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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
第二章 森に犇く者達
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六十五.匠オークの家改造9

やりたかっただけとは言えない……!一ストーリーの終わりと言う事もあり、普段の二話相当の量があります。


事前情報:手摺子

話の後半に出てくる{手摺子}とは、実際に手を握る部分を{手摺り}、階段と{手摺り}を繋ぐ支えになっている部分の事を{手摺子}と言います。


事前情報:グルニエ

屋根裏部屋の事です。作中ではロフトの意味で使ってます。


事前情報:アトリウム

天井や壁面をガラス張りにして自然環境を取り込んだ造りの大きな空間。吹き抜けになった空間の事を指したりします。

京都駅や、全部じゃないかも知れませんがジャスコ……ではなくイオンモールの天井の造り想像していただけると分かり易いかも。

 家の入り口ではオーク三人とアネモネが焼き魚と木の実を齧っていた。


 俺はそれを眺めることしか出来ない。魚の焼ける香ばしい匂いに釣られて近寄ろうとしてもアネモネが鋭い眼光で威嚇してくるのだ。


 どうしてだか歩み寄りを見せたアネモネに、オーク達は鼻の下を伸ばしてデレデレしっ放しだ。ぶっ飛ばしてやる。


 いや、やめておこう。いい傾向じゃないか……。


 しかしそれにしても……、


「羨ましい……」


 美味しそうな匂いを漂わせて食事を囲んでいるのもあるが、アネモネと楽しそうに談話しているのが眩しく映る。


 気晴らしと実益も兼ねて狩りに行こうにも弓は家の中に置きっぱなしなので取りにいけないし、アネモネが拾ってくるように腹が満たせるくらい大量の木の実を自分で集められるとは思えない。

 森の食材と言うのは見た目が似ているがその(じつ)、毒がある近種だったなどは普通にあるので素人の判断は危険である。ましてや一人で森に入ってそんな真似をして動けなくなったら取り返しもつかないし間抜けな事この上ない。


 残された道は魚を捕るくらいだがネットにかかった魚はアネモネが全て水揚げしている。竿は作れても糸はアネモネに貰わないといけないので現状、俺は詰みだ。


 駄目だ……。空腹で、意識が……、


「ガフ、ガフガフウウウッ! シャアアアッ!」


「兄さん!」


「キュゥウン……。はっ……! 俺は今、何を……」


 空腹のあまり野生に還り、仲睦まじく卓を囲むオーク達を威嚇しながら無意識に川の水で腹を満していた俺はアネモネの鋭い叱責で何とか人間へと戻ってこれた。


 オーク君達は野生化した俺が怖かったのか、魚を両手に握ってオロオロとしている。


 いいぞ……そうだ、それをこっちに持って来い……。


 指をクイクイと引く俺にオーク君が腰を浮かせた瞬間、細く滑らかな腕が割って入るとオーク君を引き止めた。


 アネモネだ。


 距離が遠いので聞き取り難いが、二人は何かを喋っている。

 何の話をしているのかと四つんばいになって威嚇しながら耳を(そばだ)てた。 


「駄目ですよ」


「い、いや……しかし……」


「兄さんには反省が必要です」


「神はアネモネ殿に何をされたので……?」


「……」


「言いたくなければ言わなくてもいいのですが」


「と、兎に角! 駄目です!」


「ふむ……神は迂闊ですな。アネモネ殿をここまで怒らせる事は多くないですからな」


「っ!? 何か分かったのですか?!」


「いえいえ、なぁんにもわかりませぬ」


「なんですか! 答えなさい!」


 なんだ……? オーク君のアネモネを見る目が優しくなったぞ……?

 一体、何だと言うのだ……。


 それより、アネモネとイチャつくんじゃない……。ぶっ飛ばすだけでは物足りなくなるだろうが……。


 憎悪を滾らせている俺に向かってオーク君は魚を持ったまま手を振りだした。


「神よー、申し訳ありませぬー! 今回は神が悪い故!」


「貴様ァアアァア!」


「ヒィィ!」


 食の恨みはマントルを越えて内核に至る程深い。


 朗らかな笑顔で手を振る姿が癪に障り、呪詛を吐くとオーク君はぶるりと毛を逆立てたのが見て取れた。





 威嚇している俺を視界に入れまいと三人は揃って背中を見せて食事をし始めた。


 この際、贅沢は言わずに目の前にいる三匹の猪でもいいから食ってやろうかと目を光らせていたのだが、三人の正面に座ったアネモネに終始睨みを利かされていたので結局食にありつけず地面に大の字になって干物となりかけていた俺に影が差した。


「先程は申し訳ありませぬ……」


「いや、俺も悪かったな、何もしてないオーク君達を脅して。ところで、アネモネとは仲良くなれたか?」


「えぇ、それはもう。しかしあれほど私……オークを嫌っていたアネモネ殿をどうやって説得を?」


「んー……、心当たりがあるのは仲良くしてくれたら俺も嬉しいって言ったくらいか?」


「あぁ……得心がいきました」


 俺が嬉しいと思う事とアネモネがオークと仲良くする事にどんな繋がりがあるのだろうか……。

 オーク君は手を打って納得したみたいだが俺はあまりしっくりと来ていなかった。


 仲良くなるだけであれば悪い事でもないので良いと言えば良いのだが、それより今は……、


「なんだそのしたり顔は。ぶっ飛ばすぞ」


 目の前で満面の笑みを浮かべて一人納得した様子のオーク君が無性に腹立たしかった。


「フゴッ?! や、やめてください。神に殴られたら死んでしまいます!」


「筋肉の塊になったオーク君がそんな簡単に死ぬ訳ないだろ。で、話はそれだけか?」


「おぉ、忘れるところでした。家の改装が終わったそうです」


「早いな」


「やる事が少なかったのもありますが魔法を使えばこんなものです」


 どれ、と起き上がって視線を家に向けるとそこには禿げ上がった寂しげな切り株は無く、ふさふさにカツラを被り堂々たる姿へと大変身を遂げた味のある立派なツリーハウスが建っていた。


「なんと言う事でしょう……」


「フゴッ?」


「気にしないでくれ」


「は、はぁ。では、どうぞこちらへ」


「ありがとう」


 オーク君に連れられて改めて見る家は既に別物となっていた。


 以前は大きく跨いで入っていた玄関は、陸では歩けないルサルカの少女の為に緩やかなスロープへと一新。これで一人で屋内に入れます。 更に、スロープを囲む幅広な玄関ポーチは遊び心と実用性を備え、匠の技が光ります。


 開けっ放しになっていた玄関には、重厚な扉が取り付けられましたが相手を確認できるように小さな小窓が開いているので心配は要りません。


 スロープを伝って入る玄関は屋内と屋外に段差が無く、屋内に付けられた手摺りの手摺子は魔法、ならでは。大地から力強く芽吹いた木がそのまま手摺りを支えるように見事なレリーフを作り出しています。


 だだっ広く、物寂しさを醸していた大きなホール空間は、家の中心に柱を立てることで四等分された空間を提供。


 西側の玄関口から北側へぐるりと回ると、壁にぼっこりと開いた空間にはギッシリと葉が詰められ、濃厚な緑と微かな土の香りが匂います。


「なんだ、これ?」


「そのまま眠られるとお体が痛いと思い、僭越ながら葉を敷くよう指示させていただきました」


「うっ、ありがとう、オーク君っ!」


「なんのなんの」


 匠達からの思わぬ贈り物に、俺も大満足。


 玄関から家の中心に立った柱に遮られた東側には四方を囲まれたお風呂場。無防備となりやすいお風呂もこれで安心。

 中が空洞になった大きな木が排気口代わりに外に伸び、これで熱気が篭る心配もありません。


 南のスペースは住人の遊び場。暇つぶしに作った物を置いて良し、二人でゆっくりとした自分の時間を過ごすための安らぎの場に、匠の心遣いが優しく微笑みます。


 木、其のままの柔らかな雰囲気と味わい、温かみを奪うことなく芸術的なまでに自然と調和した改装に依頼人の俺も大満足。


「良い仕事しやがる」


「へい、力作でさぁ!」


「満足の行く仕事ができやした!」


 アネモネは顔を背けたままだが、いつの間にか後ろに付いて来ていたドルイド達は満足顔で頷いた。


 最後になったが明り取りブラインドと二階を見るべく柱に寄って上を見上げた。


「はぁぁ……」


 思わず感嘆が漏れる。


 切り株の家の中に一本の木が生えている、とでも言えばいいのだろうか。両手を回しても届かないほど大きな木は中ほどと、天井付近で放射状に枝を伸ばして壁や天井に接木のように取り付いている。


 他にも柱からは螺旋階段のように枝が伸びているがこれは恐らく俺も二階へと上る為のものだろう。アネモネが糸を張ったらお邪魔させてもらうかも知れない。それまでは危ないので行く予定はないが。


 柱の寝室スペース(北側)にはブラインド操作用の蔦が天井より伸び落ちてきており、最後の仕上げは俺の仕事だと言う事で上下に並んで伸びたストッパー代わりの枝のうち、高い位置の枝に蔦が留められていた。今は逃がしの位置にあるので窓は閉まっているが、これを引っ張り下の枝に留める事で全部の窓が開いた状態となる。


「では神よ」


「大旦那」


「頼みやす」


「行くぞ……!」


 留められていた蔦を解き、グイと引くと明るい光が屋内へと差し込んだ。


 その光は柱から伸びたグルニエの枝に反射し、間接照明の如く周囲を照らす事で木の柔らかさが強調されている。

 宛ら、家の中に居ながら森の中で木漏れ日に当てられているような温かみに晒された屋内は、その広さも相まってアトリウムの如し。


「あったけぇ……」


 光の入らない薄暗い家だったからこそ、光が差し込んだ時の感動も一入(ひとしお)と言うものだ。


 そう感じていたのは俺だけではなかったようで、振り返るとオーク君達どころかアネモネも上を見つめてぼうっとしていた。


「感動、だな」


「いやはや、素晴らしい……我輩、奇跡を体験しました」


「今までで一番の仕事をさせてもらっただけじゃなく、こんな感動を味わえるとは思っても見ませんでしたぜ……」


「感無量でございやす……」


「ふわぁぁ……」


 それぞれが思い思いの言葉を口にする。


 本当に素晴らしい物は素晴らしいとしか言えない、と良く聞くがその通りだ。


 言葉を尽くすのは悪いことではないと思う。だけど、どれ程多くの言葉で飾ろうともそれが却って素晴らしさを貶める事にもなってしまうのではないだろうか。


 だから今は、ただただ綺麗だと言葉少なく褒めるのだった。





 感動もそこそこに、余韻を楽しむ事も無くオーク君達は帰ると言い出した。と言うのも、どうやらうちの造りが大層気に入ったらしく早く帰って自分達の住処を改築したいのだとか。


 忙しないがその気持ちも分からないでもない。


 ただ、この家はエルダートレントの魔法あってこそであり、更に彼等の住んでいる地域は植生がかなり違うとのことで、あくまで光を取り入れた空間作りにしたいだけのようだ。


「では、我輩等は先を急ぎます故!」


「ああ。今回は本当に助かった、ありがとう」


「今度は是非大旦那とアネモネのアネさんもワタシらの住処にいらしてくだせぇ!」


「あっしらも知りやせんでしたがこの森は地域によって大分植物の種類が違うみたいでやす。今回は良い経験になったでござんす」


「行きたいのは山々だが……」


 俺はチラッとアネモネに視線を送ると、アネモネはにっこりと笑ってオーク君達に手を振った。


 おお……?

 前だったら絶対にこんな表情をする事はおろか、手を振るなんてしなかったと思うが……。打ち解けているな、大きな進歩だ。


「でも、家を空けるわけにはいかないので難しいですよね? 兄さん」


 どうやらそうでもなかったらしい。


 まだ声が固いのでアネモネは俺に怒っているようだが、今は無理をして話を振ってきている。そろそろ許して欲しいが、下手な刺激は破滅を招くのでここは流れに乗るしかないだろう……。


「アネモネの言う通りだな。でもまぁ、確かに家を空けれないと言うのは不便だし、何か考えてみるよ」


「それは良いですな! 楽しみにしております!」


「と、そうだ。オーク君達と連絡取りたいときはどうしたらいい? 矢でも射ればいいか?」


「兄さん……」


 アネモネは残念な奴を見る目で俺を見た。でもそれ以外にどうしろと言うのだろうか?


 今回はシャーネに射った矢がたまたまオーク君達の住んでいる場所に飛んで行ったのを見てやってきてくれたが、携帯どころか電波があるかも怪しいこの世界で連絡を取る手段がないのは不便だ。


 これが森や山から遠く離れた地ならば俺も行く気は失せてこんな事を言ったりはしないが、言ってしまえば彼等オーク君は隣人みたいなものだ。……遭難したときに助けてもらうかも知れないしな。だから連絡が取れるに越したことはない。


「ハッハッハ……流石に矢が飛んでくると思うと快眠できませんな。では、これをお持ち下さい」


 そう言うとあろう事かオーク君は鎧の股関節のつなぎ目に手を突っ込んで(まさぐ)りだした。


 鎧がガチャガチャと擦れる音とは別に、インナーか何かの衣擦れの音がもぞもぞと聞こえる……。実に、嫌な気分だ……。


「おい!」


「きゃああああ!」


「ご安心下さい。ここは小物入れになっておりまして……」


「変なところを小物入れにするんじゃないよ!」


「フゴッ?! ……あ、ありました。どうぞお受け取り下さい!」


 オーク君は股間の部分から一角の角笛を取り出すと、それを目の前に、ズイと差し出した。


 受け取るのが……凄く嫌だ……。


 何か臭って来そうで半歩たじろぐと、オーク君も半歩踏み込んでくる。嫌がらせだろうか?


「えぇ……?」


「さぁ、早くお受け取りを! これは我輩の牙から作り出した猪牙の角笛に御座います。吹けば一度、我輩やその配下の者にしか聞こえない音を遠くまで飛ばす事が出来る品物に御座います。さぁ、さぁさぁ!」


「や、やめろ! それを俺に近づけるんじゃあないッ!」


「何を! 統率して戦うことに特化した進化を遂げたオーク将軍しか作れない一品ですぞ!」


「そう言う問題じゃない! なぁ、アネモネ?!」


 助けを求めてアネモネを探すと、その姿はいつの間にか遠く離れた位置まで移動していた。


 眼前には捨てられた子犬が庇護欲を誘うが如く、目をキラッキラさせたオークが三匹。そしてその手には股間から出てきた、これまたオーク君の口から生えていたであろう牙から作られた角笛。助けは無し。


 股間と口の牙と言う嫌な組み合わせの角笛(ツーペア)は想像以上の破壊力を持っている……。


 どうする、考えろ。自分から言い出したのにオーク君の厚意を踏みにじるのか? いや、駄目だ……。だけど……。


「くっ……、最早ここまでか……」


 死中に活を求めよ。


 俺はオーク君の臭い立つ猛攻の前に膝を屈しかけたとき、地面に救いを見た。


 枝打ちで転がった枝。全脳細胞が振るえ、血が沸き立つ。


 これしかない。


 今の俺にとってそれはただの枝ではない。幾千、幾万と食事の度に使い、俺の体に染み込んだ遺伝子……いいや、魂と言っても過言ではない。


「これだ……」


 二本の手頃な枝を拾い、箸代わりとして両手に一本ずつ持つと恭しく差し出されたオーク君の手から角笛を受け取った。


 オーク君の手から離れた角笛は思っていたよりも重く、ずっしりとした重厚感がある。


 箸先から伝わる重みに、ようやく爆弾処理をするような緊張感から解放された。


「よし、確かに受け取った」


「……」


 一度地面に置き、額の汗を拭ってからオーク君を見ると彼は何とも言えない渋い顔をしていた。

オーク君達との長い話も一先ずこれで閉幕。


次話は閑話を予定しています。内容は短め。明日中に投稿できたらと思います。


以降もお楽しみ頂ければ幸いです。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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