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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
第二章 森に犇く者達
64/82

六十一.匠オークの家改造5

長く引き伸ばしてしまって申し訳ありません!

でものんびりストーリーだからいいよね(暴論)


次のストーリーからはもう少しテンポ良く進められたらと思います。


 脇腹のジクリとした痛み。血流が逆流する不快感。頬に当たる何かの感覚に起こされ、覚えている限り本日二度目の目覚めを迎えた。


 どんよりと圧し掛かる倦怠感と圧迫感は簀巻きにされて逆さ吊りになっているせいだろう。


 そして今尚、頬に当たる何かの感覚はルサルカの少女が手に持った木の枝で身動きの取れない俺を玩具にしているせいだった。


「ツン、ツン、なの」


「やめろ」


 そう言うと、ルサルカの少女はビクリと肩を震わせて枝を投げ捨てた。


 ご機嫌で鼻歌を歌いながら満面の笑みを浮かべていた顔は恐怖に歪み、額から玉の汗を流し始めている。


「楽しかったか?」


「な、なんの事だかわからないの……」


 なんとも見苦しい言い逃れである。


 ルサルカの少女の隣で体操座りしていたオーク君も呆れたように口を開いた。


「それは……些か苦しい言い訳かと……」


「オークは黙ってるの」


 オーク君はアネモネだけでなくルサルカの少女にまで辛い対応をされているらしく、大きな体を更にシュンと縮こめてしまった。


 シャーネを口説いていた時は大きく見えた背中も、今は煤けて見える。


 体が大きいだけにその姿はやけに哀愁漂う。俺くらいは優しくしてあげようと思える程に……。


「オーク君に酷い事を言うんじゃない。それより半魚人、覚えておけ。お前に隙があれば串をぶっ刺してやるからな」


「ごめんなさいなの! ちょっとした出来心なの!」


「駄目だ」


「そんなぁ……なの……」


 涙を浮かべて命乞いを始めたルサルカの少女に半分は冗談だと言うと、半分は本気なのかと顔を青ざめさせた。


 冗談も程ほどに、そろそろ開放してもらおうとアネモネの姿を探すが見当たらない。それどころかシャーネの姿もない。


 もしかして脱走したシャーネをアネモネが追っているのかと思ったが、もしそうならオーク君やルサルカの少女がこの場に居るのも不自然な話だ。


「アネモネとシャーネは?」


「二人なら家の中でお話してるの」


 どうやら二人は俺を簀巻きにして吊るすと話をすると言って連れ立って家の中に入って行ったらしい。


 オーク君達は目覚めた俺が糸を引き千切って脱走しないかのお目付け役としてアネモネに頼まれているらしく、二人して俺を監視……基、玩具にしていたようだ。


 オーク君は「我輩は加担していません」と否定していたので実行犯は一名。それも現行犯なので疑う余地もない。


 後でお仕置きが必要だな……。


 俺の考えている事を悟ったのか、この世の終わりを明日に控えたような顔をしている半魚人に二人は何の話をしているのかを聞いてみたが内容までは知らされていないようだ。


 またしてもシャーネが暴走してアネモネを傷つけないかなどの不安は残るが態々二人を残して俺を監視させている以上、邪魔をしないで欲しいと言う意思は伝わってくる。


 元を辿れば俺とシャーネの間にある(わだかま)りはアネモネを人質に取ったと言うところが大きいのでアネモネが許すと言うのであれば俺としても(やぶさ)かではない。


 ただ、個人的に付き合いを持ちたい相手であるかと聞かれれば答えはノーだ。

 俺は強いものに巻かれ、イエスを至上とする国民性を持つ国の遺伝子を正しく受け継ぐ男だが、憧れは清く正しく求められた事にノーと言える人間になる事だ。


 何にしろ話し合いによる解決はアネモネが言い出したらしいので邪魔をしたら後が怖いと言うのもあるが一人で問題解決に乗り出した成長を今は喜ぶべきなのだろう。


「アネモネは成長してるんだな……。立派すぎてお株が奪われてしまいそうだ」


「どちらかと言えばお兄ちゃんの考えが魔物寄りなせいなの。だからお姉ちゃんはそのバランスを取ろうとしているの」


「そうですな……ですが、魔物結構! 神の手綱を握るなどと我輩では恐れ多いですが、それを許されたアネモネ殿の苦労も偲ばれます。しかしやはり我等は魔物。魔物の神はそうでなくては!」


 あれ……? なんだか反応がおかしい……。

 この言われ様では俺が魔物でアネモネが人間だと言われているような……。


 まぁ、魔物だ何だと言われても俺は魔物っぽい魔物をオーガと呼ばれていた赤鬼くらいしか知らないのであまり感じ入るところはない。

 そも、アネモネや半魚人、それにオーク君も自分は魔物だと言うが皆どこか人間臭い。おかげで外見を抜きにすればあまり魔物感がしないので俺からしてみれば欲に塗れた人間の方がよっぽど魔物っぽい。


 いや、魔は人の心に潜むと言うくらいだし、むしろ人間こそが魔物なのだろうな。


 そう考えればただ毎日をのんべんだらりと森の中で生きる俺達は中性脂肪のようにぶくぶくと膨れ上がる欲求が少ないから心に魔物が住み着く隙も少ないはずだ。


「魔物でも人間でも、欲に目が眩めば誰でも魔物……か」


「お兄ちゃんの欲は?」


「平穏だな。それを脅かす者は許さない。徹底的に叩く」


「物騒なの……」


 難しい顔をしてうーんと唸る半漁人とは対照的に、オーク君は非常に良い顔をしていた。


「やはり、神は神で御座いますフゴッ」


 蹄を突き出してサムズアップしてくるオーク君の良い笑顔が無性に腹立たしい。


 それから程なく、半魚人は聞いてもいないのに自身の食欲を熱弁し、オーク君は色欲への未練を断ち切れず悶々としていると泣き言を漏らし始めた。




 しばらく二人の話を聞いていると家の中からアネモネとシャーネが出てくるのが見えた。


 アネモネは満足げな笑みを浮かべているが、それに比べてシャーネは何やら難しい顔をしている。

 どんな話し合いをしたのか気になるがアネモネの表情からしてそれなりの成果を得ることが出来たのだろう。


「兄さん、戻りました」


「おかえり」


「あ、えーっと……旦那様」


「なんだ」


「色々と、その……すまなかった!」


「……は?」


 アネモネに背中を軽く押されて前に出てきたシャーネはしおらしく腰を折った。


 一時は上手く調教したと思われたルサルカの少女の手綱を食いちぎったあのシャーネがアネモネの前では良く躾けられた子犬みたくなっているではないか……。


 目の前で起きた現象に頭が追いつかず、目を丸くしているとシャーネは今までの事をつらつらと話し始めた。


「アネモネ殿と少し話をさせてもらった。まさか旦那様にそんな趣味があったとは……」


「え?」


「見えそうで見えないところに興奮する性質(たち)とは……くっ、私とした事が! 開放的な気分に浮かれ、そんな初歩的な事も忘れて全て曝け出してしまうなど一生の不覚ッ!」


「待て、何の話を――むぐっ!」


「兄さん、しっ!」


「むぐぐ……」


 俺が反論しようとすると、流れるような動作でするりと伸びてきた糸が口を塞いだ。


 なるほど。

 こちらの口が開けばシャーネの妄言の世界に取り込まれてしまい、思うように事を運べないのを半魚人か誰かから聞き、その上で俺の口を塞いで一頻り喋らせようとしているのだろう……。


 だが……それでも……聞くに堪えない。


 見えるより見えない方に興奮するだって?

 そんな事を一体誰に聞いたんだ?


 シャーネは相変わらず妄想の世界に入り浸って俺の人格を捻じ曲げ続けている。


「むぐっ!」


「まぁ待て旦那様よ。アネモネ殿は初心(うぶ)だが、私はそれなりの年月を生きている。旦那様の性癖も理解しているつもりだ。アネモネ殿は直接的に言ってこられなかったが、旦那様が私に興味を示さなかった理由が良くわかった。いくら私が自分の体に自身があるからと言っても丸出しではさぞ苦痛だったろう……本当にすまない……ッ!」


 こいつは何に対して謝罪しているのだろうか。

 確かに俺は丸見えよりも見えそうで見えないじれったい部分に興奮するが丸出しの美しい体に興奮しなかったわけではない。


 ……いや、そんな事はどうだっていい。


 俺が言いたいのは外じゃなくて内を見ろと言う事だ。


「むぐぅ! むぐぐぐ!」


「そうだな……旦那様の怒りも尤もだ」


「神がおっしゃりたいのはそこではないような……」


「オークは黙ってるの!」


「そこのオークもどきは黙っていろ、貴様のような貴族社会に溢れ返る豚は散々見てきた。在り来たりな事しか言えぬ豚は在り来たりな残飯を漁れッ! 私が求めているのは野獣のような男だ。でもなければ私は満足できない!」


「……ブヒッ」


 オーク君……君は良いアシストをしてくれたよ。MVPをあげてもいい。


「今まで私は自分に見合う男を求めていた。しかしわかったのだ……私はまだまだ修行不足だとな。何故胸だけ隠して下半身を隠さなかったのか疑問だったが、旦那様は私にそれを気付かせる為に敢えて胸だけを隠したのだろう?」


 違います。


 それはアネモネに説明するのが難しかったからだ。邪推するんじゃない!


 本当にどんな話をしたのかとアネモネの真意を探るために視線を移すと、当の本人は地面に座り込んでうとうとと舟を漕いでいた。


 こんな下種な話を聞かれなくて良かったと思う反面、これからどうなってしまうのかと不安が押し寄せる。


「私は理想の相手を見つけたと舞い上がり、自分の要求を伝えるばかりで旦那様の要求に応えようとはしていなかった……ッ! こんな独りよがりではまだ旦那様を満足させられないことをアネモネ殿から教えていただいたのだ。すまなかった!」


「凄いの……お姉ちゃんは稀代の調教師なの……」


 半魚人よ、初めて意見があったな。俺もそう思う。


「だから私は自分を磨こうと思う。そして旦那様に見合う女となり、必ず貴方の元へ戻ってくると約束しよう。それまで……その、待っていて……くれるか?」


 頬を薄く朱に染め、内股に両手を突っ込んでモジモジと恥らうシャーネは獣ではなく、女だった。


 普通の男なら殆ど裸の美女にこんな仕草をされたら一発だろう。普通の男なら、な。


 だから俺は言おう。


「んっんぅ、むぐぐ! んむぅ!(絶対に嫌だ! 帰れ!)」


「そうか! 待っていてくれるか!」


 伝わらなかったよ……。


 もう好きにしろと半ば投げやりになりつつ俺に、シャーネは屈託のない笑みを浮かべて近づいてきた。


 邪心はないのだろうがその笑顔が……怖い。肉食獣に睨まれた草食獣とはこのような気持ちなのだろうか。


「ふふ、嬉しいぞ旦那様? なんだか、初めて旦那様と心が通じ合った気がするなっ」


 全く以って気のせいである。


 どこに通じる要素があったのだろうか?


 疑問は多々あり、殆どの事を曲解しているが今しがた語った内容がシャーネの本心だとしたらこいつは悪い奴ではないのだろう。それはよくわかった。


 俺も森で暮らし始めたばかりの頃は何者にも縛り付けられない自由に浮かれた経験があるのでシャーネの気持ちもわかるのが辛いところだ。


 それにアネモネとも和解しているようだし、俺も肩肘を張る必要もないだろう。


 とんだ災難だったと脱力すると、両頬をシャーネに掴まれた。


「迷惑かけたな。これは……礼だ……」


 彫刻じみた綺麗な顔が近づくと、微かに湿った柔らかな感触が頬に触れた。


 人はこう言うのを役得と言うのだろう。


 だけど、俺の感想は違う。


 深く知っているとは言えないが、シャーネと言う生物()はそんな殊勝な奴ではない。


「こ、これ以上先は……私が旦那様に見合う女になれた時にな! それと、既に私の心は旦那様に屈服させられているのだから、私から逃げれるとは思わないことだ!」


 そんな気はしていた。


 屈服させられそうになったのは俺達の方だと思うが、もう彼女から逃げられない事を悟るには十分だった。

次話更新は本日、夕方15時から18時を予定しております。


引き続きお楽しみ頂けたら幸いです。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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