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魔物な娘と過ごす異世界生活  作者: 世見人白洲
本編.第一章 異質な兄妹
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二十九.ルサルカは寂しい7

 アネモネとの話し合いも終わり川辺に向かうと少女は魚捕獲用のネットにもたれ掛かって寛いでいた。


 意外と図太い神経を持っている。


 日が当たるからか、それともこれからの事を考えているのか。空を眺めてぼんやりとしている少女に話かけた。


「じゃあ送っていくけど、いいな?」


「あう……どうしても帰らないと、ダメ?」


「ちょっと出かけてくるって出てきたわけじゃなくて流されてきたんだろ? きっと心配してるぞ?」


「うぅ……」


「そうですよ。私も兄さんがどこかに行ってしまったらと思うと……」


「思うと?」


「なの?」


「っ~! 何言わせるんですかっ」


「えぇ……?」


「お姉さんは照れ屋さんなの」


「もう知りません!」


 プリプリと怒っているように見えるが少女の言う通りこれは照れ隠し。


 アネモネは裏表がわかりやすい。


 本当に嫌っている場合はオーク君の時のように対人関係を結ぶ事すら行わず、非常に辛辣な塩対応をとる。こうして照れているところを見られても問題ないと言う事は恐らく二人は昨晩、俺が気を失っている間にでも和解したのだろう。


 今も本当の姉妹のように仲良く……している。


「いいですか? 通うのは構いません。でも、兄さんと私の間に割って入ってはいけませんよ?」


「なの?」


「そうなのです」


「じゃあ、たまには……?」


「たまに、本当にたまになら……いえ、でも……」


「ダメ……?」


「たまに、ですよ?」


「ありがとうなの!」


「本当にたまにですからね!」


 おねだり上手な妹? に押し負けて俺のやり取りをしている。無論、俺は許可した覚えはないとだけ言っておこう。





 少女は川を泳いで案内してくれるのかと思いきや、早速俺の貸し出しを頼み抱っこをせがんだ。激戦の末、アネモネの許可が下りた事でお姫様抱っこと言うものをしている。決め手は「たまにしかお兄さんを貸りれないから今お願いしますなの」だった。相変わらずアネモネはチョロい……


 朝飯にキノコをたらふく食べたからか元気いっぱいな少女の案内に従って住処を目指すべく川沿いを歩く。


「あっちなのー! あっちあっち!」


「わかったわかった」


「ツーン」


 アネモネは少女を抱っこしてからと言うもの、臍を曲げてしまっている。だからと言って降ろそうものなら今度は少女が臍を曲げてしまう。あちらを立てればこちらが立たず。仲良くやって欲しいのが本音だが恐らく俺が言ってもムキになってしまうだろう。なので少女にこっそりと目配せをすると少女は察したように頷いた。


「お姉さん、機嫌直してなの? 私が帰ったらお姉さんはお兄さんを独り占めなのっ」


「ゴクリ……独り占め……そ、そうですね。しょうがないですね、まったく……」


 そう言って一つ溜息を吐くと後ろを歩いていたアネモネは速度を上げて横に並んだ。背後から感じていた圧迫感はなくなり、険が抜けて普段の穏やかさが戻ったのだが独り占めなんて甘いワードに乗せられてしまう相変わらずのチョロさに俺は少しだけアネモネの将来が不安になってしまう。


 まぁ、それもまたアネモネの可愛い所なのだが。


 ともあれ元の調子を取り戻した事で少女も積極的にコミュニケーションを図っている。アネモネもアネモネで先程とは打って変わってお姉さんをし始め、あれやこれやと甲斐甲斐しく世話を焼いているので問題はない。


 川辺に生えている食べれるものや注意しなければならないものを教えている姿は何とも微笑ましい。


「これは食べれますよ。あ、でもちゃんと焼かないとダメですからね? いいですね?」


「はいなの!」


「火を触ってはいけませんよ?」


「お兄さんにも叱られたから大丈夫なの!」


「約束の約束ですよ? 火は怖いものですから」


「はいなの。約束なの!」


 食べれると教えている食材だが今まで食卓にならんだ事がないものばかりだ。二人の会話を微笑ましく見守りながら俺もアネモネの食材講座を耳を傾ける。


 青々と生い茂るアイアンウッドに遮られ、日の光が入り込まない森の中は二人の楽しそうな声だけが木霊している。


 そんな折、突然少女が声を上げた。


「もうそろそろなの!」


 食材講座に集中していたからか、いつの間にか目的地の近くまで来ていたようだ。


 どこまでも木が生え並ぶだけの景色は今まで見てきたものと変わりないが少女からしたら何か目印になるようなものでもあるのだろう。


「お兄さん、ありがとうなの。ここからは川を上って行くからもう大丈夫なの。本当は私のお家も見て欲しいけど……多分、危ないの。ごめんなさいなの」


「そうか。気にしなくていい」


「そうですね。……兄さんには毒なので」


「ん? アネモネ何か言ったか?」


「いえ、何も?」


「……お姉さんも苦労するの」


「しー、ですよ?」


「はいなのっ! じゃあ、二人ともありがとうなのー!」


 バシャッと川の水を蹴り上げ、凄い早さで川を泳ぎ始めた少女の背中に言い忘れた事を叫ぶ。


「アネモネと遊ぶときは勝手に抜け出してくるなよー。ちゃんと説明して了承を得てからだからなー!」


 そう叫ぶと泳いでいた少女はビクッと反応し、一瞬動きが止まった。


「絶対やめろよ!」


 これは振りではない。


 兎も角、少女は最後に手を振ると流れに逆らい帰って行く。その背中が見えなくなるまで見送ると隣に居たアネモネは少し残念そうな声を出した。


「行っちゃいましたね……」


「そうだな」


 少しだけ寂しそうな顔をしているアネモネの頭を撫でる。


「兄さん?」


「またすぐ遊びに来るさ」


「そう、ですね」


「じゃあ俺達も帰ろうか」


 踵を返して来た道を戻る。だがアネモネはその場から動かなかった。

 振りかえると依然としてアネモネはその場に留まっている。


「どうした?」


「あ、あの……」


「ん?」


「手……手を繋いでくだっしゃい! ……噛んじゃった」


 耳まで真っ赤にして俯いたアネモネは叫ぶように手を繋いで欲しいとお願いした。勿論俺がこの申し出を断る事はない。


 それにしても突然どうしたんだろうか? 少女が居たのは一日程度だが何か思うことでもあったか? 自信なさげに伸ばされた手は緊張からか、それとも気恥ずかしさからか、はたまた噛んでしまった事が恥ずかしいのか。微妙に震えていた。


 俺はアネモネの元へと戻ると伸ばされた手をきゅっと結ぶ。


 小さな手から体温が手を通してじわりと伝わってくる。


「さぁ、帰ろうか?」


「っ~! はい、兄さんっ!」


 パァッと薄暗い森を照らすような笑顔を咲かせたアネモネ。

 時折キュッキュッと確かめるように握り返される手の感触を確かめながら俺達は川沿いに来た道を帰った。

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新作短編です。宜しければ読んで頂けると嬉しいです
おっさんずスティグマ―年齢の刻印―
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