二.出会い
俺とアネモネの出会いは本当に偶然だった。
異世界に迷い込んだ俺は現状を確認するために愛用の和弓を抱えて森の中を飛び回った。
走り回ってはいない。男の浪漫とも言える木々を飛び移る忍者移動をしていた。
そんな折、飛び乗った木を大きく揺らしてしまい、上から落ちてきたのがアネモネの卵。
それは真っ黒で妙にテカテカとしており押すとブニッとゴムのような弾力があった。大きさはバランスボール程。いい退屈しのぎになるかもと思い持ち帰ってから数日、磨いたり抱いて寝ていたりした。
持ち帰って五日程経った頃だろうか。木の蔓を使ったハンモックに寝ていた俺はやけにバランスが取りにくくなり、寝苦しさを覚え目を覚ました。体を縛られたような窮屈感は気持ちが悪く、目を開けると小さな女の子の頭が俺の呼吸に合わせて上下していたのは驚いたものだ。
蟹のような六本ある足はガッチリと下半身をホールドし、驚いた俺はハンモックから落下。衝撃で目を覚ましたアネモネと邂逅を果たし現在の共同生活が始まったのだが……
あれ? 待てよ?
「思い返して見ると、俺って窃盗犯じゃない? アラクネ族キレてない? 大丈夫かな?」
「どうでしょう?」
顎に指を沿えて、んーと考える仕草を見せるアネモネは可愛い。だがそれ以上にひょっとしなくても結果的に卵を盗んでしまった自分の良心の呵責が…
「アラクネの集落とかあるのかな。探しに行って来る」
「ダメです!」
グサッ
「あの、足刺さってるんですけど……」
正面からフェイ○ハガーのようにべったりと抱きかかえるようにホールドされたのだが、六つの金属のように固く先端が尖っている足が背中に刺さった。
子供故なのか、それとも隙を見て俺を亡き者にしようとしているのか。蜘蛛はオスを食べると言うし……
「俺は筋ばっかりで美味しくないぞ」
「え? 何を言っているんですか?」
「気にするな」
「はぁ。そうですか?」
ぽけっと呆けた顔も中々可愛い。可愛いが背中が痛い。様子を見るに、絶対に行かせないと力んだ結果なのだろう。だが力みすぎだ。
「アネモネ」
「なんですか?」
「力みすぎ。尻から糸が出てる」
「っ~! ハレンチ!」
バシィ!
「解せん」
「兄さんはデリカシーがなさ過ぎです」
「すみません。引き篭りなんで」
「森から出られませんしね」
「そうだね。俺は静かに暮らせたらそれでいいよ」
「……」
「どうした?」
「私が居たら……迷惑、ですか?」
「っ~! そんな訳ないだろ! チュッチュッ!」
「あ、そう言うのはいいので」
「解せん」