決闘と聞くと何故か片方は遅れてくる法則と武器は相手から借りれるシステムは古き良き仁義
おふざけ全開のなにこれ小説。読むと損すること請け合いです。お勧めいたしません。
荒涼とする草原。微かに吹きすさぶから風が靡き音をかさかさと立てる。
そんな中俺と一人の一匹狼然とした漆黒のマントを羽織り靡く布地に気もくれず佇んでいた。
既に日は落ち始めており、夕日に照らされた草原は何とも言えず哀愁を感じさせる。
ザッ・・・
静寂を壊す一つの足音が聞こえてきた。男は音のする方向を向く事はなく、ただ一つ「遅い」と溜息一つつき背後にいる何かに話しかける。
「悪いな、ちっと用事を済ませてたんでな。それに、いきなり決闘状を叩きつけられて穏やかじゃなかったんでな」
声を掛けられた男もそれに答える。ぽりぽりと頭を掻きつつも悪びれる様子はない。
こちらの男はこっちの漆黒の男とは対照的に赤っぽい袴に身を包み飄々としていた。
「男たるもの、約束は守らねば男底が知れるというものだぞ。颯」
漆黒の男が口にした颯とは、いましがた遅れて来た決闘相手の名前である。
本名は雷切颯。そんでこっちの男が闇坂はんぺん。
あれだ、大体察しが付くかもしれないが闇坂は親につけられた名前のせいでやさぐれている部分もある。
俺も変な名前という点では同情できる。
「しかし何でまたこんなご時世に決闘なんだよ。しかもこんな古風な場所で雰囲気だしやがって」
「何事もムードが大切だ。そんなんだから貴様はいつまでも童貞なのだ」
こいつも名前のせいで確か童貞だったような。
「ムードを語るならせめて」
一度言葉を切り、颯が周りを見渡して一呼吸おいてから。
「学校近くの河川敷じゃなくてもいいよな?」
周りは学校帰りの生徒達の楽しげな会話と、俺らに向けられた好奇の目を向けられていた。
正直、気が付かないふりでやり過ごしたかったのだが・・・精神的ダメージは絶大だった。
「馬鹿言うな。遠くまで行って迷ったらどうする」
つまり影坂は驚くほどの方向音痴で、ちょっと見慣れない場所へ行くと迷った挙句帰れなくなって泣き始めてしまう程豆腐メンタル。流石ははんぺんだ。
「はぁ、ま、別にいいがよ。賭けるものは何だ?」
脱線しかけた話を颯が元に戻す。
「勿論、夕凪咲夜を賭けて勝負する」
夕凪咲夜、彼女は俺達のクラスメイトであり学年トップクラスの美少女である。
百人に聞けば聞いてもいないのにロリコン教師まで興奮して『咲夜ちゃんマジ天使!単位あげるよ!』とかとち狂うレベル。
そんな彼女だが恋愛観については少し変わっており、これだけ美人ならさぞガードも硬く高飛車な性格の高根の花をイメージするかもしれない。だが実際は基本的に男に興味がなく(男の娘を除く)ユリィであると公言していたほどだ。
つまりどんなイケメンが告白しようと、どんな金持ちの坊ちゃんが告白しようと、性格が仏のような奴だろうと一蹴してしまう程なのだ。
ただ一人を除いて・・・。
「え?なんで咲夜ちゃんを賭けることになるの?俺別にあの子とお付き合いなんてしてないよ?なんでそんな」
「惚けるな!貴様があの夕凪咲夜に好意を持たれているのは誰もが知っているのだぞ!!」
そう、こいつは颯はめっちゃ可愛い顔をしているのだ。どれくらいかというと、顔のレベルでいえば咲夜を大きく上回る。しかも童顔で顔だけを見たらだれも男とは思うまい。それのせいで常に颯は変態男子から貞操の危機を回避し続ける毎日なのだ。
まぁそれもあってか咲夜は颯を痛く気に入り、ぜひ私の彼女になってほしいとか言っている。
颯は「逆!それ普通逆だから!俺は咲夜ちゃんの彼女にはなれないってば!」と半泣きで断り続けている。
「あ、あれを羨ましいと思うなんて、ペン君も変わってる」
颯が言葉を言い切る前に影坂は体を反転させあらんばかりに殺気を向ける。
「わっ!?や、やめてよ?!こわいよぉ」
何かアクシデントが起こると言動まで女の子になるのなこいつ。
「問答無用だ。さぁ、さっさと決闘を始めるぞ」
「け、決闘ったって・・・獲物は何を使うのさ?俺なーんも持ってきてないよ?」
ひらひらと両手を宙に泳がせアピールする颯。
見たところ傘の一本すら持ち合わせがないようだ。
「き、貴様!嘗めているのか!男たるものいついかなる時も決闘に応じられるよう心構えをし、己の相棒を傍に置いておくものだろう!!」
さっきからこいつの言っている『男たるもの』の基準は何だ?古くせぇよ。江戸時代か。
「これでは勝負もできん。致し方ないが、俺の獲物を貸してやろう」
「あぁ、頼むよ」
影坂はすぐさま懐にあるスペアの獲物を取り出すとそれを颯の目の間に投げ渡す。
ザクッ
そんな耳心地の良い音を立てて俺は地面に頭から突き刺さった。
「・・・ぇえ?」
状況が呑み込めず俺は呆然とする。
さっきまで俺は確かに影坂の近くにいた。その理由は分らなかったが、決闘の立会人になってほしかったんだと勝手に思い込んでいたのか?
確かさっきあいつはスペアの獲物を懐から出してた。そこまではいい、俺はそれを投げ渡すものだと思っていたのだが、気が付いたら俺は足を掴まれ投げ飛ばされ現在に至る。
なるほど、わからん。
「それを使え、俺の持っている物の中でも一二を争う程の業物だ」
使えねぇよ!?なにさも当たり前の様に会話してんのこいつ?馬鹿なの死ぬの?
「おいおい、俺にこんなものを渡すとはな。安く見られたもんだ」
ほら、颯もこう言っているよ?そもそも武器じゃないものを渡されるって何!?
「俺、こう見えても“主人公”の扱いには覚えがあるんだぜ?」
いや俺にはそんな日本語が存在した覚えがないんだが。この人達馬鹿?主人公なんだと思ってんだ!
ズシャ!
「っと、意外に軽いな。この主人公」
何軽々と俺を持ち上げてくれてんの?軽い?軽いのか?!つか足離せこら!
「言ったはずだ、一にを争う逸品だと」
そう言いつつ影坂が腰から取り出したのは。
「お前も、主人公使いか。通りで」
通りでじゃねぇよ!?何で俺が二人いるの?ドッペル?にしてもおかしいよね?何で量産されてんだよ!
「ではいざ尋常に、勝負ッ!!!」
いやお前らの行動が既に尋常から外れてんだろぉぉぉがぁぁぁぁ!!!!????
俺の名前は主人、公。この名前のせいでやたらからかわれる毎日を過ごす事になる。
って、痛い!なんか二人の俺痛み共有してんだけど!??めっさいた!
因みにこの後主人公含め三人は近くを通ったお巡りさんに事情聴取を受けることになりましたとさ。
決闘罪って、全然知らなかったよ(震え声)