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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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三十七.女の事情と情事6

「……さん」


 ん……なんだ? 誰かが呼んでる?


「……に……さん」


 どこかで聞いた事ある声……それに、このスベスベな肌触り……


 意識は少し戻ったが、はっきりとしない。瞼は重く、視界は闇に包まれている。

 それでいて尚顔の正面からかけ続けられる声。頭の後ろにある土ではない肌触り。


「……っは! アネモネッ!」


 急速に現実へと帰還を果たした意識は体をバネのように跳ね飛ばし、同時にゴンッと鈍い音を響かせた。

 年の暮れに百回以上突かれる鐘よりも頭に響いた頭突きは見事、眠気を完全に吹き飛ばす事に成功する。


「いったーい! なのっ!」


「取って付けたような、なのっ! はやめろ」


「むむむ……お兄さん今日は機嫌悪い?」


「あ、いや……申し訳ない。今のは大人げなかった」


 いくら大人だからと言って謝らなくていいわけがない。必要な時にしっかりと謝れるから大人なのである。


「頭、大丈夫か? 見せてみろ」


「へっ……? い、いいいいやっ全然、この程度全然大丈夫なの! ……許可もなしにお兄さんと触れ合ったらお姉さんに何されるかわからないの……」


 大丈夫! と元気よく言った後、何かぶつぶつと呟いていたが声が小さすぎて聞き取る事は出来なかった。

 それでも念のためにルサルカの前髪を持ち上げると額は赤くなっていた。


 心持ち顔も赤い気がする。

 風邪か? とも思ったが、水に浸り続ける彼女達ルサルカは風邪を引いたりするのかと言う根本的な問題の話になる。


 具合が悪そうだったら対処法を聞いて何とかしよう。そう気持ちを切り替えた。


「効くかわからないけど俺も少し薬草を持っていてな。これを張っておきなさい」


 取り出したるはアロエ。

 火傷、切り傷、その他諸々食べる事まで出来るアロエを俺が常備していないはずはない。と言っても瞼やアネモネの首にも使ったので残りは少ないが、そこで出し惜しみするほど冷酷人間ではないつもりだ。


 この世界にもあればいいが、あまり期待はしていない。アネモネに聞いても知らないと言って……いた……し……


「うおおおおお! アネモネェ……アネモネッー!」


「お、お兄さんが男泣きしてるの……そう言えばお姉さんの姿がないけど、今お出掛け中なの?」


 傷に更に傷を付け、そこに塩を塗り込む人を人と思わぬ鬼のような所業に、俺はただ鳴き続けた……





「お兄さん泣き声上げながら涙を流さないなんておかしいの。あれじゃあドラゴンの欠伸なの。泣いていると言うよりただ雄叫びを上げて鳴いていただけなの」


「まったく意味がわからない。確かに泣きたい気分ではあったが、男が涙を見せていいのは娘の晴れ姿だけだ」


「お兄さんの方が意味がわからないの……」


 両手を肩まで上げ、やれやれと言って溜息を吐いたルサルカに意味がわかるまで教え込んでやろうとも思ったが、続けられた言葉にそれは叶わなかった。


「それで、遊びに来たのにお姉さんは一体……」


 胸に突き刺さる言葉のナイフはよく研ぎ澄まされている。


「ぐふっ……やるようになったな」


「いいから教えて欲しいの」


 一丁前にはぁ、と溜息を吐くルサルカの少女。

 元から少しおませさんな奴だとは思っていたが、アネモネがいないと本性が剥き出しだ。


 仕方ない、説明するか……


「かくかくしかじか」


「ふむふむ」


「あれこれあれこれ」


「えぇ……?」


「と言うわけだ。わかったか?」


「全くよくわからなかったけど、よくわからなかったって事がよくわかったの」


「偉いぞ。一つ勉強になったな」


「えへへ、なの……じゃなくて、原因はあそこでずっとこっちを見て喚いている人間なの?」


「……そうだ」


「私が話して見ても大丈夫?」


「話が通じる相手とは思えんが、物は試しって奴だな」


「ありがとうなのっ! そ、それで……あの……」


 ルサルカの少女は突如、顔を赤らめるともじもじとし始めた。


 わかっている。俺は数多の妹物の本を読み込んだ男。

 当然このシチュエーションも理解している。


 だがしかし! これはかなり難しい問題である……俺が本で得た知識によれば、これはトイレに行きたいと言うサインに違いないだろう。


 先程ルサルカの少女は顔が赤かった。つまり風邪を引いている。

 本ではこう言うとき、兄は「大丈夫か? 風呂にも入れなくて体が汗で気持ちが悪いだろう? 拭いてやるよ」と言って緊張に体を振るわせながら汗を拭き、そしてトイレに連れて行くと言う流れだ。


 ここで問題となるのが、俺達は近所のお兄さんと近所の家の娘さんと言うスタイルを取っているだけの赤の他人。そんな事をしてしまうと間違いなく事案発生だ。


 マズい。


 シャーネとの舌戦を終えたと思ったら今度はルサルカからの攻勢に、俺の額からは再び滝のように汗が噴出していた。


「お兄さん……? 大丈夫……?」


「あ、あぁ……大丈夫だ」


 心配するべき立場の俺が、逆に心配されてしまうとは男の恥である。


 覚悟を決めるときが来たか……


 ふぅ、と息を吐き、ルサルカの少女を見つめ直す、少女は両手を広げていた。


「じゃ、じゃああそこまで連れて行って欲しい……の」


 そっちかよ!

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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