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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
第二章 森に犇く者達
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七十四.アラクネさん家の事情5

前回までのあらすじ。


家の前で寝ていたところ、やってきたアラクネさんに魔物が現れたと泣きつかれて彼女達のお宅訪問をすることに。

 アラクネさん達の住居は俺達の住んでいる場所から北に半日程行った所に在った。

 地上を走る速度が車並みに早い健脚を持つ彼女達が小休止を一度挟んで半日。恐らく普通に行こうと思ったら一日以上はかかるだろう。


 家を出てしばらくすると見慣れた広葉樹林は針葉樹林へと姿を変え、程々に開いていた木々の間隔も狭まっていった。

 大きな蜘蛛の下半身を持つ彼女達アラクネからしたら針葉樹林は移動しづらいと思いきや、スイスイと木々を縫って先頭を走り抜ける青髪のアラクネさんに離される事もなく、アネモネも付いて行けたあたり、アラクネと言う種族の凄まじさを垣間見た。俺も人間なりに途中までは並走していたのだがアラクネの体力と走力の前に膝を屈した結果、指をしゃぶって眠る小アネモネちゃん二人を抱えた俺を抱えるアネモネ、なんて言う、よくわからない構図を晒した。


 ともあれ、これと言った大きな問題もなくアラクネさん達の住居に辿り付いたのだが、彼女達は中々に文明的な生活をしていた。


 木と木の間に橋渡しされた糸の上に作られたログハウス風の見事なツリーハウス。

 木々の間隔が狭い事を活かしつつ、彼女達の特性と外敵からの攻撃を防ぐ機能美を備えた家は匠のそれ。

 エルダートレントとオーク君達の多大な貢献によって築かれた俺達の城を蔑ろにするつもりはまったくないが、隠れ家チックな彼女達の住処は男の浪漫を刺激して止まない造りだった。


 感嘆と同時に、俺達が如何に原始的な生活を送っていたかをまざまざと見せつけられた気分になって少しだけ落ち込んだ。


 しかし、俺は出来る男を自称している。

 気落ちしたことなど(おくび)も見せずに何食わぬ顔をして青髪のアラクネさんに村へと招き入れられた。


「戻りましたー!」


 青髪のアラクネさんが村に入ってすぐの所で大きな声を張った。

 すると、森の奥から、木の上からするすると音もなくアラクネさん達が姿を見せ始めた。


 蜘蛛の子を散らすとはよく言うが、わらわらと胸を露出させた美人さんが集まってくると、どこを見ていたらいいのか困ってしまうのが男の(さが)。そんな本能とも煩悩とも言える甘い誘惑を振り切って、アネモネに背後からアネモネに頭をガッチリ固定されつつ、視線を頭の位置に固定した俺は紳士そのもの。アネモネの突き刺さるような視線も気になりはしない。


 集まってきた中に、うちによく日光浴しに来る人や、最初にうちを訪問してきた子達の姿も見られた。

 俺達を連れてくるのは予想外だったのだろう。少しばかり困惑の色が見て取れた。

 それは魔物が出た不安からなのか、それとも別の意味があるのかはわからない。


 試しに軽く手を振ってみると、思わず見惚れてしまいそうな綺麗な顔に喜色を浮かべて振り返してくれるところを見るに、歓迎されていないわけではないようだ。


「皆さんが困っていると聞きまして、問題解決の為にやってきました」


 そう言うと、明らかに安堵の色を浮かべる者も居れば違う光を瞳に宿す者も居た。


 アネモネから性格魔物と呼ばれている俺だが、俺を知らないアラクネさんからしたら人間であることに違いはない。チラッと聞いた程度だが、この世界の人間の世界には冒険者なる職業の人たちが居て、彼等彼女らは魔物を狩ることを生業とする狩人らしいから、そうした視点から見れば怯えがあっても仕方がない事ではある。


 だから出て行け、と言われても「はい、わかりました」等と言うつもりは毛頭なかった。

 今更見捨てる気はないので、断られたらこっそりと不安の種を刈り取りにいくつもりであったが、それは杞憂に終わった。


「お、男……本物の、男よ……っ!」


「「え?」」


 俺とアネモネの声が重なった。


「男……男……!」


「種……貰えるかな?」


「何弱気な事言ってるの? 受け身じゃダメよ。一滴残らず搾り取る気で行かないでどうするのっ」


「ひぇ……」


 どうやら俺に向けられていた訝しげな視線は人間を毛嫌いして表層に出てきてしまったものではなかったらしい。

 飢えを越して餓死寸前と言わんばかりの鋭い眼光が俺を射抜く。試しにゆらりゆらりと体を揺らしてみると、動きに合わせて彼女達の瞳が右へ左へと泳いだ。


 強い獣が出たと聞いてお邪魔させて頂いたのだが、想像していたよりもヤバそうな獣が多すぎて、少しだけ不安になってきた……。


「あの、そろそろ……」


 アネモネも危険な雰囲気を察知したのか、青髪のアラクネさんを促した。


 見たところアラクネは誰もが美人さん揃いであるため、彼女達に言い寄られたら男冥利に尽きると言うものだが、可愛い家族が隣に居る状態で鼻の下を伸ばすほど俺は愚かではないつもりだ。それに、きっとそんな事をすれば帰宅した後に待ち受ける折檻は想像を絶するものになるだろうと予想がついている。


「あ、あっ! そうですよね、ごめんなさい! じゃあ村を軽く案内させてもらいますね。それが終わったら一応、ここのまとめ役をしてもらってる子の所に事情を説明に行きたいのですが、宜しいですか?」


「あ、はい。大丈夫です」


 まずはまとめ役の人の所に挨拶に行ってからの方がいいのではないか? とも思ったが、それは縦社会のやり方だ。


 彼女が「一応」と補足した通り、まとめ役はしてもらっては居るのだろうが、今重要なのは彼女達の住処の防備であり、俺とアネモネの安全だ。

 人目を気にせず襲ってくる、なんて事はないだろうが、少しでも多くの人達に姿を見せておく事で今後動きやすい環境を作る目的もあるだろうと予想はつく。


「よかった! では、ご案内させていただきますね!」


 そうして、手をぱちんと打ち合わせて明るい声を出した青髪のアラクネさんに、俺達も続いた。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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