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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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三十.狸寝入りは災いの元

 俺とアネモネの朝は遅い。


 と言うのは冗談だ。普段はそれなりに早いのだがルサルカ族の少女を送り届て帰ってきた後、汗を流すとアネモネに御伽噺を聞かせた。


 そこまでは良かった。


 問題はストーリーの内容をアネモネがあまりに真剣に考えてしまったことだろう。


 作物が巨大になる魔法は何て魔法なのか、服を作り出す魔法は、そもそも0時とは何か等々。怒涛の如く押し寄せる質問の波に俺は子供はどうやって生まれるのかと聞かれた親の気持ちを理解した。

 その問いへの解答は鳥が運んでくると言うのが親の流儀であるが、俺にそこまでの想像力はない。だからと言って「俺は疲れているんだ」なんて家庭崩壊ワードを使うわけにも行かず、かと言って大人になればわかるなんて言うのもアネモネには逆効果。


 困り果てた俺がとった行動……それは、素直に俺もわからないと伝える事だった。


 この世界には時間と言う概念がないのか、それともアネモネ達は気にしたことがないだけなのか。学者ではないので時間の概念について説明する事も出来ず、魔法と言うものもあまり知らない俺は無力だ。

 不甲斐なさを噛み締めながらこっそりと涙でベッドを濡らし、アネモネにバレない事を祈った。そして気が付けば昼だったと言うわけだ。


 そんなアネモネは何事もなかったかのようにいつもの如く俺とベッドを抱きかかえるようにがっちりとホールドを決めて胸の上で涎を垂らして眠っている。


 ルサルカ族の少女にお姉さんしていたのですっかり成長したのかと思っていたが、まだまだ好奇心旺盛なところや寝顔はまだまだ子供を感じさせる。


 サラサラと流れる黒髪を起こさないよう気をつけながら撫でる。


 不思議な事に家の周囲には鳥の囀りがないので、所謂朝チュンと言う奴はないが代わりにアネモネの涎による朝ネチョがあるので問題ない。


 しばらくぼんやりとアネモネを撫でていると、「んぅ……」と小さく呻いてアネモネは目を覚ました。


 ここで気をつけなければいけないのは俺がアネモネより早く目を覚ましてその寝顔を見てしまうと天井に貼り付けられてしまう事だろう。


 なので俺はすぐさま手を引っ込めると何事もなかったかのように四肢を放り出して狸寝入りを決め込んだ。


「ん……ふぁ……昨晩はつい兄さんにいっぱい甘えてしまいました……恥ずかしい……!」


 甘えた……? 俺はただ過去の偉人が創った御伽噺を聞かせただけ。それに質問にも全く答えられなかった訳だし……思い出すだけで不甲斐なくて涙が零れそうだ。


 そんな事を思いながら狸寝入りしている事に気付いていないのか、アネモネは尚も一人言を続けている。


「それにしても、兄さんは本当にお寝坊さんですね。えい、えいっ。ふふ、兄さんっ」


 楽しそうにツンツンと頬を突かれるが、熊と遭遇して死んだふりをするのとは訳が違う。


 突かれたときの自然な体捌きはどうしたらいい?! 下手に力んでいると狸寝入りがバレてしまう!


 内心、大量の冷や汗をかきながら俺は固く目を閉じアネモネの蹂躙劇の前に抗う事もなく身を任せる。


「はぁぁ……兄さん……寝顔も素敵です……って、何言わせるんですかっ。この、このっ」


 あくまで俺を起こさないようにしているのか、小声ではあるがアネモネの顔の気配はすぐ近くに感じる。恐らく覗きこんでいるのだろう。頬を突くのを止め、今度は眉間の辺りを軽く突き、満足したのか次は俺を笑わせようと口角の両端をグイッと指で突きあげる。


 あまりに可愛らしいアネモネの悪戯に俺は笑いを堪える事が出来なかった。


「ふはっ……あ……」


「……にい、さん? ひょっとして?」


「え? あ、いや……その」


 目を開くとアネモネは長い髪を垂らして顔を隠していた。その両肩はプルプルと震えている。


 ヤバイ、来る!


 本能がそう警鐘を鳴らすよりも早く、アネモネは俺を吹き飛ばす。


「兄さんのぉ……スケベェー!」


「アッー!」


 蜘蛛足の四本で器用にベッドと俺を抱え上げ、抵抗する間もなく家の壁をぶち抜いて外まで投げ飛ばされた。


 まるで暴風(ハリケーン)


 壁とベッドは見事に破壊されて藻屑となり、俺は勢いで川へと突っ込んだ。





 俺とアネモネは大穴の開いた家の壁を見つめている。ベッドは濡れた体を温める薪にして今はすぐ後ろでパチリパチリと音を鳴らしている。

 

「さて、どうしようか」


「うぅ……ごめんなさい……」


「いや、狸寝入りしてた俺も悪かった」


「でも……!」


「よしよし、気にするな」


 今にも泣き出しそうな顔をして項垂れている頭を抱き締め軽く撫でると、アネモネは耳元でスンスンと鼻を鳴らした。

 

 元を正せば俺が狸寝入りをしていたのが悪い……のかも知れないし、アネモネを責めるつもりもその気も毛頭ない。


「とりあえず、体を拭く木の皮を取って来てもらえるか?」


「はい……」


 昨晩風呂に入った時に布代わりの皮がなくなったと聞いていたので良い機会だと思ったのだがトボトボと森へ向かうアネモネの背を見ていると失敗したかと不安になる。


 ひょっとしたら俺が怒っていて、近くに居て欲しくないから皮を取ってきてくれと言ったのだと思われてしまったか?


「アネモネ――!」


 思い返して声を上げたがそこにアネモネの姿はなかった。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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