六.アラクネ族その4
結局魔物が小屋の周囲にいない原因は不明だった。アネモネが罠でも仕掛けているのかと思ったがそうではないと言うし、勿論俺も罠を仕掛けていない。情報等が少ない現状をとやかく議論したところで答えがわかる訳でもなし、心に留め置くと言う事で話は纏まった。
「まぁ、そういうわけで理由は不明のままだけどたまにだったら来ていいから。たまに、な? アネモネもそれならいいだろ?」
「はい、たまに! ならですよ。兄さんを誘惑したら許しませんから」
「こら、そう言うのは思ってても言わないのが淑女って奴だ。勉強になったな」
「なるほど。勉強になりました」
アネモネが立派なレディを目指しているのは日々の言動からまるわかりなので、こうしてたまに俺好みの知識を少しずつ教えている。少しばかりの罪悪感と、立派になっていくアネモネもいつかは……この人が私の彼です、とか、娘さんを僕に下さい! とか言うクソボケ色男を連れてくるようになるんだろうか。あ、涙出そう。
「に、兄さん? 何泣いてるんですか?」
「ちょっと悲しい事があってなぁ。今はそっとしておいてくれ」
「は、はぁ……わかりました」
「ぐすっ……で、お二人さんもそれでいいかね? ダメだって言われてもどうしようもないけど」
「え、えぇ。はい」
「ちょっと残念ですが」
あんまり人が増えてわいわいするのは好きじゃない。好きだったらそもそも引き篭っていないわけで。
それに自慢では無いが俺のパーソナルスペースは狭い。しかもその狭いスペースは既にアネモネが占領し尽くしているので良くて他人は四人までだ。それ以上増えたらお帰り頂くか、消えていただくかのどちらかを選べるオプションサービスが付いている。
「来たい時は糸飛ばしてよ。アネモネなら拾えるだろ?」
「もう、兄さんは勝手ばっかりっ」
「今度一緒に寝てあげるから」
「本当ですか! やりますっ!」
ふ、チョロイぜ。
今度とは未定だし、そもそもアネモネは勝手に寝床に入り込んで来る。今更な事だと思うが本人はそれに気付いていないようなのでそっとしておこう。
「うちの子もそう言ってますので、そう言う事で」
「わかりました」
「はい」
「それじゃあ何かあったら呼んで下さい」
終止穏やかに話し合いは済み、戦闘になることもなかったので一安心だ。最初はどうなることかと思ったが、アネモネもそれほど凶暴ではないので心配はしてなかった。
「許して貰えてよかったですね」
「あぁ。許すも何もなかったけどな」
「うふっこれで兄さんと私は憂うこと無い家族ですよ」
「何言ってるんだ。アネモネが生まれた時からお前は俺の家族だよ」
「っ~! もう、兄さんのバカッ!」