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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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三十九.女の事情と情事8

 ギチギチと音を立てて引かれた矢がシャーネを貫くことはなかった。


 しばらく黙って見ていると、やっぱりと言うべきかルサルカの少女の背中ががっくりと落ち、疲れた様子でこちらに振り返ると手を振った。


「お疲れ様。どうだった? やっぱり疲れたか?」


「疲れたの……」


 しかし俺の中で腹黒認定を受けているルサルカはの少女はシャーネの説得に成功したのか、当初に比べてとても静かにしていた。


「なぁ、こいつをどうやって手懐けた? 魔法とか?」


 この世界には魔法と言う奴が存在しているとはアネモネから聞いていたが、もしかしたら魔法を使ったのかも知れない。

 

 俺も魔法が使えたらこんな事にはならなかったのではないだろうか?


 そんな事を考えていると、ルサルカの少女はそうじゃないと首を横に振った。


「違うの。お話しただけなの……」


「よく会話が成立したな」


「苦労したの……」


「旦那様……」


 ルサルカの少女を労っていると、待てを喰らった犬の如く縋る様な声でシャーネが俺を呼んだ。


 しかし、それに反応したのは俺ではなくルサルカの少女。


 銀の髪を翻し、シャーネの方を向くとシャーネはバツが悪そうに黙り込んだ。


 なんて事だ……しっかりと躾けられた犬じゃないか!


 あれ程の狂犬がここまで……うっ……


「本当に凄い。よくやった!」


 苦労したのに実らなかった悔しさよりも、今はシャーネが大人しくなった事の方が嬉しい。

 これでアネモネの誤解も解ける!


 思わずルサルカの少女の頭を抱きこんで撫で回していた。


「は、恥ずかしいの! ダメなのっ」


「ダメなものか! ありがとう、ありがとうっ!」


「お、お兄さんっ」


「ん?」


「このお姉さん、人間の世界では結構偉い人なの?」


「本人から聞いたのか?」


「い、一応?」


「ふぅん? 俺も詳しくは知らないけど、そうらしいな」


 何のためにそんな事を聞いたのかはわからないが、間違いではないので否定する理由もない。


「じゃあ、このお姉さん本人にお姉ちゃんの誤解を解いてもらうの!」


 確かにそれはいい案かも知れない。


 アネモネは俺が今何を言っても信用出来ないだろう。いや、それを言ったらシャーネの言葉もか……?

 それでもシャーネの意図が読めない俺よりも名ブリーダーであるルサルカの少女監修の元、しっかりと手綱を握ってもらって釈明してもらった方が可能性はある……だが。


「ダメだ」


「えっ!」


「ど、どうしてだ!」


 どうしてだ、だと……?


「忘れてないだろうな? お前はアネモネを、俺の可愛い娘を人質に取ったんだぞ?」


「うっ……そ、それは驚いて混乱していたからで……」


「理由はどうでもいい。最初は混乱して色々な事を言っていた、そう思ってもいい。だけどお前はあの時、油断したな、と言ったな? つまり一瞬でも思考は正常に戻っていたはずだ」


「そ、それは……」


「何を考えているかわからないお前を信用は出来ないし、そもそも俺は人間のそう言った腹芸が好きじゃない」


「私の腹はお前専用だ!」


「しっ!」


「黙ってろ。つまり、そう言う事だ。俺の言っている事はわかるか?」


「くぅ……」


 なんとも悔しそうに歯噛みしているが、ひょっとしたらこれも演技かも知れない。

 ルサルカの少女は確かにシャーネを落ち着かせる事に成功したようだがそれも演技じゃないと何故言い切れようか。


 俺はこうして疑心暗鬼になりたくなくて人の世から離れたと言うのに……さっさと出て行って欲しいものだ。


「しゃ、謝罪もする! 誠心誠意謝る! だから頼む。もう一度私に機会をくれ!」


 さて、どうしたものか。


 確かに謝罪は必要だと思う。だがそれを俺が決めていいものかは難しい問題だ。


 俺は軽く精神的な被害を受けた程度だが、アネモネ本人は体も心もやられてしまっている可能性がある。

 俺への不信感や、シャーネへの恐怖。それは謝罪でどうにかなるものなのだろうか?


 何をするにしろアネモネ本人がどうしたいかが重要になってくるのだが、当の本人はこの場には居ない。


 うーん……


 今までとは違い、別の意味で頭が痛くなる内容に思わず唸りが上がる。


「じゃ、じゃあお姉ちゃんが戻ってくるまでシャーネさんには家の建て直しと森の外のお話を聞いては?」


 ルサルカの少女は名案だとばかりに手を叩いている。


 おかしい。この心変わり、そしてルサルカの少女の反応。


 こいつ等……ひょっとして……


「お前達、何企んでるんだ?」


「何も企んでなんてないの!」


「な、何の事かわからないなぁ」


 二人は視線を泳がせ空気が抜けているだけの口笛をシューシュー鳴らしている。


 露骨過ぎる。

 こんなコントみたいな白々しさを出す人間が居る事に驚きだ。


「飯抜きな」


「そんなのは残酷なのー!」





 シャーネを助け出してそのお礼に俺の知らないところで一緒に仲良く飯でも食ってろ。

 そう伝えた時、この世の絶望を詰め込んだとも思える顔をしたルサルカの少女に転身は早かった。


「つまり、このお姉さんはお兄さんが本当に好き見たいなの」


「裏切り者っー!」


「うるさいの。知らない人間より近所のお兄さんなの」


「魔物めー!」


「その通りなの」


「ぐぎぎぎぎっ!」


 こいつらは一体何をしているんだか……


「はぁ……それで、何でそうなったんだ?」


「このお姉さんは変態さんなの」


「知ってる」


「お兄さんのあの「今からお前を三枚に降ろして食ってやる」って言った時みたいな怖い視線が大好きさんなの」


「そんな事言ったっけ」


「言ったの。後、裸を見て綺麗だって言ったのを愛情表現だと勘違いしているの」


「それは勘違いじゃない! 結婚前の女の裸を見て綺麗だと言ったらそれはもう求愛だっ」


「いや、勘違いだ」


「勘違いなの」


「裏切り者っー! 嘘吐きー!」


 だが、確かにシャーネの言う事も一理……あるか?


 てっきり相手が居ると思い込んでいたが、結婚前の婦女子の裸を見るのは問題だ。例え相手が自ら望んで見せたがったとしても。


 そうすると俺は完全に嵌められたと言う事になる。


 そこまでして結婚相手に困っているのか? こんなに美人なのに? 


 うーん……でも性格がこれじゃあな……


「確かに結婚前の裸を見たのは問題だ。だが、お前が見せたがったんだろうが」


「どうだ?」


「綺麗だ」


「大好きっ」


「断る」


「うおおおおん!」


「五月蝿いから泣くな」


「凄く息ぴったりなの」


「どこが!」


「お前は裏切っていなかった」


「都合のいいお姉さんなの……」


「お前が言うな……はぁ……なぁシャーネ」


「なんだ? 婚約の申し出か? 受けた!」


「違う。頼むから帰ってくれないか」


「断る」


「断るな」


「嫌だ! 嫌だ嫌だ!」


 駄々っ子かよ……


 見た目が大きな子供二人と子供な大人が一人。アネモネは可愛いから別として、この森には厄介な種が多すぎないだろうか。


 将来、髪が薄くならないか心配だ……


 こうなればルサルカの少女を信じてシャーネに謝罪してもらって早く帰ってもらうしかないだろう。


 結局、またしても俺が折れる事になるのか。なんと言う無力。不甲斐ない義父を許してくれと、今はどこにいるかわからないアネモネに思いを馳せた。

次の話から数話はアネモネちゃんが主人公になります。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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