四十話.アネモネの小さくて大きな冒険1
女性視線の描画が難しい。
文章力のなさを痛感致します。
人間の世界で『イトの森』と呼ばれているこの森は、強い冒険者にとってはお金になる場所らしく、敵は他の魔物だけじゃなく人間も足を踏み入れます。
そんな中にあって兄さんは私の太陽です。
そう言う生態だからと言ってしまえば仕様がない事ではありますが、産み置かれた私の卵をたまたまとは言っても見つけてくれて、数日の間ではあったけどいつも抱きかかえて眠ってくれていた事は体が知っています。
いつも卵の外側からじわりと染み込むように感じたその温かみを、忘れた事など片時もありません。
それなのに……それなのに……!
「兄さんの馬鹿馬鹿! おたんこなす!」
そんな悪態を吐いても頭の片隅にはいつも兄さんがチラ付いて仕方ありません。
「兄さん……ご飯、ちゃんと食べてるでしょうか……はっ! いけない。もう兄さんの事なんか知りません! ツーン」
それにしても少し眠っている間に一体何があったのでしょう? なんで兄さんはあんな女をお嫁さんなんかに……?
いえ、少し落ち着きましょう。
色々と情報の少ない兄さんですが、前にポロリと「俺は人間が嫌いだ」なんて事を言っていたような気がします。
あの人間の雌が酷い事を言うものですから思わず頭が真っ白になって飛び出してしまいましたが、よく考えればあの兄さんが人間の、それも裸でいるスケベな雌に靡くなんてありえません。
そうとわかれば一刻も早く帰ってあの雌を追い出してしまわないと兄さんが危ない!
なんとか冷静になる事が出来ましたが
「ここ、どこですか……?」
全く知らない場所に来ている事に気が付いてしまいました……
▽
イトの森は私達の家から人間の国の方へ狭く、寒くなる方と暖かくなる方へはとても長いと言う事だけは知っています。
いつもは家の周りと知っている場所だけを散策してご飯を集めていましたから、こうして知らない場所に来るのは新鮮でありながら、とっても心細く感じます。
「兄さん……」
大嫌いなんて言って飛び出したのに、思わず大好きな人を呼んでしまいます。
「寂しいよ……」
いつもなら「大丈夫」なんて言って頭に落ちてくる温かみは、今はありません。
それに一人になって気が付きましたが、温かみがあったのは兄さんの手だけではありません。
おかしすぎる怪力によって拓かれた森の一部。そこはこのイトの森で殆どないと言っても差し支えない太陽が落ちる場所。
帰りたい。あの場所へ、兄さんの所へ。
兄さんはいつだって来てくれた。でも今まで見たいに待つだけでは兄さんに相応しいとは言えません。
だから今度は、私から行かないと……!
「いつまでも甘えていちゃ、ダメ!」
両頬を叩いて精一杯勇気を振り絞ると私は来た道を探すことにしました。
▽
来た道を戻ると言ってもそれほど簡単な事ではありませんでした。
「むむむ……」
兄さんと一緒にルサルカちゃんをお家に送って行った時、兄さんは簡単そうにやってのけていましたが、実際こうしてやって見るとなると非常に大変でした。
「やっぱり、兄さんは凄いです……」
一体兄さんはどこであんな技術を身に付けたのでしょう? そんな不思議なところも兄さんの魅力ですが、出来ればいつか兄さん自身の事を兄さんの口から聞かせてもらいたいです……
って、今はそれどころではありませんでした。通ってきた足跡はぐちゃぐちゃで、どれが私の足跡でどれが他のものかわかりません。
結構歩き回った疲れからか、ふと、産まれたばかりの頃に森の外に出てみようと手を繋いで歩いた時の事を思い出してしまいました。
温かかったあの手……
「って……ダメダメ! 今はそんな事を思い出している場合ではありません!」
ぱしん! と頬を叩いて気合を入れ直すと、その音を聞いた何者かが寄ってきたのかガサリと草葉が揺れた。
「だ、誰っ! 細切れにされたくなかったら出てきなさい!」
下半身を鳴らして威嚇しながら硬質な糸を吐き出して鞭を作って臨戦態勢をとりますが、未だカサカサと草を揺らしながら姿を見せない相手。心細さと怖さが混ざり合い、バクバクと鳴る心臓は破裂寸前です。
いつも私の前に立って「大丈夫だ」と笑いかけてくれる兄さんの姿を幻視した一瞬、森がさざめきザワリと全ての草木が揺れたような気がしました。
その音にビクリと体が震え、背中を冷たい汗が滴り落ちると同時に藪をかき分けて出てきたのは腰の辺りまである大きな茸。
それは、少し間延びした声で何かを喋っていた。
「ふも……珍しいアラクネの娘ふも……」
「マニコイド……ですか?」
それは、私達アラクネと同じく数の少ないマニコイドと呼ばれる魔物でした。
私と比べれば下半身くらいまでしかない体躯。魔物としては強くない。むしろ弱い部類。しかしその攻撃方法はかなり特殊なようで、防ぐのが難しく食らってしまうと後が大変なため相手にするのは控えたほうがいいと知識が警告をしています。
その攻撃の内容まではわかりませんでしたが、基本的にこちらから攻撃しない限り襲ってこない相手のようです。
好戦的な魔物ではない事がわかり、思わず緊張の糸が切れました。
態々攻撃して危険に飛び込む必要もありません。
「ほっ……よかったぁ」
安心して気が抜け、臨戦態勢を解除しようと手に持っていた糸の鞭を下ろしたのですが、もっと注意を払うべきでした……
糸の鞭は硬質で、離れて攻撃出来るように少しだけ長く作ってありました。戦い慣れている者であればこれが攻撃とは思わないはずですが、相手は弱いマニコイド。足で突いただけでも攻撃と受け取られるほどの弱者です。
下ろした時にはらりと舞った糸鞭の一本がマニコイド頭を撫で切りにしてしまいました。
「あっ」
「ぷひいいいい!」
「えっ?」
マニコイドは叫び声を上げ、ぐにゃぐにゃと上下に伸縮を繰り返すと赤と緑の斑点が付いた傘から大量の胞子を吐き出しました。
間違いなく先程の行動が攻撃と取られ、その反撃に出ていることは戦いに詳しくない私でもわかります。
「きゃっ!」
不思議な事に吐き出された胞子は一定の場所にだけに留まり纏わり付くように停滞し、それに気が付いて直ぐに口と鼻を手で覆いましたが胞子を相手に呼吸を止めるのも限界があります。
「けほっけほっ……」
指の隙間から入り込んだ胞子を吸い込み噎せ返ると土っぽい香りとほんのり香る茸の匂いが胸いっぱいに充満し、そうなるともう手で覆うことも出来ず、空気を求めて大きく息を吸い込んではその度に大量の胞子が体内に入り込んできました。
「ごほっ、えほっ! ひ、酷い目に合いました。なんなんですか! まった……く……?」
確かに鞭が当たってしまったのは悪かったと思いますが、ここまでしなくてもいいんじゃないかと文句の一つでも言ってやろうと胞子の霧が晴れた時、既にマニコイドは姿はありませんでした。
しかし、驚いたのはマニコイドの逃げ足ではなく……
「どういう事でしょう……これは」
今まで張り付いて足を回せば軽く一周はしていた太さの木々は樹齢何百年とも思える程の大樹へと姿を変え、はらりと舞い落ちてきた木の葉はベッドのような大きさになっている。
――森が、大きくなっていました。
でも書いていて楽しいのでアネモネちゃんストーリーは土日でサクサク進む……といいなぁ……




