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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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三十三.卑劣なスケベ

 二人の口汚い罵り合いは日が暮れても終わる事はなかった。


 痺れを切らした俺は再び頃合を見てそれとなく会話に入る。


「そろそろ落ち着いたらどうだ?」


「くぅぅ……! 身動きがとれないように縛り上げて私に何をするつもりだ!」


「いや、何も――」


「嗚呼! きっと私は下劣で野蛮な人間を騙るこの男に蹂躙されてしまうのかっ! 悔しいっ! もっとしろっ!」


「兄さんはそんな人じゃ――」


「間違いない! そのギラついた目は私の貞操を狙っている目だ!」


「はぁ……」


 自然とため息が出た。

 ダメだ……コイツ話を聞かないタイプの人間だ。しかも話している途中で被せてきやがる。


 継続的に精神的なダメージを負わせてくる女性を尻目に、どうにかしなければと考えているのだが……その間にも女のマシンガントークは止む事がない。


「なにやら下半身が涼しい……まさかっ! 貴様既に私の下着を剥いだな?!」


「ひょっとして……これ?」


 ポケットの中で握り締めた布はほんのり湿っていて変な臭いがしていた。


 もしやと俺はアネモネから貰った布を取り出す。


「それは私のっ! あぁ……申し訳ありませんディリエ王女。私は貴女に全てを捧げましたが、この男に……この男に……!」


「いや、まだ何もしてな――」


「黙れ下郎! まだだと?! ではこれから何かするつもりだったのだな?!」


「違う。話を――」


「さぁ、続きを早くしろ! 私はお前の子を孕むのだな!? 生ませるつもりなのだな!?」


「そんな事しな――」


「はぁ……はぁ……! オークに捕まった女騎士はこうなる運命なのだ……!」


 先ほどよりも興奮し、目を血走らせ鼻息荒く興奮し始める始末。


 頭の中は一体どうなっているのだろうか? あまりの想像力の豊かさに眩暈を覚える。


 俺の事となれば食ってかかるアネモネすらも気が付けば今は外で風呂の準備を始めていた。


 その判断は正しい。


 逃げ出したい。兎に角この空間から一刻も早く。


 そんな気持ちが渦巻いていく。


「な、なぁ――」


「わ、私はこれでも初めてなのだ。優しく、優しくするんだぞ? はぁ……はぁ……!」


 誰か……助けて……





 神に祈ろうが仏に祈ろうが物理的介入に勝るものはない。祈りとは精神の救済に他ならない事を俺は改めて実感した。


 こちらが喋っていないのにも関わらず延々と続いたそれは、妄言と言うよりは妄想が彼女の前にだけ形を現して歩き回っているかのように尽きる事はなく、彼女の中に住まう変態的な性格をした俺は彼女を蹂躙しつくしたらしい。


 女性は突然一際大きな嬌声を上げたかと思うと足をピクピクと痙攣させて鼻血を噴き出して気を失ってしまった。


「兄さん。一体何をされたんですか?」


 鼻血で床を染め上げて意識を失っている女性を突きながらアネモネがやれやれと言った視線を送ってくるが俺は無実だ。指一本触れてはいないし途中からは声を掛けるどころかずっとアネモネが準備してくれている風呂を眺めていた。


「アネモネ、そんなのに触ると穢れるから突くのはやめておきなさい。そして俺は何もしてない、無実だ」


「ふーん……? そうです……きゃっ!」


 俺の注意で突くのを止めて女性から視線を移したとき、突然目を覚ました女性は頭を低くして覗き込んでいたアネモネの頭を腿で挟み込んだ。


「油断したな。この魔物の首を折られたくなければ私の言う事を聞け!」


 なんと言う事だろうか。姿格好からてっきり騎士かそれに準じる高潔な魂を持っていると思っていたが中身はドスケベ変態のただの強盗だった。


 アネモネも油断したからか、それとも首筋を挟み込む腿が苦しいのか表情を曇らせている。


 強盗相手の交渉術などドラマくらいでしか見た事もないが、その度そんな上手く行くかよと突っ込みを入れていた俺が出来るわけがない。


 となれば取れる手段は一つ。


 殺られる前に殺る。――これしかない。


 壁に立てかけてあった弓を手にして矢を継がえると、自分でも恐ろしいと思える弓のしなりがギチチチ! と鳴る。


「お、おい! 何をしている!」


 こちらの出方を窺っていたのか、それとも自分の実力に相当自身があるのか。準備が出来るまで呆然と俺の事を見ていた女性が何をしているのかと尋ねてきた。


 冥途の土産と言う奴だ。素直に答えるとしようじゃないか。


「今からお前の頭をぶち抜くんだよ。これ以上アネモネに危害を加える時間すら与えん」


 これは自慢だが、魔改造弓の初速は普通の弓の比ではない。

 普通の弓でも放たれた瞬間はかなり早いが、この弓で放った場合は音速を超えてソニックブームが巻き起こる。つまり目で捉える事は実質不可能に近い。


 狩人の勘、とでも言うのだろうか。矢を放った時や獲物を前に、猟銃の引き金に指を掛けた時、中ると言う確信が沸く。

 それと同様に女性がアネモネの首を折るために力を入れるよりも早く頭を吹き飛ばせると確信している。


 今か今かと弓がギチギチと舌なめずりをしている。


 だが、それに待ったをかける者が居た。


「ダメです兄さん!」


「お、おい。話を――」


「強盗は黙っていろ。……安心しろアネモネ。必ず助けるからな」


 強盗は私を差し置くなと声を上げるが一々相手にしているわけには行かない。


 アネモネは必ず助ける。これは決定事項だ。であれば助けた後の事を考えるとここでアネモネの言葉を聞き届けないほうが俺にとっては問題となる。


 強盗の抗議を一蹴し、アネモネの次の言葉を待った。


「兄さんが私を心配してくれているのはわかります……ですが! 家の中でその弓を使ったら全て吹き飛んでしまいますよ!」


 なんて事だ……強盗が人質に取ったのはアネモネのみならず、俺達の住むボロ家すらも盾にしていたと言うのか……


「この卑怯者め!」


 俺は卑劣な女に怒りを滾らせた。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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