかと思ってしまったぞ」
ぜってぇ普通じゃねぇよ!?
「ま、それはさておきさぁ・・・」
颯が苦虫を噛み潰したような顔で俺を見てくる。
「君はいつまでブルマを被っているつもりだい?」
酷い誤解だ。
「これはね。私が普段穿いている体操着で、しかも最近みぃちゃんが穿いた事があるからその匂いを堪能しているのよ♪」
「「ふぁっ!?」」
「まて違う誤解だ!!!!!!」
これは夕凪さんが小柳さんに俺を返す時に俺に体操着を添えておいてという言葉をどういう理解を示したのか俺に体操着を被せて返したからで・・・ッ!
しかも取りたくても両手を後ろで拘束されてるし!!
「ラッキースケベならいざ知らず、これは間違いなく変態行為だぞ」
主人公への扱いがひどい件について。というかいい加減拘束を解いてほしい。
「ふふっ♪本当に飽きないわ」
クスクスと笑いながら夕凪さんはやっと俺の手枷を外してくれた。
や、やっと自由に腕が動くよ。感動だ。
さて、まずは一番の問題であるこの体操着を取り外して・・・。
「あ、ちょっ!勝手に触らないでよ!」
「ふぁっ!?」
被せられている状況はありなのに俺がこれに触れて返す行為はダメなの!?その羞恥の感覚変じゃないかな!?めっちゃ顔紅くしてるけど。
「ちょっと主人公君、女の子が嫌がることしたらダメだよ?女の子の衣類に不用意に触れちゃダメだってば」
「このまま被ったままでいる方が余程変態的で気持ち悪いよね!?可笑しいだろ!」
「わ、わかったから!私がちゃんと取るから」
乱暴に俺の顔に覆いかぶさっていた体操着は取り払われた。
あーっ!くっそ暑かったわ!何なんだ一体・・・。何の嫌がらせなんだ。
睨むように夕凪さんの方へ眼をやるといそいそと体操着を袋にしまっていた。
「・・・しゅー君のあほ」
何故俺が罵られるのかについてはもはや問いただしても無意味だろう。諦める。
「ん?そう言えば夕凪よ、なぜ主人公の事をしゅー君などという愛称で呼ぶのだ?」
あ、それも俺が気になっていた事だ。どうにもこうにも俺が聞いたんじゃ全部スルーされるからな。場合によってはいじめにも見えなくもないぞこれ。
「あぅぁ!?」
おっと?何やら意表を突かれたみたいに変な声が出たぞ。何かあるんだろうな・・・。
「あ、えっとーーそれはーーー。ほ、ほら!これが主人公だったら私がヒロインになっちゃうでしょ?だからそれが嫌だからそう呼ばない様にしてるのよ。ほら私って基本女の子が好きだから!」
やけに早口で、言い訳っぽく聞こえるが・・・気のせいか。
「へーなるほどねぇ。そりゃ納得だ」
俺としてはもうその理論についていけないんだけど。帰ってもいい?
「あ、う、うぅぅぅ!しゅ、しゅー君箸!」
「うえぇ?」
箸を取ってほしいってことか?全く、これじゃあ本当に俺ただのこいつの従者だな。
心の中で愚痴りながら夕凪さんの目の前にある箸を一度手に取ってから渡そうと目の前に差し出す。
「へっ?な、なにこれ・・・」
「は?箸だけど?」
何その反応怖い。箸って言ったよねこの子。
「だ、誰が箸を取ってなんて言ったのよ!私がしゅー君箸!って言ったら普通わかるでしょ!?」
普通の概念について勉強し直してくるのでもう帰ります(折れた)
「さ、流石は主人公だね。まさか素で鈍感スキルが備わっているなんて・・・」
鈍感ってなんだっけ。少なくともこの異常な場面でどう空気を読んだら鈍感にならないんだよ。
「女子に恥を掻かせるなど、男としても最低だぞ」
何でそこまで貶められなきゃいけないんだ。しかも影坂に関しては男として“も”っつったぞ?主人公としてもダメって言いたいのかな~?
「わ、分からないの?」
「当たり前だ」
「そこ、カッコつけて言う事じゃないわよ」
はぁっ、と夕凪さんは大きなため息を零した後。
「あ、あーん・・・」
顔を赤くしながら小さく口を開いて俺に向けてきた。
・・・何故そうなるし!
「・・・」
まるでひな鳥の様にご飯を待ちわびて口を開いている。
つまり、なんだ。俺が箸の代わりになれと。そう言う事なんだな?
メンドクセー。
「ほいよ」
「あむっ・・・」
もくもくと俺が夕凪さんの口に運んだご飯を咀嚼している。
その姿に周りの男子は釘付けになり、同時に俺に釘を投げつけてく・・・。
「って、やめろぉぉ!?なんで釘投げつけてくんの?!危ないよね?」
「主人公死すべし、慈悲はない」
「次回、激闘に終止符!!主人公決死の攻撃!!!皆ぜってぇ見てくれよな!」
何その主人公死ぬのネタバレするような次回予告。死なないよ?!というか殺すな!!
「んくっ・・・。はぁっ、しゅー君五十点」
「はぁぁぁ!!??何がだよ!」
よくもまぁこの騒ぎの中平然と食ってたなと言いたいがそれ以上にその微妙過ぎる点数は何!?
「私は、しゅー君を箸にしたかったの。わかる?」
「いえ全く」
分かってたまるか。
「しゅー君は本当のあほだった・・・」
絶望に満ちた顔をしたいのは俺の方なんだがね。
「箸としての点数五十点!次は頑張るように!」
ぷりぷりと怒って俺にびしりと人差し指を突き立てる。
かと思ったら。
「じゃあ、続きしてってね」
恐ろしい事にその日のお昼の時間はずっと俺が夕凪さんに食べさせてあげるという不思議で、他の男子から怨嗟の目で睨まれ続ける苦痛な時間が続いた。
主人公って、何だっけ?
主人公ってこう、なんかチートだったり、周りに強い影響を与える者だったりと大変そうですよね。
バトル物では必ず遅れて登場する主人公。ラブコメ物で驚くほど鈍感なうえにありえないラッキースケベを発生させる主人公。次々と仲間が倒れていく中何故か生き残っていけるパニック物の主人公。
主人公とは奥が深いですな(白目)