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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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三十二.金髪の女と生き様

「この人、どうしたの?」


「皮を集めてたら見つけたんです。その時には気を失っていたので、放っておくのも可哀想かと思って」


「人助けをしたんだな。偉いぞ」


「えへへ」


 よしよしと頭を撫でると可愛らしく笑うアネモネ。


 まさか人を拾ってくるとは思わなかったが。


「じゃあこの布は?」


「この人の近くに落ちてました。多分落とし物です。森で落とした物は誰の所有物でもないので」


「確かにそうだな。でも落とし主かも知れない人がここにいるんだから、とりあえず目を覚ましたら聞いてみよう」


「はい……」


「俺は気持ちだけで十分嬉しいよ。ありがとう」


「兄さん……」


 うるっと瞳を潤ませたアネモネにお礼を伝える。

 俺が話しかけたせいで止まった手を再び動かして繭が解体されていくと女性の全貌が明らかとなる。


 女性は全身を鎧で包んでいた。

 体のラインを象った胸当て、下半身はスカート型の所謂ドレススカート。

 胸の中央には紋章のようなレリーフが入っており他にも鎧には全体的に意味があるとは思えない豪華な彫刻も施されている。


 腰に差された剣は細身で刀とは違う、西洋剣と言う奴だ。


 これまたブレードからグリップにかけて見事な彫刻が施されているが実用性はないように見える。耐久性が心配な剣だが俺が心配しても意味のないことだろう。


「これは……冒険者?」


「なのでしょうか? 知識としては冒険者を知っていますが人間の区別はつきませんからので」


「確かにわからないよな。それじゃあ起きたらこれも本人に聞いて見るしかないか」


「そうですね」


「それじゃ、遅い昼食にしようか」


「はい。今日は山菜を見つけたので摘んで来ました」


「アネモネはしっかりものだな。いつも助かるよ」


「んふふー。兄さんは私が居ないとダメですねっ」


「本当にな」


 眠り続ける女性が目を覚ました時、暴れ出しても困るので手足だけ縛り直して床に転がすと俺達は川辺で寛ぎながら山菜と木の実を齧り、二人で空を眺めてのんびりと過ごした。





「んあっ」


 どうやら寝てしまったらしい。

 俺はアネモネに背後から抱きかかえられる形で眠っていた。


 今日は何か美味しい物でも食べている夢を見ているのか、俺の頭の上に乗っかっているアネモネの口からはいつもの様に涎が垂れているのを髪の湿りから感じた。


 だが、もう日も暮れ始めている。

 起こすのは忍びないが、我が家のお姫様を起こすべく声をかけた。


「アネモネ」


「んむ……」


「アネモネ、もう日が暮れるぞ」


「ふあ……」


「おはよう」


「あ……兄さん……おはようございます……」


 結んでいた腕を離し、寝ぼけ眼をくしくしと擦るアネモネの意識はまだ微睡んでいる。


 本当なら背負って家に運んでやりたいところだが蜘蛛の下半身は結構大きい。持ち上げる事くらいなら出来そうだが面積的にどうしても足を引きずる事になるのでそうも行かないのがなんとも歯痒い。


 固まった体をコキッと小気味良く鳴らしてアネモネの頭をポンと撫でる。


「それじゃあ、帰るか」


「はい」


 そう言って後ろを振り返ると、外でも中でも変わらない大穴の開いた家が俺達の視界に飛び込んできた。


「……どこでも一緒だな」


「……そうですね」


 今日は、やけに風が寒く感じる日だった。





 家に入ると女性は目を覚ましていた。


「んんー! んんー!」


 ふがふがと女性は荒い息をしながら床をのたうっている。


「ん?」


「兄さん、苦しいのでは?」


「あぁ、そっか。でも口しか塞いでないのになんで苦しがってるんだ?」


「この興奮のしようでは……」


 床に転がされた女性は陸地に打ち上げられた魚の如く体をくねらせ、ドッタンドッタンと暴れるせいで今にも床が抜けそうだ。

 美しい金髪はバサリと乱れ、見開かれた翡翠色の瞳は俺達を射殺さんばかりに睨みつけて充血している。


 美人が台無しだ。


 その美貌故に恐ろしさも倍増だがこのまま放って置くわけにも行かない。念の為に武器は没収してあるがやろうと思えば噛み付いたり体当たりしたりとやりようはある。


 一歩踏み出す度に呻き声を出しながら威圧してくる女性の圧に少々たじろいでしまうが意を決して近づくと口に巻かれた糸を引き千切った。


「ぷはっ! 女を力尽くで組み伏せ、更には敵の……魔物の情けを受けるなど! くっ、殺せ!」


 相当苦しかったのか、大きく息を吸い込んで呼吸を一瞬で整えるとそんな事を言いながら体を反転させ俺の腹を蹴り飛ばした。


 蹴られた腹はあまり痛くはなかったのだが、思わず反動で尻餅を突いた。


 この女性は戦い慣れている。やはりアネモネに頼まなくてよかった。


「死にたいなら俺達の知らないところでしてほしいんだが……」


「なんだと? このオークめ!」


「なっ! 兄さんをあんな下劣なオークと一緒にしないでください!」


 有無を言わせぬ迫力で女性は俺をオークとのたまった。


 俺はオークに見えるのだろうか?ちょっと……いや、かなりショックだ。


 そんな事を考えている間にも本人を置き去りに二人はヒートアップしている。


「兄さんに謝罪しなさい! 兄さんのどこがオークですか! それに兄さんを足蹴にして!」


「ふん。魔物に謝る口は持ち合わせていない!」


 ああ言えばこう言う。


 二人の話は平行線を辿り、お互いに剥き出しの感情をぶつけ合うだけぶつけ合って怒りに震えるアネモネと、逆に冷静さを取り戻して行く女性では、女性の方が一枚上手だろう。


 こんな時こそ保護者の実力が試される。


 俺は白熱する二人の会話にそれとなく忍びこんだ。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」


「兄さんは黙ってて下さい!」


「貴様は黙っていろ!」


「はい……」


 ……いつの世、どこの世界でも女同士の戦いの前に男は無力に成り下がるしかない。


 二人が落ち着くまで俺は独り寂しく壁の穴から外を眺め続けた。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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